最近なぜか逆格子のブログへのアクセスが増えている。
逆格子は難しい概念だろうか。私は難しい概念だとは思わない。ただ、その従来の説明の仕方が、天下りなので難しいように思われるのだろう。
これについては私自身の理解にいくつかの未解決のことがあるので、逆格子についてのエッセイを書きかけで仕上げてはいないのだが、世間の人にそれについての要望があるのなら近々書いてみたい。
私の大学院で行っていたセミナーで有名なキッテルの固体物理の本(もちろん翻訳)の一部を毎年講読していたが、この逆格子の説明を私は実数の逆数からはじめていた。
普通の数に逆数があるように直接格子ベクトルにも逆格子ベクトルがあるというのが私の見解である。
ただ、実数の逆数とちょっと違ったところがある。
それは実数の場合にはその逆数は実数体の中にあるのだが、逆格子ベクトルは元の直接格子ベクトルの空間にはない(私はそう思っているが、間違っているかもしれない)。そこが実数の場合とは違う。
北野正雄著『新版 マクスウエル方程式』(サイエンス社)によれば、直接格子ベクトルは実空間のベクトルであり、それに双対な空間のベクトルが逆格子ベクトルであるという。もっとも北野さんの本にはこのことは明示されていなかったでしょうか。
ところが、逆格子ベクトルと直接格子のベクトルとの積が定義されて、かつそれがある実数とその逆数のような関係にあるとするとこの演算が許されるもっと大きな空間があるのではないかと思ってしまうが、その辺が自分でもよく分かっていない。
ベクトルとベクトルとの積がスカラーになる、スカラー積とか擬(軸性)ベクトルになるベクトル積とかは実数が体の中で閉じているという情況とは違うということをベクトルの歴史を書いた本の脚注か何かで読んだが、そういうことをその本を読むまで気がつかなった。
反変ベクトルの基底ベクトルを実空間での格子ベクトルとすれば、共変ベクトルの基底ベクトルが逆格子空間でのベクトルであるということは砂川重信著『相対性理論の考え方』(岩波)を読んで知ったことである。
最近では微分形式の理論が物理学者の間に普及している。微分形式では反変ベクトルは単にベクトルと言われ、共変ベクトルは1形式と言われている。
固体物理学で学んで知っている、逆格子ベクトルの概念と共変とか反変ベクトルとかが関係していることを長い間知らなかったのは、どこか私の物理学の学び方が悪いのだろう。
(2018.5.8 付記) はじめて逆格子ベクトルを学んだ人はだれでも、これを難しいと感じる。逆格子ベクトルの定義に表れる分母の因子(ファクタ)は単に正規化の因子だから、あまり重要ではない。まず比例定数を何か文字(たとえば定数 V)で表しておき、それを後で正規化の条件から決めてやればよい。そういうあまり本質的ではないことは後に残して、本質的なことに焦点をあてて逆格子ベクトルを定義すべきであろう。また、そのようにテクストを書くべきだろうに。それをしないので毎年この時期になると私のこのブログが検索されるという事態になる。