7月31日(火)の夕方、治療所の電話がなりました。
「村岡先生、こんにちは。今川越のおばあちゃんちに着いたよ」
西表島(沖縄)に住む健呂(たける)クン(小学2年生)が、夏休みを利用してお母さんの実家にやってきました。お母さんと弟2人との計4人、1年振りのことでした。
去年抜けていた健呂クンの上前乳歯が、まだ永久歯に生え変わらないというのです。歯科検診で切開したらどうかと勧められている、とあらかじめ聞かされ相談を受けていましたので、「さっそく明日来てください」と伝えました。
翌8月1日(水)、朝一番でワイワイとにぎやかな健呂クンと弟クン達が来院。子供は3人とも指圧が大好きで、ちゃんと圧させてくれます。お母さんの指圧も入念に行いましたが、とても疲れていて、身体中コチコチになっていました。
その後皆がホッとしたところで、今後の治療計画の予定をたてました。来週たっぷり時間をとって、健呂クンの前歯が出るように治療してみようということに決まりました。もちろんお母さんと2人の弟クン達の施術予定も作りました。翌週1週間の勝負です。
「よし! やるぞ!」
なんだかファイトが、湧いてきました。
8月3日(金)、次男の波流(はる)クンが2日まえに熱を出していたのが、きれいに治っていました。2歳の末っ子朝光(あさひ)クンもそばに来て、「ここが痛い」と言っては早く圧してほしがります。
8月7日(火)朝、今度は健呂クンが発熱した状態で来ました。川越の実家がお医者さんですので、さっそく検査したところ溶連菌(ようれんきん)が確認され、皆がとても心配していました。溶連菌感染症のひどいのが「しょう紅熱」です。
しかし、健呂クンがよく圧させてくれるので、充分な手応えがあり、「大丈夫! 自力で戦える治癒力がある」と確信できました。
8月8日(水)朝、1日ですっかり熱が下がった健呂クン「うーん、あったま痛い!」と言って、来るなりマットにパタリと横になってしまいました。しかもタオルケットをスッポリかぶっていかにもつらそうです。
菌があるからと薬を飲まされたけど、全部吐いてしまったとの報告を受けました。
「頭が痛いヨー」
「今、治してあげるからネ!」
「オッケー!」
この時、健呂クンの症状好転の中に面白いものを感じました。
「もしかして?…」
この日は、親子4人を治療して終わりました。お母さんにそっと健呂クンのオネショの具合を聞いてみたところ、ほぼ毎日とのことです。圧した手応えで、「明日はしないかも?」と伝えました。
8月9日朝、お母さんに電話をしてみました。
「今朝、オネショは?」
「あっ、してません」
手応えが間違いないことが、確認できました。
8月10日(金)今日は、子供たち3人の治療です。皆すっかり元気です。健呂クンは、来るなり右肩が痛いと言っています。永久歯の具合と関係があるかもしれません。
オネショのほうは、圧点にわずかに硬さが出ていたので、本人に聞いてみたところ「少しだけした」との答えが返ってきました。なるほど、身体は正直です。
昨年夏休みにオネショを含めた治療をしたのですが、今一つ効果が上がらずにいました。今回こそは、成果を期待できそうです。
去年と今回の効果のちがいは、実は「圧し方」のちがいでした。そのせいで、弛みかたが全く違ってくるのです。今回、「こういうふうに弛むものなのだ!」との手応えを得ることができました。
机上の学問で、「どこを圧せば何に効く」といくら知っていても、正しい圧し方ができなくては、本物の効果を出すことはできない、と今更ながら思い知らされました。
ところがこの圧し方というのが、難事中の難事なのです。ですからほとんどの指圧師ができていない、というのが実状です。 私も指圧師の免許取得後18年経って、改めて鈴木林三先生の基本指圧を学び始めてさらに13年余り、ひとつひとつの問題を先生に指導を受けながら解決してきました。
そのような中、昨年暮、指づくりに確かな手応えを得てから、今年はずいぶん圧し方に変化を得られました。そのせいでこれほど効果が出せるようになったのだ、と本当に喜んでいます。
8月12日(日)。
「健呂が昨日すごい熱を出したんです」
お母さんの第一声です。
「きっと歯が生えるための熱だから頑張れ!と言って励ましました」
見ると健呂クンの表情がとてもいい感じです。オネショもしてないとのことです。きっとあっちもこっちも、みんな一緒にお兄さんになるんだね! と皆で明るい気持ちになりました。
13日から当治療院はお盆休みです。翌週仕上げの治療をしたら皆そろって西表へ帰島の予定です。
8月17日(金)、“また会える時まで元気でいられますように!”との思いを込めて、最後の仕上げの治療をしました。コチコチだったお母さんの身体もずいぶん回復しました。どういう訳か、末っ子の朝光クンだけがくずって圧させてくれませんでしたが、皆体調を整えて元気に手を振って再会を誓いました。
7才、5才、2才の男の子3人とお母さんの治療は、実に賑(にぎ)やかでした。今静かになって少し寂しさを感じています。
子供たちの健やかな成長に、多少なりともお手伝いできる喜びは、言葉では言い尽くせないものがあります。拙いながらも「指圧をやっていてよかった」と心から思える仕事に、つくづく幸せを噛みしめるものです。