九州はここ数日梅雨前線の影響で大雨に見舞われ、場所によっては1時間に100ミリを越す豪雨となりました。この雨で福岡県の矢部川など河川が氾濫し、九州各地で38万人に避難指示、勧告が出され、亡くなられた方も20名を越えています。
このブログを書いている最中にも、北九州地方、筑豊に大雨洪水注意報が出たとの緊急ニュース速報が流れています。被災された方には心よりお見舞い申し上げます。
終日の雨で家にこもりきりになり、本棚にある井上靖 著『わが一期一会』(知的生き方文庫)を取り出して読みました。この本は20年以上前から、いつも私の本棚にあり、ゆったりした時間が出来た時や気持ちが疲れた時などに、時々ページをめくっています。
著者の人生において再び繰り返す事のない一度だけの出会い、別れ、旅、文学、又その時々の感情、旅行中に強く印象づけられる旅情、あるいは自分の著書についての見解など、一つ一つ丁寧につづられていて、私にとって、ほんとにそうだな~と共感できる部分が多いエッセイ集です。
「穂高の月、ヒマラヤの月」の項目で、月に照らされた山について、昼の明るい山と違がって、夜の山は陰うつに押し黙り、ふてぶてしく居座っているという表現があり、ずっと以前に、穂高岳の様な高い山ではありませんが、山でまったく同様に感じたことがあり、感性が一緒なんだと嬉しい気持ちになったこともありました。
又ご自身の著書『額田女王』や『青き狼』などについての見解、解釈なども記されています。井上靖さんは史実に基づいた事に、ご自身の解釈を加えて小説世界を創り出されていた様ですね。
『青き狼』の中に、主人公のチンギスカンと彼が戦場に伴う程愛していた側室、クランとの愛情が綴られた箇所があります。そして二人の間に生まれたガウランという皇子を無名の雑兵達の群に投じ、そこから出発させたのに対し、その他の側室達との間に生まれた皇子達は、権力者の子供として特別のスタートラインから出発させたとあります。
その理由は戦場に伴うほど愛していたクランへの愛情が特殊であったのと同じ様に、二人の間に生まれたガウランにも、他の皇子達とは違う特殊な愛情を持っていた。なのでチンギスカンが自分自身そうであった様に、自分の運命を自分で開拓してほしいという願望をこの皇子にかけた、という設定にしたと、この本の中で説明されています。
クランを戦場に伴った事、ガウランを雑兵の中に投じた事、この二つは文献にも出てくる事実だそうで、この事実を基に井上靖さんは小説世界を創りだされたんですね~。
そのように設定した理由について、なるほどね~とは思うものの、私はホントは今でも納得がいかないんですけどね(笑)。
そして事実、無名の雑兵の中に投じられたガウランは、再びその存在を社会の表に出してくる事は無かったのに対して、特別のスタートラインから出発した他の皇子達はチンギスカンの後継者として次代をになう人物に育っていったのだそうです。
本の表題の一期一会は茶道の言葉だそうですが、そこから取り出して日常のなかに於いても、まったく当てはまる言葉だと思います。考えてみれば生きていく上で、すべてが一期一会で、あらゆることが再び繰り返される事は無いのですよね。こう考えると、今までの荒っぽい自分の生き方を反省し、もう少し丁寧に過ごしていかなければとは思うものの、これはなかなか難しい。
そこで茶の湯という特殊な約束の世界を設定し、せめてそこに於いてだけでも、一期一会の精神を生かそうというのが、茶道の開拓者達の考えであったのでしょうと著者はあとがきの中で書いておられます。
この本は、もう20年以上も前から折にふれ読む本で、私にとって座右の書といっていいかもしれませんが、自分の年齢によって新しい発見というか、見方が変わって来る本で、なかなか手放せない大切にしている本の一つです。
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