著者の辻さんは
作家、ミュージシャン、料理愛好家(?)であり
20年近くパリに住んでおられ、ご自身が編集長を務める
webマガジン「デザインストーリーズ」を主宰されています。
そのwebマガジンの中に彼のブログjinseistroriesがあり、
このブログのファンの私は、
ブログの中で『十年後の恋』という彼の作品を知り、
さっそく図書館から借りて来ました。
日本人の両親の元にパリで生まれそこで教育を受け、
大人になり日々の暮らしを営んで来た主人公のマリエ。
10年前に離婚し、二人の子供をひたすら働いて育てて来たマリエ。
そこに一人の男性、アンリが出現し人生の岐路に立った主人公が、
その男性に魅かれていきながらも、
ふとしたことから彼に疑念を持つように。
このあたり、マリエが戸惑い疑心暗鬼になるのも仕方ないかな~と、
もどかしいけれど共感を持てる成り行き。
アンリにある種の疑念を持ちながらも、
二人の付き合いは続き時は流れていきます。
マリエをいつも見守ってくれている母親がいい感じで、
何も娘に強要したりはしないけれど、
娘とって安心感が得られる安らぎの存在なんですね。
遠いところにあると思えたコロナに掛かり、
生死の境目を体験したマリエのそれからの生き方、
アンリとの距離の取り方には共感を憶えますが、
ラストに近づくと、唐突感が否めずうろたえます。
マリエの気持ちは恋ではなく、愛へと変わりつつあったのか?
私はあくまでも恋だと思っていたいのですが...。
辻さんの作品はきっちりした人物描写、
情景描写から始まることが多い様に感じます。
この小説も、何度か訪れたパリの街並や空気を感じさせる
一冊に仕上がっていると思うとともに、
コロナ禍という特殊な状況のパリを背景に、
この機会を逃さずに一篇の小説を紡いだと感じます。
小説家ってすごいな~、現在進行中のことを
作品の背景にすぐ取り入れるとはね~と思いますね。