日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

実験科学者が毎週論文を1報以上とは・・・

2011-03-07 14:31:54 | 学問・教育・研究
もう旧聞に属するが、私がブックマークをつけていたNatureの記事(2011年2月24日)に次のようなものがある。


井上明久東北大学総長がかかわっているとされる「研究不正問題?」で、ことの起こりはこのようである。

Inoue has published more than 2,500 articles since 1973. He and his group have reported making numerous glassy alloys and producing samples much thickerr than those reported by other groups.

Questions raised

But in May 2007, a series of anonymous letters began arriving at Tohoku University and other places alleging that the four papers 1-4 co-authored by Inoue in the 1990s contained inconsistencies in the way that the data were presented. The letters also alleged that others in the field had been unable to reporduce the results.

分野外のことでもあり私の知識はこのNatureの記事に限られるのでこれ以上深入りはしないが、「へぇ~」と思ったことを一つだけここで取り上げてみる。それはこの強調部分Inoue has published more than 2,500 articles since 1973.のことである。「articles」を単純には論文と解してもよいが、総説や解説など、広い意味での記事も含まれるだろうからすべてが原著論文とは限らないのかもしれない。それにしても約40年間に2500報とは凄いの一言に尽きる。年間60報強ということは少なくとも毎週1報以上ということになる。まさかNatureの記事が間違っているとは思えないが、念のためにGoogle Scholarで「akihisa inoue」を検索してみると3640報が検出された。同名異人があるとしてもこの異人さんが井上総長に匹敵するほど生産性が高いとは考えにくいので、2500報は恐らく正しいのであろう。実験をしながら毎週1報論文を書く生活なんて、幾ら共同研究者が大勢いたとしても私には想像出来ない。原稿に眼を通すだけでも大変だろうと思うからである。

昔話になるが大阪大学教養部の学生だった頃、理学部入学生でありながら薬学部から出講された亀谷哲治先生の有機化学の講義を聴講していた。講義内容がとても評判だったので越境聴講をしたのである。その頃はそれが可能であった。亀谷先生はその当時薬学部の助教授であったが、実験の鬼のような話が流れていて、教養部の学生の間においてすら論文の多産ぶりが話題になっていた。その後東北大学薬学部の教授となられ、退官された後は星薬科大学学長をなさっていた。亡くなられた時の日本薬学会会頭の追悼文に《学術分野では、複素環を中心とした合成化学領域で、鎮痛剤ペンタゾシンの工業的合成法など医薬品の開発研究、モルヒネを初めとする200種に及ぶ生理活性天然物全合成などで不滅の業績を挙げられ、報文は実に1200という驚くべき数に達しました。》とあって、亀谷先生の精力的な仕事ぶりが称えられている。上には上のあることだから井上総長の2500報も驚くに当たらないのかもしれないが、それにしてはNatureの記事で少し気になるところがある。

Inoue has recognized some points raised by critics. In January last year, he published errata 14 on two of the papers 2-3 in dispute. In an accompanying explanation 15, Inoue and his co-authors "apologize that these papers did not spell out all the experimental details as precise [sic] as we should have".

要するに問題が指摘されていた4論文の内、2論文について訂正がなされたとのこと。量産のスピードについていけなかった瑕疵なのかどうなのか。いずれにせよこの類い稀なる論文量産ぶりをNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」で是非公開して頂きたいものである。その仕事ぶりに鼓舞された研究者が増えると、低迷が伝えられているわが国の論文発表数も少しは上向きになるかもしれない。



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