こんな気持ちでいられたら・・・一病理医の日々と生き方考え方

人生あっという間、私の時間もあと少し。
よりよく生きるにはどうしたらいい?

3月21日はダウン症の日 (World Down Syndrome Day ; WDSD)

2012年03月21日 | 家族のこと
 先日、「3月21日って、ダウン症の日なんですって」と妻に言われ、思わず吹き出してしまった。妻はなぜ、私が笑ったのかわからずにきょとんとしている。

 ダウン症は正しくはダウン症候群といい、発症率は新生児1,000人に1人とけっして低くない。 病気の原因はtrisomy 21が最も多い。trisomyとは三染色体性という意味で、本来は46本の染色体にさらに1本余分な染色体がある状態をいい、trisomy 21といえば、21番染色体が1本余分、3本あることをいう。日本語だと21トリソミーとなってしまうが、英語表記ならばtrisomy(三染色体) 21である。だから、321日。

 「よく考えたなー」と、理由を妻に説明しながらも、「では、3月はトリソミーの月とした方がいいのではないか」などと考えたが、ほかのトリソミー症候群についてもそれぞれあるのかもしれない。

 私より3歳年下の弟はダウン症で、私が小学生の頃、医者になろうと思ったのは弟を治してやりたい、と思ったからだ。その後、ダウン症が治らない病気であることがわかったのと、医者以外に進みたい道があり、医学部進学を躊躇したりもした。それでも、小さい頃、弟のために医者になると公言してしまったことから引っ込みがつかなくなり、結局医者になってしまった。これが良かったのか悪かったのかはわからないが、今の私があるのは結局のところ弟のおかげであることだけは間違いない。(一度の人生を良いとか悪いとか言うのは意味が無いのだが・・・)

 妻に321日がダウン症の日だと言われて吹き出してしまったのには理由がある。なるほどよく考えたなー、ということが一番ではあるが、ダウン症児はとても明るく、優しく、愛嬌があり、微笑ましい。だから、一緒にいて楽しく、障害を持っていることによるハンディキャップを感じさせないでくれる。最近ではタレントになっている人もずいぶん増えてきた。

 数年前にも書いたが、"障害者の人というのは、いわゆる"健常者"のシステムに合わせるのが困難な人"にすぎない。だから、そういう人たちを障害者と表現するのは不適切である。現状、ほかに代わる言葉が無いので、障がい者といったりもしているが、もうちょっとましな言い換えは無いものだろうか。また、昔は”知恵遅れ”などと言ったりもしたが、戦争をしたり原発を作って自滅するような知恵を持った人(=健常人)を知恵者といえるかといえば、決してそのようなことは無い。価値、善悪など、相対的なものでしかない。

 ダウン症の人たちもそれなりの行動基準、判断がある。駅などで、ダウン症の人が困っているようなのを見ると、手助けしてあげたくもなるのだが、家族でも何を考えているのかわからないこともあるし、下手に誘導すると迷子になりかねない。困っていそうだからといって、不用意に”健常者の常識”を押し付けてはいけない。

 trisomy 21として生まれてきた人の、体中の細胞から1本余計な染色体を消すことは不可能だ。皮膚や腸管上皮のようにターンオーバーのある臓器の細胞であれば可能性も残っているかもしれないが、脳や腎臓の細胞のように一旦形成されて死ぬまで使い続ける細胞というのもある。こういった細胞一旦構築され、組織を形成しているため、どうしようもない。別の世界からやって来た人と思うしかない。

 私の願いは、一度でもいいから弟が考えていることを、彼の口から聞くことだが、残念ながら、私は一生彼と日本語や英語で話すことはできない。単に、弟は、私に対して普通にしゃべっているのに、それを私が理解できないだけなのだが。ときどき兄弟喧嘩もするが、兄弟仲は悪くないと勝手に思っている。

 今日321日がダウン症の日(World Down Syndrome Day ; WDSD)ということを知って、こんなことを考えることができてよかった。家族のみならず社会全体でダウン症のことを考える日、ということだろう。


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