日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

トマたまうどん 愛染かつら 口縄坂のねこ

2009-12-14 13:21:24 | 旅行・ぶらぶら歩き
ある街案内の本を見ていたら大阪・平野が紹介されていた。調べてみるとJR天王寺駅から大和路線で二駅目がJR平野駅である。ネットから道案内図をダウンロード、印刷してぶらり歩きに出かけた。

JR平野駅で降りて北口に出るのか南口に出るのか迷ったが、結局南口に出た。道案内図に北向きの方位がはっきりと示されていないものだから、駅に表示されている地図との対比に手間取ったのである。まずは大念仏寺を目指してほとんど人通りのない道を歩き、だだっ広い境内に入る。融通念仏宗の大本山だそうであるが私には宗派のことなど分からない。お賽銭を投げて合掌、私と関わりのある人すべての幸せと世界平和を念じた。

この平野の地は坂上田村麻呂の二男、坂上広野麻呂により開発が進められたもので、その子孫の邸宅が地図には載っているが場所がはっきっりとしない。たまたま通りを掃除している年配の方に尋ねたところ、直ぐ近くであることが分かったが、この方が「街にはなにもありませんよ」と何度か強調されるので、歩き回る意欲がちょっと萎れてしまった。謙遜?、親切?もほどがよいようである。そこで地図から離れて歩き回っていると、長寶寺にさしかかった。坂上田村麻呂の娘で桓武天皇の妃春子が落飾し開いたお寺で、後醍醐天皇が皇居を吉野に移す時に仮皇居になったとのこと。一応頭の中に入っている歴史上の出来事がこのような場所と具体的につながるのが面白く、しばらく境内をぶらぶらした。

ところでいつもは昼前に目的地について、まず昼食をとり腹ごしらえをしてから落ち着いた気分でぶらぶら歩きを楽しむのであるが、この平野ではそのような店が目に入らなかったので、そのうちに見つかればと思い歩き始めたのである。しかしなかなか見つからない。正午はとっくに過ぎているしどうしたものやら気がかりになっていたところ、はるか向こうに商店街らしきものが見えたのでそちらに向かうと、進行方向とは交差している平野商店街の本通りに出た。真っ先に目に入ったのが店先に弁当とか饅頭などを並べているうどん屋であった。ピンときたので入ったらレトロの落ち着いた作りの店で、次の張り紙が私の目に飛び込んできた。


「トマたま」とはトマトとたまごのことだとは見当がついたが、店の若い女の子に確かめると「メッチャおいしい」と返事が戻ってきたので躊躇わずに注文した。トマトとたまごは私の好物、そしてグツグツ煮えたぎった土鍋で「トマたま煮込みうどん」が運ばれてきた。


一口汁をすする。トマトからの酸味が出しのうま味とからまって絶妙の味である。入っているのはうどん、2センチ角のキャベツがたっぷりととろけた粉チーズ、そして半熟の溶き卵、ただそれだけである。口の中が火傷しないよう気をつけながら一気に平らげてしまい、スープも残らなかった。「トマたま煮込みうどん」にすっかり満足して、これで平野にやってきた甲斐があったなと思い、あとは街中の通りをあみだくじを辿るように折れ曲がり折れ曲がり歩いて地下鉄谷町線平野駅に出た。時間はまだまだ早いのでちょっと立ち寄ってみたいところがあったので天王寺駅で降りて谷町筋をぶらぶらと北上した。

最初に立ち寄ったのが愛染かつらで有名な愛染堂勝鬘院である。どうも以前は通り過ぎただけのような気がする。しかし今回は境内に入った。というのも私が二三日前のX’mas Concertで歌った「死んだ男の残したものは」は、作曲者の武満徹が『メッセージソングのように気張って歌わずに、「愛染かつら」のような気持ちで歌って欲しい』と歌う人に注文をつけたいう謂われがあって、だから私もその気持ちで歌ったばかりだったからである。確かにこの歌をフォークシンガーというのか若い歌手が歌うと、ついつい思い入れたっぷりで力をこめた歌になりがちだと思う。「愛染かつら」を知らない世代には無理だろうと思うが、聴き手に強い思いをかき立てるには「愛染かつら」風にメッセージを静かにしみ通らせる方がよいように思う。勝鬘院の裏手では重要文化財(旧国宝)の豊臣秀吉が再建した多宝塔を見上げながら、先ほどの店で買ってきた栗大福を口にした。

行きたかったのが織田作之助の文学碑が目印になる口縄坂である。夕陽丘の上から見下ろすとゆったりと敷かれた石畳の道がこころを和ませてくれる。ところが今回驚いたことに野良猫が横壁の上に群れ集まっている。数えてみたら一箇所に13匹もかたまっていた。もの静かなのがかえって不気味で、13匹が一斉に飛びかかってきたらどうすべきかと思案しながら前を通り過ぎた。すれ違った犬を連れた男性が、餌をやる人がいるのでとこぼしていた。



この文を書いているうちにお昼になったので、さっそく「トマたま煮込みうどん」を自分で作ってみた。玉子にやや熱が通り過ぎたことと酸味が少し弱いこと、またノリを散らすことを忘れたのが反省点であるが、やっぱり美味しくてスープまで平らげてしまった。レパートリーが増えたようである。