近研ブログ

國學院大學近代日本文学研究会のブログです。
会の様子や文学的な話題をお届けします。

【2013年 長野合宿】

2013-08-13 03:53:00 | Weblog

 合宿委員の熊谷です。

 はじめに、岡崎先生や参加して下さった会員のみなさんのおかげで、有意義な合宿になったことを、心よりお礼申し上げたいと思います。至らぬ部分も多く、ご迷惑をお掛けしてしまったことも、ここにお詫びしておきます。
 また、合宿委員の先輩方には、不慣れな部分をご指導していただき、大変お世話になりました。重ねてお礼申し上げます。

 今回の合宿は、僕の地元である、長野県で行われました。
 見慣れた景色や、訪れたことのある場所も、新鮮な気持ちで巡ることができたのは、研究会のみなさんと一緒だったからだと思います。

 月並みですが、日にちごとに順を追って書いていきたいと思います。

 【8月1日(木)】
 しばらく前から帰省していたため、最初はみんなと別行動、朝もゆっくり起きれば良かったのですが、明け方からの雨に、早朝より目が覚めました。日程の心配もしていましたが、家を出る直前になって急に雨はやみ、大げさですが今回の合宿は天も味方しているように感じました。
 上諏訪駅でみんなと合流し、荷物を民宿に預け、最初の目的地、高島城へ。そのころには太陽の光が矢を射るようにさしていました。道中、「このあたりは道が遠くまでまっすぐ続いている」とご指摘してくださった方がいて、なるほど確かにその通りだと思い、改めて考えてみると、歩いた場所は近代になってから埋め立てられたところで、あくまで私見ですが、ヨーロッパの街のように、ある程度の計画性をもって作られたのではないでしょうか。
 高島城内では、職員のかたのご好意で、お城の歴史などを説明していただきました。
 最上階から望む諏訪盆地はなかなか見事なもので、さわやかな風も吹き込み、しばし穏やかなときを過ごせました。午後に乗った遊覧船「おやこはくちょう丸」が諏訪湖上をぷかぷかと漂っているのも見られました。
 昼食をとったあとは、予定を前後させ、諏訪市美術館へ。一日目はしおりの通りに進まないことが多く、日程を立てた身としては、反省せずにはいられませんでした。幸い今井さんの臨機応変な対応により、大きな混乱もありませんでしたが、今後このような機会があったら、もう少し想像力をはたらかせ、机上のプランと実際の行動との乖離をなるべく減らせるように努力していきたいと思います。
 美術館では、諏訪出身の画家、藤森青芸(ふじもりせいうん)の企画展をやっていました。大胆で迫力ある絵、しかし一歩二歩近づいて見れば、非常に繊細な筆のタッチで描かれている青芸の絵は、目を引いてなかなか離しませんでした。また、同じく諏訪出身の、彫刻家細川宗英の展示もあり、こちらはシュルレアリスムを感じさせるような独特の抽象性を持った彫刻が多く、何かよくわからないままに作品世界に引き込まれてしまう印象でした。
 美術館を出たあとは、遊覧船乗り場へ。
 諏訪湖を一望できる遊覧船、おやこはくちょう丸は、混雑もなく、非常に快適な航行になりました。湖上の風を受けながら眺める街並みは絵葉書のようで、普段の生活が遠く感じられました。
 およそ30分の遊覧が終わり、まだ明るいうちに、民宿「すわ湖」さんへ。時代を感じさせる建物ながら、趣のある内装で、ご主人の丁寧な対応もあいまって、温かみのある宿でした。
 夕食後は諏訪湖上で15分間の花火大会があり、揃って見に行ったところ、同じように近場の宿から浴衣のまま観覧しに来た人が沢山いて、風情のある光景になっていました。花火が打上がるたびにその場の人がそろって歓声をあげるのも、おもしろいものでした。
 そして夜も更け、
   来ぬ人を待つとはなくて待つ宵の更けゆく空の月も恨めし〈有家朝臣〉

 【8月2日(金)】
 合宿2日目は松本へ。松本には僕の母校があり、個人的にはなじみの深い場所ですが、今回はまた新たな発見もありました。
 まず最初に訪れたのは、俗に烏城(からすじょう)と呼ばれている、松本市のシンボル、松本城です。以前訪れたときよりも階段が急に感じられ、やっと辿り着いた天守閣ですが、そこから見られる松本市街は、城下町らしく整然と建物が立ち並んでいました。松本市では、この景観を守るため、新しく建築される建物の高さに制限が掛けられていることをふと思い出しました。経済発展だけを考えれば、歓迎されることのない条例ですが、合理性だけを突き詰めて町を無機質なビル群にしてしまうよりは、はるかに人間らしい、良い取り決めだと思います。
 その後、徒歩で旧開智学校へ。すぐ裏手にある松本市中央図書館にはよく通ったのですが、旧開智学校には初めて入りました。建築費のおよそ7割が住民の寄付によるものだったということを知り、当時の、小学校に対する期待・教育に対する熱意を、あらためて感じられました。こうした広く開かれた小学校の存在が、日本の近代化に少なからず貢献したことは、言うまでもないと思います。幼い弟を背負ったまま教室で勉強している女の子の写真が、頭から離れません。
 昼食のあとは、旧制松本高校へ。北杜夫の企画展をやっていました。以前読んだ『どくとるマンボウ青春期』のころの展示が多く、若さとエネルギーに溢れた学生生活の様子が、より具体的に伝わってきました。
 駅周辺に戻ってからの自由時間では、お土産を買う必要もなかったので、懐かしい通りなどを歩いてみました。若干町の雰囲気が変わったように感じられたのは、建物や道が変わったのではなく、昔は意識もしていなかった路地裏の居酒屋やタバコ屋が目に入るようになったからかもしれません。その分、見えなくなったものもあるはずで、それを思うと少し寂しい気持ちになりました。
 電車に乗って、再び民宿へ。この日の夜の花火は、Billy Joelの『Piano Man』に合わせてあがりました。ちょうどこの記事を書いている喫茶店でも同じ曲がかかっていたので思い出しました。
 長い一日が終わり、
   ふたつなきものと思ひしを水底に山の端ならでいづる月影〈六帖一・新撰・貫之〉

 【8月3日(土)】
 最終日は電車を乗り継ぎ、小諸へ行きました。
 昼食をとり、まずは懐古園へ。藤村の『千曲川のスケッチ』にたびたび登場するので、どんなものか想像をふくらませていましたが、予想よりもだいぶ広くて驚きました。眼下に千曲川を望める場所もあり、昔の人も同じ景色を見ていたのかと思うと、感慨深いものがありました。一日中でも見て回れる場所なので、機会があったらまた訪れたいと思います。
 そのあとは、高浜虚子記念館へ。合宿最後の目的地です。
 展示自体は少ないものの、虚子の小諸時代の資料が揃っていました。かつての住居「虚子庵」も隣接しており、当時の生活の一端を垣間見ることが出来ました。
 帰る前の自由時間、小諸ではお祭りをやっていたため、出店を回ってみました。何年振りかに射的をやってみたところ、身長が伸びたためか、思いのほかうまく的に当たり、なかなか楽しめました。
 東京へ帰ってゆく先生や学部生のみなさんを見送り、電車の時間になるまで、ひとりで合宿の続きと言わんばかりに小諸を散策してみましたが、暮れてきた街に祭りの太鼓が鳴り響き、少し感傷的な気分になりました。


 今回の合宿では、思いがけず地元の観光をすることになりましたが、見知った場所の新たな一面が発見出来て、非常に有意義な時間を過ごせました。また、読書会ではあらためて自分の勉強不足を思い知らされました。記事で読書会のことを書かなかったのは、そのことも含め、少々思うところがあるためです。研究会として最も大事な部分を省いてしまったことを、ここにお詫び申し上げます。

 立秋を過ぎましたが、暑さが尾を引く、どころか、体ごとぶつかってくるような厳しい日が続いています。9月の勉強会でまた元気に会えるよう、どうかご自愛ください。

  一年 熊谷