報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「The ghost of witch.」

2015-12-01 19:44:48 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[期日不明 時刻不明 スターオーシャン号・船長室 稲生勇太&サンモンド・ゲートウェイズ]

「やあ、また来てくれたね」
「また来たじゃないですよ!」
 稲生はジェシカの姿をした“魔の者”から逃げ回るうち、廊下の壁に天の川のレリーフを見つけた。
 それでサンモンドの本をかざして、姉妹船に逃げ込んだわけだ。
「これじゃ、まるで僕がイリーナ先生の言い付けを破ったみたいじゃないですか!」
「何を勘違いしているのか分からないが、私は何もしていないよ?」
「ええっ?」
「キミを再びの船旅に誘ったのは、“魔の者”だ。キミは既に、“魔の者”の次のターゲットになったようだね」
「そ、そんな……!」
「いつまでも逃げ回っていては、何も解決しないよ。キミも魔道師の端くれ。戦ってみてはどうかね?」
「戦うも何も、まだロクに魔法を教わったわけじゃないし、武器も無いし……」
 弟子入りの際、イリーナから見習用のローブや杖をもらったが、それは今ここには無い。
「ふむ……。それでは、キミに渡した宝石を返してもらおうか」
「えっ?」
「代わりに、武器となるものをあげよう」
 稲生が“魔の者”の力を祓う石の代わりに受け取ったのは、見たことのある瓶だった。
 それに水が蓄えられている。
「……これは、聖水?」
「そうだ。これを知っているということは、使い方も知っているな?これもまた“魔の者”に振り掛ければ、追跡を一時的にだが食い止めることができるし、自分で飲んでも体力を回復させることができる。これの方が、今のキミには必要だったかな?フフフフフ……」
「イリーナ先生とは、一体どういう関係で?」
「まあ、確かに知り合いではあった。私は今でこそ魔道師をやってはいるが、その前、一介の人間だった頃は船乗りをしていてね」
「えっ?」
「魔道師になっても、船乗りのスキルは捨てられなかったということだ」
「まさか、この船も魔法の……?」
「そうだ。……と、言いたいところだが、若干違う」
「違う?」
「厳密に言えば、私は雇われ船長なんだ」
「雇われ?誰に?」
「誰……というか、あの世とこの世を結ぶ公共交通機関を運営する公社といったところかな?」
「冥界鉄道!?何で鉄道会社が船を!?」
「その質問は愚問だよ。稲生勇太君。キミも鉄オタなら、知っているだろう?青函航路を運行していたのは、どこの組織だ?」
「……あっ!?」
 正に、日本国有鉄道の直営であった。
「今で言うなら、福岡と釜山の間を運行している船の中に、鉄道会社は無かったかな?」
「JR九州高速船……」
「星界……もとい、正解だ。つまり、冥鉄も同じような仕事をしている部署があるということだよ」
「あなたが……。こういう大きな船の船長さんをしているということは……」
「一応、常務執行役員をやらせてもらってはいるが、まあ、大したことではない。私はこの船の船長であると同時に、役員として複数の船の管理も任されている。そのうちの1つが、クイーン・アッツァー号だ」
「そうだったんですか」
「“魔の者”に乗っ取られ、漂流を続けているあの船を救ってほしい。成功報酬は、約束しよう」
「何で僕が……?」
「前回、“魔の者”との戦いで、キミがさしたる活躍をしてくれたからだよ。あいにくと、イリーナやマリアンナでは太刀打ちできないだろう」
「そ、そんな……!イリーナ先生は強いですよ!マリアさんも……!」
 しかし、サンモンドは静かに首を横に振った。
「冷静になって考えなさい。簡単に“魔の者”の根城に監禁されてしまったイリーナ、キミの働きが無ければとっくに心臓を抉り出されていたマリアンナが、今回こそ勝てる根拠があるのかい?」
「そ、それは……。で、でも……僕だって、藤谷班長と一緒に戦えたから……」
「何だったら、その藤谷君もあの船に呼んでみるかい?」
「い、いえ、そんなことは……!」
「結論として、キミが1人で戦うしか無いと思うのだがね?もちろん、私もできる限りのサポートをしよう。これを見なさい」
 サンモンドは水晶板を稲生に見せた。
 水晶球を平べったく伸ばした感じのもの。
 それがモニターのように、何かを映し出した。
 それは、船内カジノや医務室の前の廊下だった。
「これは、このスターオーシャン号の内部の映像だ」
「明るいですね」
「スターオーシャン号の照明スイッチは故障していないからな」
 サンモンドは机の上の電話を取った。
 そして、どこかにダイヤルする。
「……あー、私だ。船内カジノ前の照明スイッチ、“星”の方を切ってくれ」
 すると、画面が暗くなる。
「?」
 画面にはスイッチが映っているのだが、そこには誰もいなかった。
「キミが向こうの船で探している、別のスイッチを切ったものだ」
「それはどこにあるんですか?」
 すると、サンモンドは画面を切り替えた。
 今度は同じ廊下の別の場所が映る。
 両側の壁に、北斗七星やカシオペアの絵が書いてあった。
「この光っている星座の星をよく見てみなさい」
「……?」
「何かに気づかないかい?」
「……あっ!」
「それが答えだ。さあ、話は一旦ここまでしよう。またソウルピースを集めたら、私の所へ来なさい。待っているよ」

[期日不明 時刻不明 クイーン・アッツァー号・船内カジノ前廊下 稲生勇太]

 気が付くと、薄暗い廊下の前にいた。
「見ィつけたぁぁぁぁぁぁぁ……!うふふふふふふふふふふ……!」
「!?」
 ジェシカの姿をした“魔の者”に見つかり、不気味な笑いを浮かべて迫って来た。
「くっ……!」
 稲生は先ほどサンモンド船長からもらった聖水入りの瓶を取り出すと、それを“魔の者”に向かって振り掛けた。
「きゃあああああっ!熱いぃっ!あ゛づい゛よぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛っ!」
 “魔の者”は顔を覆って、のたうち回る。
 稲生は今のうちに、星座の浮かぶ壁に向かった。
 案の定、北斗七星で、一個だけ星が点灯していない部分がある。
「ゆ゛る゛さな゛ぁぁぁぁい!!」
 早くも復活した“魔の者”が稲生を追い掛けて来る。
 稲生は点灯していない星を押した。
 すると、星が点灯しただけではなく、廊下の照明も点灯した。
「き゛ゃあ゛あああああっ!眩しいぃぃぃぃぃっ!!」
 “魔の者”は断末魔にも似た叫び声を上げて消えた。
 もっとも、これで倒したとは思えない。
 また暗闇のある部分では、現れて稲生を襲おうとするだろう。
 だが、取りあえずこれで一安心である。
「ん?」
 カジノの前に戻ると、ちょうど支配人が顔を出したところだった。
「おや?照明が点きましたな?」
「ええ。何とかスイッチの位置が分かりましたので」
「それはそれは……。あ、よろしかったら、只今よりオープン致しますので、いかがでしょうか?」
「はあ……」
「お預かりしたコインは95枚。あと、一息ですよ?」
「そうですね」
 稲生はカジノに入ることにした。
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“大魔道師の弟子” 「再びの幽霊船へ」

2015-12-01 10:35:01 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[期日不明21:35(または09:35).クイーン・アッツァー号・医務室 稲生勇太&船医]

 病院の診察室と思われる部屋。
 そこで医師が座る椅子に座っているのは、クイーン・アッツァー号の船橋区画で見た船員達の幽霊とよく似た姿をしていた者だった。
「キミは、この医務室の前で倒れていたのだよ。まあ、大したケガは無い。安心しなさい」
「あの、あなたは……?」
「私は、このクイーン・アッツァー号の医務室で船医を務めている者だ。もっとも……死んだ医者が生きている患者を診るという、滑稽な話だがね」
(やっぱり……!)
 稲生は強制的にこの船に連れ戻されてしまったのだ。
「ああ、そうそう。キミの荷物は、そこのロッカーの中に入れてある。忘れないように」
「は、はい。(荷物?)」
 ロッカーを開けると、そこには船橋区画で手に入れたものが入っていた。
「先生が僕を見つけた時、他に誰かいませんでしたか?」
「いや……?キミ1人だけだったが……」
「そうですか……。先生はどうして、ここに幽霊として残っているんですか?」
「さあな……。ただ、私は時間に正確な男でね。まだこの時間は診察時間だから、いつ来るやもしれない患者のことは放っておけないということかな。実際、キミがいたわけだし」
「そうですか」
 船医が壁掛け時計を見た。
 アナログ時計なので、これが午前なのか午後なのか分からない。
 医務室には窓が無いので、外の様子も分からないのだ。
 もっとも、いくら豪華客船の医務室とはいえ、急患以外の通常の対応は昼だけであろう。
 実際、医務室内の貼り紙を見ると、通常の診察時間は9時から17時までとなっていた。
 町の開業医よりも短い診察時間だが、大病院の診察時間としてなら妥当か。
 ということは、今は午前9時台なのだ。
(この先生も、ソウルピースを持っているんだろうか……?)
 と、稲生は思った。
 “魔の者”に殺された上、未だこの世に留まり続けるというのは哀れでならない。
「それじゃ、お世話になりました。失礼します」
「ああ。気をつけてな」
 稲生が外に出ると、そこは暗い廊下だった。
 様子からして、船橋区画ではない。
 客室エリア……というわけでもなさそうだ。

 少し歩くと、
「うふふふふふふふふ……」
「わっ!?」
 ジェシカの姿をした“魔の者”が廊下に先に現れた。
「スイッチ!スイッチ!」
 稲生は廊下の照明のスイッチを見つけると、急いでスイッチを入れた。
 が、
「あ、あれ!?何で点かないんだ!?」
 カチカチとスイッチを何度も操作するが、照明が点かない。
「はははははははははは!」
「うわあっ!?」
 ジェシカの姿をした“魔の者”は、魔法の杖を稲生に向けて、稲生を天井にぶつけたり、床に叩き付けたりと、やりたい放題だ。
 それでも1度魔法を使うと、次の魔法までタイムラグがあるのが弱点だ。
 ジェシカやマリアまでの魔道師だと、それが限界。
 威吹もそれに気づいて、マリアと勝ったことがあることを思い出した。
 イリーナくらいの熟練者になると、1度魔法を使っている最中に、もう次の魔法の準備ができるらしく、そうすることでタイムラグが出ないようにできる。
 稲生は手近な部屋に飛び込んだ。

[期日不明 時刻不明 船内カジノ 稲生勇太]

 飛び込んでみると、ジャズのBGMの流れた明るい部屋だった。
「ようこそ。カジノ“アッツァー”へ。私、支配人を務めさせて頂いている者です」
 その支配人も、奥にいるディーラーも人影の姿をした幽霊だった。
「説明は……いりますか?」
「え、ええ……」
 この明るい部屋に、“魔の者”は入って来れない。
 それはさっきの医務室もそうだったらしい。
 しばらく、ここで待機しておこうと思った。
 支配人の説明によると、この船内カジノにはルーレットとスロットマシーン、そしてブラックジャックがあるらしい。
 しかし、ブラックジャックをやるには、条件があるようだ。
「……まず、最初の元手としてコインを5枚差し上げます。100枚以上溜まりましたら、彼女と勝負することができますよ〜」
 ブラックジャックを行う台には、その台の上に腰掛け、足を組んで稲生を見る幽霊がいた。
 彼女、と支配人が言うからには、女性ディーラーなのだろう。
 ディーラーにしては、随分と不遜な態度のようだ。
 影なので顔は分からないが、稲生を値踏みしているかのようにも見える。
「では、どうぞ。御存分にお楽しみください」
「はあ……。あ、そうだ。支配人さん」
「何でございますか?」
「廊下の電気が点かないんですけど、何か知ってます?」
「廊下の照明で、ございますか?……ああ。そういえば、スイッチが故障したままになってますね。修理をする前に化け物が襲ってきたので、そのままになっておりました」
「直している暇は無いな……。他にスイッチは無いんですか?」
「確か、もう1つ廊下には、スイッチがあると聞いたことがありますよ。お探しになってはいかがですかな?フフフフフ……」
「うーむ……」
 とはいえ、もう少し時間を潰す必要があった。

 稲生は取りあえず、スロットマシーンをやることにした。
 持ち前の福運のせいだろうか、スロットマシーンだけでコインを80枚溜めることができた。
 その後は一進一退を繰り返したので、ここが潮時だろうと思い、今度はルーレットをやることにした。
「いらっしゃいませ。ゲームに参加なさいますか?」
「はい」
 ルーレット担当のディーラーは、声からして若い男性。
 それでもまあ、稲生より年上だったのだろう。
 それにしても、どうしてここのカジノのスタッフ達は幽霊になってしまったのだろう?
「それでは幸運を」

 こちらでも一進一退を繰り返し、つい夢中でやってしまっても、コインが95枚までしかならなかった。
 しかも、
「お客様」
 支配人から声を掛けられた。
「お楽しみの最中申し訳ありませんが、まもなく閉店時間です。コインはお預かり致しますので、本日のところはお引き取りください」
「えっ、もう!?」
「はい。次回はお昼の12時からオープン致しますので、またのお越しをお待ちしてございます」
「と、いうことは……!?もしかして……!?もしかすると……!?」

「うふふふふふふ……!逃がさなぁぁぁぁい……!」
「もしかしたよ、もーうっ!!」
 閉店時間でカジノを追い出された稲生を、ジェシカはしっかり待ち受けていた。

 稲生の受難は、もう少し続くようである。
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