星のひとかけ

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Winterreise『冬の旅』:第十三章「郵便馬車」Die Post

2019-02-08 | 文学にまつわるあれこれ(詩人の海)


イアン・ボストリッジさんのCDで聴く この第13曲「郵便馬車」とその前の「孤独」との間には 少しの空白があります。 それはもともと シューベルトの『冬の旅』の作曲スコアが 第一部、第二部、と分かれていたからなのでしょう…

この13章ではそのことについての説明がまずあります。 一部と二部の間で休憩を取るべきなのか、 続けて演奏するべきなのか、など。。

前回の「孤独」では、 その前の炭焼き小屋で目覚めた旅人が、 青空のもと歩き出した様子を想像しました。 …だから、 この「郵便馬車」は、 そうして旅を再び始めた男の背後から 遠く郵便馬車の響きが近づいてくる… そんなふうに想像します。。 であるとすれば、 私の想像では 休憩を入れずにCDで聴くように少しの間をおいて 「郵便馬車」へとつながった方が良いような感じがします。


ボストリッジさんは 次に、 この「郵便馬車」の《角笛》に注目し、 そのことと第5章の「菩提樹」の中で聞こえてきた《角笛》との関連を説明するのですが、、 「菩提樹」に角笛が出てきたということを全く私は覚えていませんでした、、 (角笛?)… 第5曲を聴き直してもよく分かりません、、 本をもう一度遡って「菩提樹」のところを読むと、、 
 
 「この角笛をおぼえておいてほしい」 とちゃんと書かれています…

……「菩提樹」のピアノ、、 風のそよぎ… 葉のきらめき… 、、、角笛… つのぶえ…??

、、何度も聴き直して、「郵便馬車」と聴き比べて、、 ようやくこれかなぁ… と感じるものはあるのですが、、「菩提樹」の野に遠くからひびく角笛…  あぁ むずかしいですぅ…

「郵便馬車」の角笛はすぐに判ります。 駆けてくる馬の蹄の響きのあと、 高らかに鳴り響く角笛(ラッパ)の音。。 ほとんど(どいた、どいたーー!!)と叫びながら疾走してくるかのようです。 御者は角笛を吹き鳴らしながら 山道を疾走してくるのでしょう。。



「イギリスの郵便馬車」トマス・ド・クインシー 高松雄一ほか訳
   『トマス・ド・クインシー著作集Ⅱ』国書刊行会

ボストリッジさんもさすが英国人、 この章でやはりド・クインシーの描いた郵便馬車にも触れています。
ド・クインシーが郵便馬車を利用したのは オックスフォード時代、と著書にありますから1804年ごろでしょうか、、 上のフォトに抜粋した部分にもド・クインシーらしい諧謔にみちた文章で書かれていますが、 郵便馬車の御者が吹き鳴らすラッパの音を聴くと 道の荷馬車やほかの馬車があわてふためいて道を開けた… とありますから、 郵便事業をになう公共の郵便馬車はなにより最優先で時間順守で街から街へ、 疾走していたものと思われます。

、、 旅人はきっと 背後から迫ってくる馬車の響きと角笛の音に振り返り、 それが郵便馬車であると気づいて、 またふたたび心の中に あの去って来た町、 あの女性の住む町、、 そして 有り得そうもないのに自分への手紙があの郵便馬車に積まれているのではないかしら… などと 断ち切れない想いがまた頭をよぎってしまうのです、、

、、 すべての通信が《郵便》しか無かった時代、、 そういえば ブロロロロ… と郵便屋さんのバイクの音がして、 ゴトッと玄関のポストに何かが落とされる音… そういう《音》が気持ちを高鳴らせた時代がたしかにあったような気がします。。 恋をしていれば一瞬のスマホの震えにだって 胸がざわめくものでしょう… きっと。。



楽曲を聴いていると、、 たぶん 旅人の背後から迫って来た郵便馬車は 第3連の前のピアノの間奏あたりで 旅人の横に並び、、 旅人はそこに積まれているであろう誰かの郵便に胸を締め付けられるような気持ちで御者と馬車を見つめ、、 
、、 でも 曲の最後には 旅人を置き去りにして 郵便馬車は先へ遠ざかって行ってしまうのです。。

 ***

この歌とは関係はとくに無いですが、 ド・クインシーの筆によれば、 郵便馬車には旅客も乗ることが出来たそうで、 馬車の室内には4人乗ることが出来て、 そのほかに 御者台の後ろに(屋外に)2人乗ることが出来たそうです。(スコットランドでは屋根に3人乗れたそうです) 、、オックスフォードの学生だった著者は、 (旅費も割安なので)もちろん外の席で御者と馬たちが疾走するのを興奮して眺めながら、、 猛スピードで走る郵便馬車と前方から来るアベックの乗った小型馬車とが すれ違いざまにまさに衝突しようとしている様子をスリリングに描き、 たぶん史上初の《交通事故》の恐怖を描いた散文になっているかと思います。

、、夏目漱石先生が好んだトマス・ド・クインシー、、 『三四郎』では明治期 急速に張り巡らされた鉄道網による列車事故、 鉄道への飛び込み自殺という《轢死》を描いてますね。。 ド・クインシーの恐怖に学んだ点はあるかと思います。。 以上余談でした。

 ***

今日は 私にとっては嬉しい知らせが一つ 届きました♡ チケット取れたよ♪


明日は朝から雪になるのかもしれません…

お出かけでなければ 雪景色もたまにはよいかも…


空からの うつくしい便り…… とどくかな…?

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