「うつろ庵」の紫蘭が咲いた。
ムスカリの咲き残りがちらほらする花壇に、紫蘭の葉と共に多数の莟が出始めたと
思ったら、春の陽ざしをうけて忽ち花穂を伸ばして、莟が膨らんだ。
石畳を踏んで虚庵夫人と共に花々にご挨拶するのが、毎朝の
長閑な日課であるが、目に見えての成長は嬉しい愕きだ。
莟の縞模様も緑葉に交じって、 なかなか乙な趣きがあるが、莟が
膨らんでくると開花の期待に胸がときめく。
そんな期待を担って、先ずは一輪が花開いた。 朝日を浴びた紫蘭の花に、虚庵
夫妻はしばし見惚れた。
ふと気が付けば、幅広の葉に紫蘭の花陰がくっきりと落ちて、花を咲かせてくれた母なる葉に、ご挨拶しているかの風情であった。
花穂が風に揺れる姿を目を細めて眺めている間に、何時やら狭い「うつろ庵」の花壇は紫蘭で溢れるこの頃だ。
「うつろ庵」の紫蘭は、葉の縁にごく細い斑が入る洒落た品種だが、ごく控えめの斑入りゆえ、花の品格を損なわないのがよい。あれこれと紫蘭と語り、飽きずに遊んでもらう虚庵夫妻である。
ムスカリに次いで紫蘭は葉を伸ばし
莟の縞の模様も粋かな
日をおかず膨らむ莟にときめきを
託せば応えて一輪咲くかな
幅広の緑葉に落とす花陰は
開花の感謝を囁く姿か
あれやこれ飽かずに語らひ重ねれば
何時しか紫蘭の溢れる苑かな