日々是好日

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問われるのは「学士の質」より「文部科学省の質」

2008-06-23 18:23:29 | 学問・教育・研究
朝日朝刊(6月23日)に「学士の質 どう保証」の見いだしで次のような趣旨の記事が載っていた。



《「大学全入時代」が迫る中、学士の質保証を求める声が強まっていることなどが背景》だそうであるが、「学士の質保証」が何を意味するのか私には分からないし、誰が「学士の質保証」を求めているのかも分からない。また余計な仕事を大学に負担させようとしている、というのが私の率直な印象である。

「大学全入時代」とは大学入学希望者総数が定員総数より少なくなる状況だと私は理解しているが、この状況が学士の質を低下させるのが本当なら対策はきわめて簡単、大学の数を大幅に削減すればよいのである。私の論法ではそうなる。しかもその状況をもう少しこまかく見ると、それほど深刻に考えることはないようである。それは「大学全入時代」になったからといって、全員が希望大学・学科に入学できるのではなく、希望者が多い大学・学科では今までと同じように入試の競争率は高くなり、これまでと同様にそれなりの素質のある学生が選抜されるのである。急に質が下がるわけではない。いずれの時代にも、何を判断基準とするかはさておき、出来るものから出来ないものまで統計的に分布するものである。社会を引っ張っていこうとする意欲に燃える層(の存在を前提とするが)にとっては「大学全入時代」になろうとも、自分の目指す大学・学科に入るためには厳しい競争が依然として待ち受けているわけで、状況が大きく変わるわけではない。

需要があって大学を作ったのであれば、需要が減れば大学を減らすべきなのである。たとえば私学で定員の50%以上100%未満の定員割れ大学が平成18年度からは30%を上回る状況になっている。文部科学省の箱物行政の結果である。大学を作るばかりが能ではない。定員を満たさない大学は、少なくとも学部・学科単位で整理されるべきである。そうすると「大学全入時代」は数字的には解消してしまい「学士の質保証」問題も私の論法では消えてしまう。不要になった大学を整理できないなにか特別な理由が文部科学省にあるのだろうか。

薬事日報(2008年05月15日)は「薬系大学の3割が“定員割れ”-全体でも入学定員を割り込む」と伝えている。《薬系大学・学部全体として“定員割れ”したのは、全74校中22校。このうち03年度以降の薬大新設ラッシュで誕生した新設校が、28 校中17校と6割にも及んだ。一方、伝統校でも、北陸大学、福山大学、徳島文理大学、第一薬科大学では、定員充足率が70%前後とかなり苦戦を強いられた格好だ。 特に、入学定員が半数にも満たなかったのが、奥羽大学(定員200人、入学者55人、定員充足率27.5%)と青森大学(120人、47人、39.2%)。両校とも07年度の時点で43%、62%と定員割れしており、今年度はさらに厳しい状況となった。》そうだ。いわば「実学」を授ける薬学系の大学ですらこの現状である。定員割れを起こし、その存在意義の疑われる大学の整理こそまずあるべきだ。

「大学全入時代」と「学士の質保証」のつながりが私にはすんなりと見えてこないので、屁理屈めいた考えを述べたが、朝日新聞がまとめた「大卒が身につけるべき能力は?」をみても、やはりその中身には頭を傾げてしまう。



文部科学省が中教審の報告をうけて唱える「学士力」に話を限っても、学生がここに記されたような能力を一つでも身につけることが出来ればそれはそれなりに結構である。だから学生にそのつもりで大学生活を送りなさい、と勧めたら済む話である。30数年間大学教師を務めた私ではあるが、コミュニケーションスキル、数量スキル、情報リテラシー、・・・・、なんてどう教えたらよいかも分からないし、ましてや学生が到達目標のどのレベルまで到達したのか、評価するすべが思い当たらないので戸惑ってしまう。かっての国立大学が独立行政法人化したからには、その本来の趣旨に基づき文部科学省の(もちろん経産省の)余計な口出しに教師を巻き込むような愚を毅然と退ける見識を期待したい。


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