星のひとかけ

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『ニイルス・リーネ 死と愛』②

2019-05-22 | 文学にまつわるあれこれ(詩人の海)
先月書きました(>>) イエンス・ペーター・ヤコブセン (Jens Peter Jacobsen)の古書 『死と愛』… ほんのすこしずつ読んでいます。。 ほんの 少しずつ…

そのようにしか 読めません。 そのような時間の流れでしか…


戦後2年目という時期の古書であるため 舊漢字が難しいことも 活版の印字がたまに薄く掠れていることも そのせいもありますが、、 ヤコブセンの描写の緻密さに… 


38歳で逝ったヤコブセンはこの作品を三年ほどかけて書いたようです。 構想を友人に語ってからは もっと長い日々が過ぎていたはずです。 その間、 モントルー、 ローマと転地療養しながら執筆を進め、 しかし 1879年には病状が悪化して殆んど筆をとれず 「『ニイルス・リーネ』はこのまゝ完成を見ずに終るしかないと見えた」 と、 訳者 山室静さんのあとがきにはあります。

 ***

少し 引用をします。


59頁 ある女性の病床

 「 最後が來たのは、五月の、雲雀がひねもす囀りをやめず、青麥が目の前で伸びるやうなあの光りにあふれた日の一つだつた。彼女の窓の外には眞白に花をつけて櫻の老木が立つてゐた。雪の花束や花輪、圓天井や穹窿や房飾り――眞青な空に浮き出た白い花の妖精の宮居。
   彼女はその日はひどく疲れてゐたが、その疲勞の中に、何か大變に靜かなもの――不思議な靜謐が感じられた。彼女は何が來るかを知つた。 (略)」


62頁 病状の傍らで祈る ニイルスの言葉

 「(略)… 神様、待つて下さい、待つて! 手遅れにならないうちにあの人を癒して下さい! 僕は……僕は何をお約束したらいゝのでせう?――おゝ、僕はお禮します、きつときつとあなたを忘れません。たゞ聞き届けて下さい! あの人が死にかけてゐるのがお解りでせう、死にかけてゐるのが。 (略)」


同頁
 「窓の外では、落日の光の中で、白い花が薔薇のやうに眞紅になつた。穹窿の上に穹窿が重なり、美しい花の群が、大きな薔薇の城、薔薇の大伽藍をなした。そのふわりとした圓蓋を透して、たそがれて來た青い夕空が見える。そして金色の光り、紫金の焔が、この花の寺院のすべての垂れた花環から流れでた。」


 ***

ここを読んで思いました。。 ここに流れている時間は ヤコブセンが療養をかさねながら ときには病床から ときには書斎の窓から、、 じっと戸外の花を見つめ、 書こうとする事柄を想い、 あるいはなにも出来ず身体を横たえたまま ただただ じっと風が花をうごかし、 陽射しがすこしずつ動いていくのを ただひたすら見つめていた、、 そのヤコブセン自身の時間がここに流れているのだ、、と。。


ヤコブセンの自然学者としての描写については、 以前、 「印象主義と詩人の魂:「モーゲンス」J.P.ヤコブセン『ここに薔薇あらば 他七篇』より」のところで書きました(>>
、、 その細密な描写が 『ニイルス・リーネ』の自然描写にも 人物の描写にもあらわれているのでしょう。。 でも いま『ニイルス・リーネ』を読みながら感じているのは 《時間》 です。 …ヤコブセンがたどった《時間》、、 観察者として、、 思索者として、、 病者として、、


だから…  なかなか 現代の日常の、 やるべきことに追われ 忙しいのが当たり前で、 深夜も早朝もあらゆるものが動いていることに慣れ切ってしまった都市生活の《時間》のなかでは、 この物語を味わうのはほんとうにむずかしいことだと、、 そしてきっと話の筋を求めていくと殆んどの人が投げ出してしまうだろうと、、 そう思います。。


… 物語はまだ始まったばかり、、 ニイルスはここで まだ十二、三歳の少年です。 ただ、、 この病床に伏す女性の傍らでの 神様への祈りが、 そしてその結果が、、 ニイルスの神への信頼に、 その後の生き方に、 きっと大きな變化をもたらすことは想像されます。。

 ***


先日、、 死ぬまでにあと何冊の本が読めるだろう、、と 家族と話をしました。。 年に二十冊として、、 5年で100冊、、 10年で200冊、、 そんな程度かな… と。

、、 5年はおろか 一年単位でしか 生命の猶予を考えられない(考えたことがない)自分としては、、 まずは、、 100冊 でしょうか… (百冊しか…? それともあと百冊ある…?)
音楽ならCD100枚を聴くのは私には簡単。。 でも 小説の100冊は大変… そして、 100冊を選ぶのはとても困難…


そのような《時間》のなかでも 『ニイルス・リーネ』はたいせつに読みます。 全14章のうち、 まだ5章…




先月 書きましたね、、 ヤコブセンは櫻の花の季節に亡くなった、と。。 上で引用した櫻の描写、、 落日の光の中では桜の花は眞紅になるのでしょうか、、 薔薇の大伽藍となるのでしょうか、、
そういえば、、 落日の桜の花をちゃんと見た事が無い気がします。。 ライトアップされた夜桜ではなく、、


ヤコブセンの観察者の《時間》からは 教わることがいっぱい、です、、



今週は お天気のよい日がつづきそう。。


… おげんきで
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