「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「強制避難と庭園」

2014-04-27 15:59:13 | 和歌

 福島第一原子力発電所にほど近い富岡町にお住まいで、現在は避難生活を強いられている北村俊郎様のご厚意で、ご自宅の庭園の写真を紹介させて頂く。

 同氏は福島事故に関連したエッセイ、或いは論考を丹念にご執筆になり、毎回3編を関係者にメール配信されているが、今回はご自宅の庭園の写真を添付されて、
次のように付記してあった。
「今年の桜は色が濃くて綺麗です。添附の写真は、先日一時帰宅の際に撮った自宅の垂れ桜です。地面が草だらけなのが見苦しいのですが・・・。 また、東屋が傾き、垂れ桜の下にあったミツマタの木が枯れてしまっています。」

 震災発生の3月11日の深夜、政府は何の前触れもなく避難指示をだしたが、大熊町など一部の立地々域にのみ伝えられた。突然の指令でバスに乗せられ、行き先も定かでない緊急避難で、住民の皆様にとっては不安を煽る避難だったと聞いている。一方、富岡町などには政府からの連絡は届かず、発電所からの連絡を受けた町長の独断で、翌日の朝に避難指示が放送されたという。

 この様な混乱状態で始まった強制避難は、以来3年余の長期に亘るが、庭木の手入れも草取りも出来ずに放置された庭園を訪ねるのは、ご本人にとってはさぞや辛いものがあろうかと拝察する。

 さは申せ、林を背にした桜の華麗さは見事で、萌えいずる若葉と相俟って、一時帰宅された北村氏に安らぎをもたらしたに違いあるまい。



 見事な庭園の荒れた状況を、ブログに転載したいとの虚庵居士の厚かましいお願いに、快諾された同氏は、3・11事故前の手入れの行き届いた名園の写真をもお送り下さった。

 広大な敷地に様々な庭木を按配よく植込み、庭木の奥まったところに東屋を配し、丹精込めて手入れをされた名園は、惚れぼれと見飽きない。


                           二枚とも 北村俊郎氏ご提供

 国際放射線防護委員会(ICRP)が日本政府に勧告した緊急避難の判断線量は、
年間20~100ミリシーベルトだ。この範囲であれば人体に影響がないと、ICRPが科学的に判断した数値だ。強制避難の後、だいぶ経ってから日本政府は最小値20ミリシーベルトを避難基準に定めたが、大きな判断ミスを犯したことになる。

 事故発生時は、最大許容線量の100ミリシーベルトまでは安心ですよ、との基準を明示すべきであった。逆に最小値を選んだこと自体、国民の不安心理を煽る結果になった。加えて当時の政権は、放射能の除染レベルを1ミリシーベルトに約束したので、国民の心理的な安全基準は実質的に1ミリシーベルトになった。
「出来る限り低い基準を定めれば良い」との判断は、一見安全サイドに見えるが、
明らかな誤りだ。許される最大値を示し、事故の収れん状況に合わせて、管理基準を下げるべきだったのだ。

 また緊急避難にさいしては、ICRPが科学的に判断した数値を、国民に解りやすく説明すべきであった。強制避難の継続が個人に与える心理的な負担は、並大抵ではない。殊に放射能放出が低減した段階での帰還については、選択肢を準備して、個人の判断と希望を重視すべきだ。

 住いの環境とは、心の安らぎが得られる環境でなくば意味がない。
北村様が丹精込めた名園に、一日も早く戻れる日を願って已まない。 


           草の生す庭になりけり避難して

           三とせを経れど桜は迎えぬ


           垂れ咲く庭の桜にたずねれば

           色に出にけりあるじを待つとぞ


           草生してあるじ待ち侘ぶ庭に立ち

           詫びるこころを写真に偲びぬ


           請いねがい庭に植えにし三椏の

           木枯れ悔しも責めな己を


           庭の木々と心ゆくまで語らひを

           重ねて寛ぐその日の早かれ