星のひとかけ

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漱石が上野で聴いた「ハイカラの音楽会」

2017-10-17 | 文学にまつわるあれこれ(漱石と猫の篭)
日曜日、 東京文化会館大ホールで行われた 「漱石が上野で聴いた『ハイカラの音楽会』」 行ってまいりました。 肌寒い雨の日でしたが、 演奏の数々は熱が籠っていて また瑞々しく、 大変バラエティに富んだ贅沢なコンサートでした。



演奏された楽曲については、ミリオンコンサート協会のHPを
【夏目漱石生誕150年記念】 漱石が上野で聴いた「ハイカラの音楽会」

、、最初、 このコンサートの開催を知った時には 実を言ってよく趣旨がのみこめていなかったのです、、 漱石が 上野に演奏会を聴きに行った事などを日記に残していたのは知っていましたが、 「漱石が聴いた」というその特定の日のプログラムや細かい演奏者のことなどが分っているとは思わなかったのです。

でも、ちゃんと専門家のかたが研究をしていらっしゃるのですね。 上記のHPにもありますように、 この日のプログラムは、 当時の外国人教師ユンケル指揮による東京音楽学校オーケストラの、明治45年6月9日のコンサートと同じプログラムだということ。。 それならぜひ聴いてみたい! と思ったのでした。

曲目は

ウェーバー/歌劇「魔弾の射手」序曲
メンデルスゾーン/ピアノ協奏曲 第1番 ト短調 Op.25
モーツァルト/アイネ・クライネ・ナハトムジーク K.525
シューマン(石倉小三郎訳)/3つの詩 Op.29より 第3曲「流浪の民」
サン=サーンス/チェロ協奏曲 第1番 イ短調 Op.33
J.S.バッハ=アーベルト:前奏曲/コラール/フーガ 

、、 ほんと バラエティに富んでいます。 
そして、 なんとコンサートの進行役には 漱石先生みずから登場!(しかも自転車に乗って… 笑) 大久保光哉さんというオペラ歌手のかたが演じておられ(大久保さんfacebook>>)、 曲目の合い間のオーケストラ編成が入れ替わる時間を使って、 とても張りのあるお声で朗々と曲目の紹介などをしてくださって… こうした演出も見事でした。

ちょっと話が逸れますが、 漱石が地方で講演をしたとき 聴衆が四千人だったそうで、当時マイクもなしにどうやって声が届いたのだろう… と前にブログにちらっと書いた記憶がありますが、(漱石先生の講演は 江戸っ子らしい講談調で声も張りがあったとのこと)、、 この日、 大久保さん演じる漱石先生のお喋りを聴きながら、 こんな風に朗々と響く声で 演説してたのかな… などとふと思ったりして。。

 ***

漱石カテゴリですので、 ごめんなさい演奏のことよりも漱石にまつわる事を書きます。

いただいたプログラムには、 楽曲の説明のほか、 その曲と漱石の関連についても詳しく書かれていて、(この曲を聴いたのが初めて、とか二度目であるとか)、、 また、 漱石と西洋音楽との関係や、 ケーベル先生のこと、 東京音楽学校のユンケル先生のこと、等々 とても充実した内容になっていて、 ここでそれを紹介できないのが残念なほどで 私には大変うれしい資料となりました。

この日の総監督をされ、 プログラムの中に音楽と漱石の関連を詳しく説明してくださっている 瀧井敬子先生は、 『漱石が聴いたベートーヴェン―音楽に魅せられた文豪たち』(中公新書) という本も書いていらっしゃるそうなので、 また読んでみたいと思います。
そして、 近著として 夏目漱石と音楽についての著書も刊行の予定だそうですので、 きっとプログラムに載っていた事や、 アンコール前に登壇されてお話くださった事など、 また本の中で読めるのが楽しみです。

 ***

ここからは私の独り言というか…

ウェーバーの『魔弾の射手』序曲、 私は生で聴いたのは初めて、 美しかったです。
、、漱石先生の聴いた当時、 楽曲の説明などがどうあったのかはわかりませんが、 この曲はもともとドイツの民話(『怪談集』)がもとになっているそうで(魔弾の射手Wiki >>)、 英国ゴシックロマンスやアンドリュー・ラングの幽霊譚なども読み、 ドイツロマン主義にも関心のあったはずの漱石先生は そういう楽曲背景なども知ったらきっと、とても興味深く思ったのでは… と感じました。

それと、、
絶対、 漱石先生が興味をそそられたのでは、、と思ったのは シューマンの『流浪の民』。

、、私も中学時代、 クラスの合唱曲でこれを歌って初めて「流浪の民」=ジプシーについてを知りましたが、、 ジプシーの民といえば 漱石先生には深い関連が…

漱石が熊本五高時代に取り寄せて読み、 小説「エイルヰンの批評」という文章を「ホトトギス」に載せていたことは、このブログでも何度か書いていますが (エイルヰン過去ログ>>)、 あの物語でとても重要なのが ウェールズに暮らすジプシー(ロマ Romany)の人々が奏でる音楽や歌のこと。 

漱石の 「エイルヰンの批評」の中でも、 ジプシーのこと、スノードンの山でジプシーが奏でる音楽のこと、 その魔力のことなど書かれています。(国立国会図書館デジタルコレクションで読めます>>

結婚を誓い、 その後生き別れになってしまった幼馴染みの少女ウィニーを探し求める物語。 そのウィニーを見つけ出すのに一番重要な役割をするのが、 ジプシーの娘の奏でる音楽。。 そんな『エイルヰン』の物語に魅せられていた漱石先生ですから、 『流浪の民』の歌はきっととても興味深く聴いたのではないかしら…と思うのです。 石倉小三郎訳の歌詞も素晴らしいですしね、、

 可愛(めぐ)し 少女(おとめ)舞ひ出でつ

、、私も 『エイルヰン』を読んでいますから ロマの少女シンファイやウィニーの事をちょっと思い出しながら この曲を聴いていました。


そのほかにも、、
瀧井敬子先生がステージでお話くださった 『三四郎』の美禰子の教会のシーンと音楽のこと。 これはまた、 いつか本で詳しく書いて下さるかと、 とても興味をもったお話でした。

西洋文化が日本に紹介され始めた明治時代。 そうした音楽や文化や文学が漱石作品の中にはいっぱい盛り込まれています。 だから、この日のような 音楽の歴史と文学の歴史の結びつきを実際に体験できる催しというのは とっても貴重だなと、 自分の漱石作品の読み方にもなんだか刺激になるコンサートでした、

上の写真にある もうひとつの冊子「漱石散歩 小説を手に上野周辺巡り」も、 作品に出てくる上野に関連する抜粋と 街の写真や地図が載っていて とっても充実しているんですよ、 この日だけのものにしてしまうのは勿体無いくらい。。


とても良い体験ができました。 ありがとうございました。



この写真は 「運慶展」の日に見た上野公園。

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