星のひとかけ

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芥川龍之介の読書書誌…

2023-03-30 | 文学にまつわるあれこれ(漱石と猫の篭)
先日、 フロイトとリルケの《無常》について書きましたが(15日) 
その後の先輩とのメールのやりとりの中で、 芥川龍之介の『死後』という作品の文章から「フロイド(フロイト)」の語が削除された謎… という話題があり、、(現在 青空文庫で読めるものは削除後のものです)

これについてはここでは書きませんが、、

それでいろいろ検索していたら、 芥川龍之介が作品中や書簡などの中で言及している書物のリスト、という調査結果が公開されているのをみつけました⤵

読書書誌索引稿:芥川龍之介2(西洋人名) : 『芥川龍之介全集』(岩波書店1978)を基盤に
 (桃山学院大学学術機関リポジトリ)

このようなデータは作家の関心事や作品への影響を知るのに とっても興味深く有難いものですね。。 早速リストを眺めて、、 芥川龍之介らしい《夢》とか《幻想》とか《怪異》とか《ドッペルゲンガー》とかに結びつきそうな作家の名前がたくさんありますね。。 それで…

以前に、 中井英夫の「燕の記憶」という作品について書きました(>>) 「A」という背の高いひとが『幸福の王子』という本を探しに来た… という話。

上記のリストの中に ワイルドを探してみたらありました。 「Happy prince」という作品名も。。 「A」というお父さんは『幸福の王子』を読んでいたんだわ… と思い、 いったいいつ頃『幸福の王子』を読んでいたんだろう、、 と少し調べましたら、 どうやら龍之介が学生だった頃のようでした。。 中井英夫が書いていた時期、、 子供部屋へ「幸福の王子」をさがしに来る、という幻のシチュエーションではなかったのですが、 確かに龍之介は『幸福の王子』を読んでいたのでした。。 なんだかそれだけでも嬉しかったな…

 ***

一方、、 私の個人的な関心事で そのリストの中に「de Quincey」の名も見つけたので、 いったいどんな風に言及しているのだろう、、と興味が湧いて検索してみました。

「骨董羹 ―寿陵余子の仮名のもとに筆を執れる戯文―」
という、大正9年に出版された雑誌に掲載されたもののようです。 青空文庫で読めるものはこちら>>

ひとつは「誤訳」という文章。 面白い文章なので引用させていただきましょう…

 カアライルが独逸文の翻訳に誤訳指摘を試みしはデ・クインシイがさかしらなり。されどチエルシイの哲人はこの後進の鬼才を遇する事 ―反つて甚篤かりしかば、デ・クインシイも亦その襟懐に服して百年の心交を結びたりと云ふ。カアライルが誤訳の如何なりしかは知らず。予が知れる誤訳の最も滑稽なるはマドンナを奥さんと訳せるものなり。訳者は楽園の門を守る下僕天使にもあらざるものを。(二月一日)

トマス・カーライルのことは「哲人」、 ド・クインシーのことは「さかしら」だけど「鬼才」と名づけてくださってます。。

もうひとつは 「ニコチン夫人」という文章。。 文章は載せませんが、ここに書かれている「ニコチン夫人」て何?? と知らなかったので調べましたら、 ジェームス・マシュー・バリーという あの『ピーターパン』の作者が書いた『My Lady Nicotine』という小説のことだそうで、 龍之介は「最も人口に膾炙したり」と書いていますが 大正当時はそうだったのかもしれませんが今ではまったく読むことができません、、 どんな話なんだろ。。

ド・クインシーに関しては「阿片喫煙者の懺悔」の名が挙がっていますが 龍之介も読んでいたのですね。 それで「誰か・・・バリイを抜く事数等なる、恰もハヴアナのマニラに於ける如き煙草小説を書かんものぞ」と結んでいますが、 以前 私もとりあげましたが 芥川龍之介は「煙草と悪魔」(>>)という作品をみずからお書きになっているではありませんか?

それはさておき、、 先の「誤訳」という文章。。 マドンナを奥さんと訳したのはどんな文章中のことかは知りませんが、、 私が今までで最ものけぞった誤訳、というか 誤注というのは、 ここで芥川がとりあげているまさにド・クインシーの「阿片常用者の告白」についての文章でした。

龍之介の師匠でもある夏目漱石先生が『倫敦消息』のなかで (青空文庫で読めます>>
 「オキスフォード」で「アン」を見失ったとか、「チェヤリングクロス」で決闘を見たとか云うのだと張合があるが

と書いている「アン」という名前に対して、 (これは固有名詞ではなく女性一般をさす「お花ちゃん」のようなものか) という注釈がついていたこと。。 もしかして改訂がなければ今でもそういう文庫があるのかもしれません。。 誰!?お花ちゃんて・・・!! と最初読んだときまさにのけぞりましたわ。。 龍之介の言う「マドンナを奥さん」 まさにそれ!

オックスフォード通りを彷徨っていたド・クインシーと少女アン。。 大正時代だったらこんな「誤注」はなかったかもしれません、、 せめて芥川龍之介が昭和までずーっと生きていてくれたら 気づいてくれたかもぉ……(涙) などと思うのでした。。


話逸れましたが、、 上記の「読書書誌索引」を見ていて(ありがたいことに年月も書かれているので) 芥川龍之介最晩年の昭和2年に アンドレーエフの「イスカリオテのユダ」に言及していたらしいのを見つけて、、 どんな風に読んだのだろ… などと興味が。。

アンドレーエフの「イスカリオテのユダ」、、 近年 新しい翻訳本が出ているので今度読んでみようと思っています。


いろいろ勉強、、 いろいろ読書、、 の



春なのです。
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