「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「薮虱・やぶじらみ」

2014-07-26 14:55:32 | 和歌

 散歩道の脇の草むらに、ごく小さな白い花が霞のように咲いていた。

 葉は切り込みが深く、茎も長細いので全体的にか弱い感じの野草だ。
そんな野草の白い小花が群れ咲く風情は、遠くから見れば、その辺りに霧か霞が
かかっているように観えて、印象的であった。



 花に近寄って見れば、「芹・せり」の花をごく小さくしたかとも思われ、葉の表情も
何処となく芹に似ている様だ。帰宅して野草図鑑のお世話になったが、「これだ!」と
確信のもてる野草が見当たらず、忽ち数週間が経った。

 その後、気になっていたが、昨日やっと彼女の名前が判明した。
何と「薮虱・やぶじらみ」だと云う。こんな可憐な白い小花が「薮虱」では、気の毒だと思いつつ解説を読み進めた。花が散った後に、ごく小さな毛の生えた実を付けるらしいが、その実の姿が「虱」に見えることから、お気の毒な名前を授かった様だ。



 日本の生活様式は、昭和初期に比べ激変した。市民生活も極めて衛生的になって、「蚤・のみ」や「虱・しらみ」を見かけることは皆無ゆえ、「虱」自体を知る人も数少なくなった。かつては犬や猫の毛の中に生息した「虱」が、人間の肌着などにも棲みつき、人の肌を刺すことが間々あったものだ。謂わば嫌われ者の代表格だが、野草の名前に使われて残っていようとは、思いもかけぬ発見であった。

 一匹のハナアブが、白い小花の花蜜を一心不乱に吸い続けていた。
「花の名前? 私は興味ありません! こんな美味しい花蜜を頂けるなんて、とても
シアワセよ!」 てな、ハナアブの声が聞こえそうだった。




           草むらに霧か霞かそこかしこ

           白き小花の群れ咲く景色は


           ハナアブに

           この花の名を問いしかば

           一心不乱のハナアブは

           問いには答えずひたすらに

           白き小花の花蜜を

           余所見もせずに吸いにけり

           彼女の応えは如何ならむ

           こころのうちを察すれば

           お花の名前? 知らないわ!

           こんなに美味しい花蜜を

           吸わせて貰ってシアワセよ!

           野に咲くお花の お食事を

               お願いだから 

               邪魔をしないで!


           ハナアブが花蜜吸えば受粉して

           やがて結ぶや 薮虱の実を