「こむらさき」が、ごく小さな花を付けていた。
葉が対になって左右に開くその脇から、花茎が二・三本づつ伸びて、それぞれに米粒よりも小さな莟を沢山付けている。小枝の根元から先にかけて、かなりの日数をかけてじっくりと咲き進むので、枝の元には既に緑の小粒の実を結んでいた。小枝の先では、まだ莟も小さな状態だ。枝の先端まで咲き進むまでには、まだまだかなりの日数が掛りそうだ。
秋の訪れとともに実の紫の色が濃くなって、林の縁などに自生する「紫式部」を見かけると、はっと目を瞠る。虚庵居士の伊豆のホームコースへの行き帰り、山道を走りながらスピードを落として、車の中から挨拶するのが毎回の慣わしになっている。朝は、がんばって来るよと呼び掛け、成績の悪かった帰りには、無言ながら慰めてくれる「紫式部」だ。
自生の「紫式部」は、紫の実の付き方も疎らだが、それなりの佳さがあって好ましい。住宅地の散歩で見かける「こむらさき」は、基本的には「紫式部」と同じ種類であろうが、園芸種として改良を加えられている故だろうか、紫の実が数多いようだ。
それにしても、源氏物語の作者「紫式部」の名を頂いて、自生の紫の実に名付けるとは、昔の人々もなかなか乙なものだ。
こむらさきの
さ枝に姉妹を 思ふかな
姉さま夙に 実を結び
花房咲くは 妹か
小枝の先の 稚けなき
莟は末の 妹か
すだく虫の音 秋風の
吹き渡るころ 如何ならむ
揺れる小枝は 装うや
錦と紫 身にまとふ
みやびの姉妹の そのお名は
紫式部に 小紫かな
紫の小粒の実房に何たくすや
いにしえ人の夢ならめやも