報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「東京紀行・前日」

2015-12-26 19:44:29 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月26日15:08.天候:曇 JR信濃大町駅に停車中のE127系先頭車内 稲生勇太&マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

〔ピンポーン♪ ご案内致します。この電車は大糸線下り、各駅停車の南小谷行き、ワンマンカーです。これから先、北大町、信濃木崎、稲尾の順に、各駅に停車致します。まもなく発車致します〕

 雪景色の広がる車窓。
 先週乗車した冥鉄列車のように、ボックスシートに向かい合って座る魔道師の男女がいた。
 進行方向向きの窓側に座るマリアは久しぶりに縁の無い眼鏡を掛けて、大師匠ダンテの著した魔道書を読んでいる。
 着ている服装は先週と殆ど変わらない上、頭には稲生からプレゼントされたお気に入りのカチューシャを着けていた。
 自分の体の左側と壁の間には、新しい魔道師の杖が立てかけてある。
 稲生はいつもと変わらぬ私服の上に、見習用のローブを防寒着代わりに羽織っており、見習用の杖を腰のベルトに通していた。
 見習用といっても、杖はそれぞれ持つ者の個性に合わせているが、稲生の場合は伸縮性に富んだものである。
 杖というより棒に近く、それはまるで、警察官が持つ警棒や警備員が持つ警戒棒のそれと同じ3段式ロットであった。
 魔法少女が持つ短いステッキくらいに思ってもらえれば良い。
 但し、大の大人の男である稲生が魔法少女のステッキのようなものを持っているのはおかしいので、あくまでも長さはそれよりもう少し長いが、装飾はもっとシックなものということだ。
 電車は定刻通りに信濃大町駅を走り出した。

〔ピンポーン♪ 今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は大糸線下り、各駅停車の南小谷行き、ワンマンカーです。これから先、北大町、信濃木崎、稲尾の順に、終点南小谷まで各駅に停車致します。途中の無人駅では、後ろの車両のドアは開きませんので、前の車両の運転士後ろのドアボタンを押してお降りください。【中略】次は、北大町です〕

 明日からまた旅行に出かけることになる2人。
 その準備の為に、白馬村の中心部ではなく、もっと大きな町の大町市(ギャグではなく、本当にそういう名前)に足を伸ばしただけである。
 稲生は新約聖書のような装飾、厚さの魔道書を読みながら、向かい側に座るマリアに時々目をやった。
 先週行われた再登用(再・免許皆伝)には、稲生も立ち会った。
 大師匠ダンテ・アリギエーリと、他の立会人としてポーリン・ルシフェ・エルミラとその弟子、エレーナ・マーロンがやってきた。
 前回はイリーナが(止むに止まれぬ事情があったにせよ)勝手に免許皆伝を行ったものだったが、今回はちゃんとダンテが行う正式なものである。
 日蓮正宗で言うなれば、御法主上人猊下が化儀に基づき、所化修行を修了した所化僧に対して1人前の僧侶とする儀式と同じである。
 稲生はそれに立ち会えたことを光栄に思っているが、見ていると想像通りのことだったというか……。
 どのような儀式を行うかは魔道書に書いてあった。
 直属の師匠であるイリーナが魔法陣を描き、その真ん中にマリアが立つ。
 その後でダンテが呪文を唱えながら、マリアに聖水(とは違う透明な水)のようなものを掛ける。
 魔法陣が緑と白の光を出したと思うと、マリアの頭上に悪魔ベルフェゴールが狂喜の声を上げてマリアの中に入って行くというものだった。
 所要時間は30分くらいだったか。
 彼女には悪魔の名前を取ったミドルネームが与えられ、マリアンナ・ベルフェ・スカーレットとなった。
 で、何か彼女に変わったことがあったのかというと、実は特に変わっていない。
 ただ、7つの大罪の悪魔の一柱という強力な悪魔がバックに控えているということもあってか、顔色は少し良くなったかもしれない。
 また、体力……というか、持久力もついたようだ。
 それまでは稲生が手を引いてあげることが多かったが、今ではマリアの方が先に歩くことが多い。
 その辺は変わった感じだ。
 あまり大きく変わったわけではないことに、稲生は正直ホッとした。

[同日15:48.JR白馬駅 稲生&マリア]

〔ピンポーン♪ まもなく、白馬です。白馬駅では、全部の車両のドアが開きます。お近くのドアボタンを押して、お降りください。乗車券、運賃、整理券は駅係員にお渡しください。定期券は、駅係員にお見せください〕

 半室構造の運転室から、ATSの警報音が聞こえる。
 単線の大糸線では、白馬駅のような主要駅では上下列車の交換が行われることが多い。
 その為、実際そのような時は、駅に入る為の信号(場内信号)が黄色などを現示し、その先の出発信号が赤になっている。
 そういう状態であることを運転士に知らせる為の警報音だ。

〔「ご乗車ありがとうございました。白馬、白馬です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。1番線の電車は15時49分発、普通列車の南小谷行き、2番線の電車は同じく普通列車の信濃大町行きです。両列車とも、まもなく発車致します。お乗り遅れ、お乗り間違えの無いよう、ご注意ください」〕

 稲生達が乗った列車は、1番改札口に近い1番線に到着した。
 これは跨線橋を渡らずに改札口まで行けることを意味する。
 白馬駅はSuicaのエリアに入っていない為、普通の乗車券で乗った2人であった。
 駅からは最終のバスに乗り換える。
 まだ暗くなっていないのに、もう最終バスになるほど辺鄙な場所に屋敷が建っているということだ。
 もっとも、本来は人間界からは離れた場所に住むと言われる魔道師。
 それが辺鄙な場所に住むのは当然である。
 まだ本数僅少で、冬でも明るいうちに最終便となるとはいえ、路線バスでアクセスできるだけマシなのかもしれない。
 但し、それは言い換えれば、電車のダイヤが乱れたらアウトということでもあるのだが。
 こんな雪深い状態でもダイヤ通りに走れる日本の鉄道に称賛の意を心の中で唱えつつ、バスに乗り換えた。

 バスの中でも魔道書を読む真面目さは、もしかしたら1人前になった変化の1つかもしれない。
 確かにイリーナから剥奪される前は、よく魔道書を読んでいたような気がする。
 剥奪後はあまり魔道書を読まなくなり、その代わり、趣味の人形作りに精を出すようになった。
 屋敷内で働くメイド人形達の数が増えたのも、その辺りくらいだった。
 稲生達が明日向かう先は東京。
 ダンテ一門では、見習いが免許皆伝を受けると、皆でお祝いする風習がある。
 イリーナが勝手に免許皆伝をした際はそんなイベントは行われず(行うこともなく、と言った方が正しいか)、実際に誰もお祝いに駆け付けなかったという。
 しかし今回はダンテが正式にマリアを1人前と認め、“化儀”に基づいた儀式を行ったのだから、今回は盛り上がるだろうとイリーナは期待している。
 先般の“魔の者”騒動による魔道師師弟が殺されたことに関しては、既に追悼の儀式を終了している。
 今回はそれはそれとして、素直にマリアの再登用を喜び合おうと呼び掛けられている。
 “魔の者”を撃退したことにより、ある程度の仇討ちはできているのだからと。
コメント (4)
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“大魔道師の弟子” 「年末に向けて」

2015-12-26 10:27:31 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月18日22:00.天候:不明 魔界高速電鉄特別列車内 イリーナ・レヴィア・ブリジッド、稲生勇太、マリアンナ・スカーレット]

 列車は単調な走行リズムを立てて、亜空間トンネル内を走行している。
 時折、先頭の電気機関車から汽笛の音が聞こえてきたり、ポイントを通過する時にガタガタガタと走行リズム音が変わるくらいだ。
 天井に2列並んでいる、丸いカバーに入った照明は煌々と灯っていた。
 スハ43系は、それまで1列しか無かった照明を2列にした初の客車であるという。
 初登場した昭和27年〜28年くらいの時はまだ白熱電球であったが、1960年代からはサークライン形の蛍光灯に交換された。
 ここの照明がそうなのだから、恐らくその頃の車両なのだろう。
 イリーナは稲生達の座席とは別に、すぐ後ろの座席に移動してブラインドを下ろし、ローブのフードを被って“仮眠”していたが、ふと目が覚めた。
 ローブの中から懐中時計を出して、現在時刻を確認する。
(こりゃ、もうしばらく掛かりそうだねぃ……)
 そう思い、席を立ってデッキに向かった。
 何か静かだなと思いきや、すぐ前のボックスシートに向かい合って座る弟子2人、マリアと稲生もまた居眠りをしていた。
 2人とも斜向かい合わせに座っており、進行方向向き窓側に座るマリアは前にもたれ掛るようにしている。
 斜め向かいの席に座る稲生は、スハ43系の普通車座席には特徴的な、通路側席に設けられたヘッドレストに頭をもたれさせて寝ていた。
 このヘッドレストは乗客に大好評で、スハ43系の後継車であるナハ10系客車では窓側席にも設けられたという。
 後年の急行系気動車、電車では窓側席のヘッドレストは廃止されたが、通路側のそれは真ん中をくり抜いて、立ち席客の手すりに応用された。
 それは基本的に急行列車には使用しない113系や115系電車まで受け継がれている。
 イリーナはデッキのトイレ・洗面所に向かいながら、
(あのマリアがフードも被らず、男の子の前で居眠りするなんてねぇ……。さすがはユウタ君だわ)
 マリアの変化に気づき、新しい弟子を褒めていた。

[12月19日00:05 JR大糸線内→白馬駅 上記3名]

 列車は亜空間トンネルを出ると、再び暗い線路の上を走っていた。
 だが、それまで聞こえなかった踏切を通過する音とかが聞こえてきて、列車が今、JRの線路の上を間借りして走行しているのだと分かった。
 冥界鉄道公社は、亜空間トンネル内や地獄界などでは独自の線路を敷設して走行する第1種鉄道事業者だが、人間界や魔界では他の鉄道路線に乗り入れて走行する第2種鉄道事業者となる。
 ここではJR線に、列車だけでなく乗務員ごと乗り入れて運転しているので第2種となる。
「えー、長らくのご乗車お疲れさまでした。まもなく白馬駅に到着しますので、お降りの支度をしてお待ちください」
「はい」
 車掌が稲生達の所へやってきた。
 スハ43系にはマイクの設備が無いため、車掌が巡回してキップを切りながら、次駅停車案内をする方式だ。
 稲生達が荷物の準備をしながら、降りる支度をしていると、列車が速度を落とし始めた。
「でも、こんな時間にこういう列車が到着したら、駅員さん達、びっくりしません?」
 と、稲生はイリーナに言った。
「大丈夫よ。向こうの職員達も知ってるから」
「はー、そうですか」

 列車が白馬駅3番線ホームに到着する。
「足元にご注意ください。雪が積もってますから
 車掌が手動ドアを開けながら言った。
「はい。……雪!?」
「そうだよ。人間界じゃ、もう年末だからねぇ……」
 稲生は渡された見習用のローブを羽織っていた。
 稲生はあまり着用しないが、さすがに今回は着用した。
 何しろ、今回“魔の者”騒動に巻き込まれた時、まだ9月だったからだ。
 魔界は常春であるため(12月でも沖縄本島くらいの気候)、やっぱり厚着の必要性は無い。
 で、人間界に帰ってきたらこれだ。
 幸い魔道師のローブは見習用であっても、しっかり防寒の役割を果たしてくれる。
 足元は寒いが。
「迎えを頼んでいるから、早く行こう」
「はい」
 列車を見送りたかった稲生だったが、1秒ごとに足の体温が失われていく感じがしたので、それどころでは無かった。
 何しろ、駅前ロータリーで除雪車らしき重機が動いている感じであったからだ。
「今年は雪が少ないという話でしたが……」
 稲生は駅の階段を登りながら、イリーナに振った。
「これも、“魔の者”の嫌がらせかねぇ……」
 イリーナは目を細めながら苦笑い。
「これが本来のこの村の気候だと思いますが」
 1番後ろを歩くマリアが冷静に答えた。

 駅前に止まっていた迎えの車も、チェーンを巻いていた。
 ベンツSクラスであるところを見ると、どうやらイリーナが自分で呼んだらしい。
 それに乗り込んで、マリアの屋敷に着く頃には0時半を過ぎていた。

[同日09:00.マリアの屋敷 上記3名]

「おはようございます……」
 稲生は、自分が寝泊まりしている東側からダイニングのある西側へ移動してきた。
 今日はさすがに昨日(というか、もう日付が変わっていたが)のこともあって、朝はゆっくりであった。
「あー、おはよ。早いとこ、朝食食べちゃって」
 と、イリーナ。
「あ、はい。今日は何か?」
「ダンテ先生から手紙が来ていてね……」
 イリーナは白い封筒を出した。
 中身はラテン語で書かれている。
「今夜、マリアの再登用の儀式を行うってさ」
「それは急ですね!」
「ダンテ先生としても、もっと早くやりたかったみたいよ。だけど、“魔の者”騒動のせいでねぇ……。あ、そうそう。東京方面へ行く準備をしといてくれない?」
「東京方面?」
「そう。マリアには今夜、再登用の儀式を行うけど、お披露目は東京でするから」
「? はあ……」
「後で詳しい話はするから」
「わ、分かりました」
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