日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

「グローバルCOEプログラム」を大砲巨艦建造に終わらせないように

2007-06-20 23:04:31 | 学問・教育・研究
平成19年度の「グローバルCOEプログラム」審査結果がこの度公表された。63件が採択されて、今年度の予算額は158億円とのことである。5年間継続のプログラムなので、単純計算では総額790億円になるから、金額的には巨大計画である。

その「グローバルCOEプログラム」審査結果についてに目を通すと、《「グローバルCOEプログラム」は、我が国の大学院の教育研究機能を一層充実・強化し、世界最高水準の研究基盤の下で世界をリードする創造的な人材育成を図るため、国際的に卓越した教育研究拠点の形成を重点的に支援し、もって、国際競争力のある大学づくりを推進することを目的としている。》

さらにこう続く。

《本事業は、国公私立大学における大学院研究科専攻等(博士課程レベル)が、国際的に卓越した教育研究拠点を形成するための事業計画に対して補助を行うもので、
① 学長を中心としたマネジメント体制による指導力の下、大学の特色を踏まえた将来計画と強い実行力により、国際的に卓越した教育研究拠点を形成する計画であること。
② このグローバルCOEプログラムで行う5年間の事業が終了した後も、国際的に卓越した教育研究拠点としての継続的な教育研究活動が自主的・恒常的に行われることが期待できる計画であること。
研究プロジェクトではなく、世界最高水準の優れた研究基盤や特色ある学問分野の開拓を通じた独創的、画期的な研究基盤を前提に、高度な研究能力を有する人材育成の機能を持つ教育研究拠点(人材養成の場)を形成するものであって、将来の発展性が見込まれる計画であること。》(後略)(強調は私)

すなわち「グローバルCOEプログラム」は単なる研究プロジェクトではなく国際的に卓越した教育研究拠点を形成する計画であることを強調している。

この『作文』が具体的に意味するところは、その予算の使途を目にすることが出来ないので直ちに判断できないが、私にはこれもまた大型実験装置など『箱物』作りのように見えてくる。「世界最高水準の研究基盤の下で」なんて、書かれているからである。研究プロジェクトではなくとのことわりが目つぶしで、とどのつまりこれまでのような大型プロジェクトと大同小異なのではなかろうか。

「グローバルCOEプログラム」が目指すのが国際的に卓越した教育研究拠点を形成であるのなら、出来上がった『拠点』は何の為に使われるのか。云うまでもなく高度な研究能力を有する人材育成であろう。しかし現存の教育・研究施設では物足りないのだろうか。私にはそうとは思えない。現に各分野に於いて世界に誇る業績を挙げている研究者は大勢おり、その様な方々がこのプロジェクトでも拠点リーダーとして名のりを上げているではないか。

まだまだ大型実験装置が足りないということで、どんどん買い込むなり作ったとしよう。しかしそのランニングコストはどうなるのか。上に《② このグローバルCOEプログラムで行う5年間の事業が終了した後も、国際的に卓越した教育研究拠点としての継続的な教育研究活動が自主的・恒常的に行われることが期待できる計画であること。》と述べられている。しかしそのための5年後の予算処置は見えてこないから、現時点では『作文』に終わっていると云わざるをえない。これは燃料を確保する目途もないまま、燃料大食いの戦艦大和・戦艦武蔵を建造した旧日本海軍の頭脳構造と変わらない。早々に『みずくかばね』になりかねない。

そう思うと『教育研究拠点』という発想が『戦争ごっこの陣地作り』に見えてくる。大砲巨艦に陣地、それを造れば事足れりで終わっているようで、もっとも肝腎なその先が見えてこない。その先とはもちろん高度な研究能力を有する人材育成なのである。この目的を達成するのに最も必要なことは大砲巨艦の建造、陣地の構築ではない。若手研究者が自らの発想でテーマを定め、自ら研究を推し進める環境を整えることである。『箱物』は現在あるものを活用すれば十分ではないか。

一言で云えば「グローバルCOEプログラム」は高度な研究能力を有する人材育成には迂遠なものである。と云うより、『人材育成』が大砲巨艦の建造、陣地の構築の口実になっているようにも見える。これを本末転倒という。

COEなる言葉が先ずありき、で拠点作りの発想になったのであろうか。横文字かぶれの悲しさである。風林火山ではないが、人は城人は石垣人は掘である。『人材育成』にこそ新しいプログラムを発足さすべきであったのだ。

高度な研究能力を有する人材育成を本気で目指すのなら、またそうであるべきだが、若い能力のある研究者に思う存分自分の発想で研究をさせる、それが最も望まれることである。若手研究者とはポストドクと30歳代前半の助教クラスを主体に、特例として博士課程の大学院生とするのが妥当であろう。彼ら自身が研究リーダーになるのである。「ポストドク募集」に群がるようなシステムではない。自ら研究費と生活費を獲得するのである。

「グローバルCOEプログラム」はとにかく発進した。仕事がらみで直接お話ししたことのある方が四名ほど拠点リーダーとなっておられるが、若いときから頭角をあらわした方々である。だから研究費が獲得できたということに個人的にはCongratulations!なのであるが、その運用に裁量を大いに発揮していただきたいものである。例えば自分が評価可能な領域の研究テーマを若手研究者から募集して、採択をリーダーが決定すればよいのである。遅くとも10年後にはその決定の是非の評価は定まることであろう。

生命科学系なら、基本的な実験器具・装置一式を備えた40~50平米ぐらいの研究スペースを各人に与え、研究費・生活費を年額500~1000万円程度は支給する。これで思う存分3~5年間研究に没頭させるのである。

この夢のような話が現実になれば、ゆくゆくは世界中の主要な大学・研究所で日本人リーダーが指導的役割を果たしているような時代が生まれることであろう。「グローバルCOEプログラム」による拠点作りを早々に飛び越えて、『人材育成』に全てのエネルギーを集中することこそタックスペイヤーである国民の負託に応える途である。

若手研究者の育成については、私見を以前のエントリーノーベル医学生理学賞が日本に来ないのはなぜ?でも述べたことであるので、お目通しを頂けたらと思う。



最新の画像もっと見る