近研ブログ

國學院大學近代日本文学研究会のブログです。
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武田麟太郎「反逆の呂律」発表

2009-10-21 01:59:15 | Weblog
こんばんは、西山です。
今回は武田麟太郎の「反逆の呂律」の発表を行いました。発表者の方ありがとうございました。
今年は「新感覚派とその周辺」というテーマで1年間研究しています。今までは新感覚派の作品を中心に論じてまいりましたが、今回の作品は「周辺」に当るプロレタリア文学と位置づけられています。
先行論ではこの作品は、〈「プロレタリア文学」の「事実」を志向する形式が虚構でしかないことを暴く〉ものだとされていますが、発表者の方は〈ウメ子〉の聞き書きが作品に与える影響を再検討し、武田麟太郎の方法意識を探るにあたり、先行論の意見に検討の必要性があるとおっしゃっています。
そして、〈自然発生的〉な労働運動家である〈仙吉〉を、思想体系に基づいた運動家である〈ウメ子〉に語らせる形式をとりながらも、〈ウメ子〉と作者の距離を近しくすることによって、作者の姿勢を表現しています。このことから、この作品は思想を表現するためのプロレタリア小説と考えることができ、必ずしもプロレタリア文学への反逆の志向によって作られているわけではないとされました。そしてこの作品の技巧性が、武田の後の市井ものと呼ばれるような「日本三文オペラ」などに発展していく可能性を持つとされました。

質問としては、この作品におけるプロレタリアの意味や、〈虫〉が表すものにラブロマンスがオーバーラップされるのではという意見や、〈ウメ子〉が語る物語のリアリティの信用性などがでました。
また、聞き手側も発表にかんすることはもちろん、文芸批評用語も日々の学びの中で理解しなければならないと痛感しました。

来週は広津和郎の「散文芸術の位置」の発表です。発表者の方よろしくお願いいたします。
風邪が流行っているようですので、皆様体にはくれぐれもお気をつけ下さい。