ゲストの okiさんに頂いたチケットで損保ジャパン東郷青児美術館〔特別展〕「甘美なる聖母の画家 ペルジーノ展 ~ラファエロが師と仰いだ神のごとき人~」を 観た。okiさんに感謝!
イタリア・ルネサンス関連の展覧会は多いが、日本ではあまり知られていないペルジーノにスポットライトを当てた展覧会が開催されるなんて画期的だと思う。2007年イタリア年との連動でなければきっと難しかったに違いない。
今回展示されていたペルジーノ作品は、現在ペルージャに残されている宗教画が中心で、主に初期作品と晩年期作品が多い。まぁ、それはそれで作風の変遷も辿れて興味深かったが、最盛期のペルジーノらしい甘美さの目立つ作品が少なく、ちょっと拍子抜けの感もあった(^^;;;
まずは、美術ド素人が今回の展覧会で知ったことをサックリとまとめてみたい。
イタリアはウンブリア地方ペルージャ近郊に生まれたピエトロ・ヴァンヌッチ(1450頃-1523)は、その出身からペルジーノ(ペルージャ人)と呼ばれた。地元での修行時代を経て、フィレンツェのヴェロッキオ工房で徒弟として学ぶ。当時、1470年代のヴェロッキオ工房にはボティッチェリ、レオナルド、ギルランダイオなどの若い才能が犇いていた。ペルジーノも頭角を現し、独立後はフィレンツェとペルージャに自分の工房を持つことになる。シクトゥス4世によるローマ(ヴァティカン)のシスティーナ礼拝堂側面壁画制作においてはフィレンツェ画家集団のリーダーとなって活躍し、その高名は広く知られることになる。
そんな最盛期のペルジーノを見て「神の如き画家」と記したのはラファエッロの父ジョヴァンニ・サンティだ。後年ラファエッロ少年はペルジーノ工房で学ぶ。
そう言えば、北イタリアのブレシャやベルガモ、ミラノなどで観た初期のラファエッロ作品はペルジーノ作品によく似ていたっけ。
ラファエッロ「聖セバスティアヌス」(ベルガモ)
しかし、ペルジーノは大工房運営の経営者として主題・構図などの使い回し再生産に向かい、盛期ルネサンスの絵画革新の波から取り残されていく。生き残るには、昔も今も、絶えざるイノヴェーションが必要なんだね(^^;;
ということで、漸く絵画感想に進む(^^ゞ
-展示はペルジーノ画業出発前夜のペルージャ画壇の作品から始まった。当時を代表する/画家ベネディット・ボンフィーリ(1418/20~1496)とバルトロメオ・カポナーリ(1420頃~1505)作品は、フラ・アンジェリコの影響だったり、金地背景など、平面的で装飾性の見られる後期ゴシック的なものを残す構図と作風だった。マザッチョ(1401~1428)やマンテーニャ(1431~1506)のような遠近法はまだ試みられていない。
ところが、ペルジーノの手に帰せられる1473年の工房作《ペトラッツィオ・ダ・リエーティの娘の潰瘍を治す聖ベルナルディーノ》になると、遠近法を使った装飾的建築物の奥行きと、背景の風景による広がり、そして下部に描かれた色彩豊かで優美な人物像による物語絵が不思議な空間を作り出していて、一挙にルネサンス世界が現出するのが面白い。
ペルジーノのフレスコ画《聖ロマヌスと聖ロクスに祝福を授ける父なる神》(1476)は特に向かって左の聖人にヴェロッキオの影響を色濃く見てしまった。図録にもあるが、とてもフィレンツェ風なのだ。それから、気に入ったのが下部に描かれた塔のあるデルータの街並み!のどかで柔らかな光に包まれ、素朴な壁の手触りまで感じてしまった。
《ピエタのキリスト(デチェンヴィリ祭壇画のチマーザ)》(1495)は小画面ではあるが、宗教画としての精神性の感じる質の高い作品だと思った。祭壇画自体はナポレオンによる略奪に会い、現在ヴァティカン所蔵だ。ドメニコ・ガルビによる模写作品がペルージャに残され、今回並列展示されているものの、やはり力量の差というものがある(^^;;
さて、今回の展示作品中一番ペルジーノらしい作品は《聖母子と二天使、鞭打ち苦行信心会の会員たち(慰めの聖母)》(1496-98)だったと思う。まさしく、ラファエッロの師とわかるおだやかな優雅さと感傷的な雰囲気を合わせ持った聖母だ。ウンブリアの明るい色彩(私的にはヴェネツィア派の影響を感じるのだけれど)の祭壇画は、頭上には二人の天使、左右には信者が3人づつ並ぶという、やや単純化されたルネサンスらしいシンメトリーの構図である。まぁ、物足りないような気がするのは量産大工房のせいかもしれないけどね(^^ゞ
で、今回で一番目が惹かれた作品はウフィッツィから出展された《少年の肖像》(1494頃)だった。ペルジーノらしいメランコリックな甘やかさに満ちて見応え十分である!レオナルドの影響だろうか、光と影の醸し出す陰影のある表情と眼差しは、青春を凝縮したような風さえ感じる。宗教画作品中心の中ではどうしても目立つし、なおかつ筆致も一番丹念なのである。ペルジーノの代表作品をもっと見たいと思わせる作品だ。
さて、最後の方には意外な作品が展示されていた。 元々はペルージャにあったラファエッロ《キリストの埋葬》(現ボルゲーゼ美術館所蔵)の模写作品だ。あの(!)シピオーネ・ボルゲーゼがオリジナルを略奪して、さすがに地元に悪いからとカヴァリエーレ・ダルピーノに模写させたという因縁のある作品だ。ダルピーノと言えばCARAVAGGIOが徒弟として働いた師匠あり、模写とは言え、なんとなくバロックの匂いを感じたのは気のせいだろうか?(^^;;
しかし、ダルピーノが略奪作品模写って凄く皮肉な話だよね。なにしろシピオーネは同じようにダルピーノ自身が持っていたCARAVAGGIO作品を税金のカタに無理やり奪ったのだから!!
ということで、最後はCARAVAGGIOがらみで、めでたく締められたかな(笑)
イタリア・ルネサンス関連の展覧会は多いが、日本ではあまり知られていないペルジーノにスポットライトを当てた展覧会が開催されるなんて画期的だと思う。2007年イタリア年との連動でなければきっと難しかったに違いない。
今回展示されていたペルジーノ作品は、現在ペルージャに残されている宗教画が中心で、主に初期作品と晩年期作品が多い。まぁ、それはそれで作風の変遷も辿れて興味深かったが、最盛期のペルジーノらしい甘美さの目立つ作品が少なく、ちょっと拍子抜けの感もあった(^^;;;
まずは、美術ド素人が今回の展覧会で知ったことをサックリとまとめてみたい。
イタリアはウンブリア地方ペルージャ近郊に生まれたピエトロ・ヴァンヌッチ(1450頃-1523)は、その出身からペルジーノ(ペルージャ人)と呼ばれた。地元での修行時代を経て、フィレンツェのヴェロッキオ工房で徒弟として学ぶ。当時、1470年代のヴェロッキオ工房にはボティッチェリ、レオナルド、ギルランダイオなどの若い才能が犇いていた。ペルジーノも頭角を現し、独立後はフィレンツェとペルージャに自分の工房を持つことになる。シクトゥス4世によるローマ(ヴァティカン)のシスティーナ礼拝堂側面壁画制作においてはフィレンツェ画家集団のリーダーとなって活躍し、その高名は広く知られることになる。
そんな最盛期のペルジーノを見て「神の如き画家」と記したのはラファエッロの父ジョヴァンニ・サンティだ。後年ラファエッロ少年はペルジーノ工房で学ぶ。
そう言えば、北イタリアのブレシャやベルガモ、ミラノなどで観た初期のラファエッロ作品はペルジーノ作品によく似ていたっけ。
ラファエッロ「聖セバスティアヌス」(ベルガモ)
しかし、ペルジーノは大工房運営の経営者として主題・構図などの使い回し再生産に向かい、盛期ルネサンスの絵画革新の波から取り残されていく。生き残るには、昔も今も、絶えざるイノヴェーションが必要なんだね(^^;;
ということで、漸く絵画感想に進む(^^ゞ
-展示はペルジーノ画業出発前夜のペルージャ画壇の作品から始まった。当時を代表する/画家ベネディット・ボンフィーリ(1418/20~1496)とバルトロメオ・カポナーリ(1420頃~1505)作品は、フラ・アンジェリコの影響だったり、金地背景など、平面的で装飾性の見られる後期ゴシック的なものを残す構図と作風だった。マザッチョ(1401~1428)やマンテーニャ(1431~1506)のような遠近法はまだ試みられていない。
ところが、ペルジーノの手に帰せられる1473年の工房作《ペトラッツィオ・ダ・リエーティの娘の潰瘍を治す聖ベルナルディーノ》になると、遠近法を使った装飾的建築物の奥行きと、背景の風景による広がり、そして下部に描かれた色彩豊かで優美な人物像による物語絵が不思議な空間を作り出していて、一挙にルネサンス世界が現出するのが面白い。
ペルジーノのフレスコ画《聖ロマヌスと聖ロクスに祝福を授ける父なる神》(1476)は特に向かって左の聖人にヴェロッキオの影響を色濃く見てしまった。図録にもあるが、とてもフィレンツェ風なのだ。それから、気に入ったのが下部に描かれた塔のあるデルータの街並み!のどかで柔らかな光に包まれ、素朴な壁の手触りまで感じてしまった。
《ピエタのキリスト(デチェンヴィリ祭壇画のチマーザ)》(1495)は小画面ではあるが、宗教画としての精神性の感じる質の高い作品だと思った。祭壇画自体はナポレオンによる略奪に会い、現在ヴァティカン所蔵だ。ドメニコ・ガルビによる模写作品がペルージャに残され、今回並列展示されているものの、やはり力量の差というものがある(^^;;
さて、今回の展示作品中一番ペルジーノらしい作品は《聖母子と二天使、鞭打ち苦行信心会の会員たち(慰めの聖母)》(1496-98)だったと思う。まさしく、ラファエッロの師とわかるおだやかな優雅さと感傷的な雰囲気を合わせ持った聖母だ。ウンブリアの明るい色彩(私的にはヴェネツィア派の影響を感じるのだけれど)の祭壇画は、頭上には二人の天使、左右には信者が3人づつ並ぶという、やや単純化されたルネサンスらしいシンメトリーの構図である。まぁ、物足りないような気がするのは量産大工房のせいかもしれないけどね(^^ゞ
で、今回で一番目が惹かれた作品はウフィッツィから出展された《少年の肖像》(1494頃)だった。ペルジーノらしいメランコリックな甘やかさに満ちて見応え十分である!レオナルドの影響だろうか、光と影の醸し出す陰影のある表情と眼差しは、青春を凝縮したような風さえ感じる。宗教画作品中心の中ではどうしても目立つし、なおかつ筆致も一番丹念なのである。ペルジーノの代表作品をもっと見たいと思わせる作品だ。
さて、最後の方には意外な作品が展示されていた。 元々はペルージャにあったラファエッロ《キリストの埋葬》(現ボルゲーゼ美術館所蔵)の模写作品だ。あの(!)シピオーネ・ボルゲーゼがオリジナルを略奪して、さすがに地元に悪いからとカヴァリエーレ・ダルピーノに模写させたという因縁のある作品だ。ダルピーノと言えばCARAVAGGIOが徒弟として働いた師匠あり、模写とは言え、なんとなくバロックの匂いを感じたのは気のせいだろうか?(^^;;
しかし、ダルピーノが略奪作品模写って凄く皮肉な話だよね。なにしろシピオーネは同じようにダルピーノ自身が持っていたCARAVAGGIO作品を税金のカタに無理やり奪ったのだから!!
ということで、最後はCARAVAGGIOがらみで、めでたく締められたかな(笑)
それにしても東京はいい展覧会が多いですねぇ。この特別展、会期がながいのでチャンスがあれば行きたいなぁと(レオナルドも観たいし!)企んでおります。
そもそもペルジーノなど名前すら知らない画家ーけどなかなか面白かったです。
この人は宮廷からの招待を断り独立を貫いたそうですね、異端の画家なのかな?
あと30枚ほどのこの人の大祭壇画はバロック時代には解体さればらばらになったとありましたよね、もうペルジーノの時代は過ぎたって言うことかな?
美術史におけるペルジーノの位置がわからない、カタログの翻訳はこなれていないことおびただしい!
Juneさん教えて!
私もペルジーノにつおてよく知らなかったので、展覧会で勉強してしまいまいました(笑)。ペルジーノと言えばラファエッロの師匠として有名ですが、そのラファエッロ関連でカヴァリエーレ・ダルピーノが登場した時には驚きながらも、ちょっと嬉しかったです(^^;
で、桂田さん、6月の東京はレオナルドもペルジーノもパルマの画家たちも観られますよ~♪ もちろん、イタリア古典絵画だけではありませんけどね(^^ゞ。桂田さんのご上京が期待されますね!
okiさんもご覧になったようで、ブログでのご感想も期待しておりますよ~☆
>宮廷からの招待を断り独立を貫いたそうですね
おっしゃる通り結構自立心の強い画家だったのかも知れませんね。でも、もしかして...宮廷からの注文って数が限られているし、名誉よりも大工房を運営して量産した方が経済効果があるという現実的な職人兼経営者タイプだったのかも(^^;;;
>バロック時代には解体さればらばらになったとありましたよね
すみません、その記述には気がつきませんでした(汗)。okiさん、どこにありましたか?
どうして解体されたのかは不勉強なものでわかりませんが、18世紀にナポレオンによる収奪があった程ですから、時代遅れでも美術的評価はあったと思いたいですね(^^;;。あの...ペルージャが1540年にローマ教皇領になったのと何か関係はあるのでしょうかね??
>美術史におけるペルジーノの位置
やはりフィレンツェ・ルネサンスの代表選手の一人であり、ラファエッロの師匠だったということでしょうか? 特にヴァティカンのシスティーナ礼拝堂側面フレスコ画における、フィレンツエ画家集団の統率はかなりポイントが高いのかもしれませんね??
http://www.wga.hu/frames-e.html?/html/p/perugino/sistina/index.html
私も今回の展覧会で観たり、図録を読んで知ったりしたことしかわからなくて...もっと勉強しなくちゃいけないと反省です(^^;;;
今、気がついたのですが、もしかしてバロック時代の反宗教改革によるものかもしれませんね。
ルターの宗教改革に対抗してカトリック陣営によるトリエント公会議(1545-63)がありましたが、その時に民衆にわかりやすい宗教画が奨励されました。まぁ、CARAVAGGIO作品がその代表的なものですけど(^^ゞ。ローマ教皇領となったペルージャでは、ルネサンス時代の優雅な祭壇画から、バロックの宗教感を煽るリアルな祭壇画へと移行が奨励されたのかもしれない...と思ったのですが、どうなのでしょうね??(^^ゞ
最近、カラヴァッジョの画集をパラパラながめていましたら、この少年の内面描写が“病めるバッカス”とか“洗礼者ヨハネ”と似ていることに気づきました。
カラヴァッジョより百年以上前にこんないい肖像画を描いていたペルジーノにサプライズです。
確かにペルジーノの「少年」はウフィッツィでも目を惹かれる作品でしたね。実は私も再会できて嬉しかったです♪
で、いづつやさん、なるほどです!CARAVAGGIOの登場人物たちに似ているところがありますね。その他にも、「リュート奏者」とか「合奏」とか...青春の甘美さがちょっとアンニュイな雰囲気を醸し出しているところが通じていそうな気がします。でも、美少年ぶりとしてはペルジーノ「少年」に負けそうかもしれませんね(笑)
ペルジーノ展、見てきました。私は全然知らなかったので、イタリア絵画の世界が広がったようでうれしかったです。
花耀亭さんの感想に「初期と晩年の作品が多い」と書かれていたのですが、私にはそれが分からなかったので、自分で集めてみました。
沢山描いてるんですね。見る人をゆったりさせる良い絵だと思います。確かに最盛期の絵は、信仰の強さを感じさせるというより、甘美さを漂わせる作品が多かったです。結構、気に入りました。
シピオーネ・ボルゲーゼって権力を嵩に横暴なことをしたんですね。面白い話をありがとうございます。
私も今回の展覧会で勉強をしてしまいました。最盛期のペルジーノ作品は、ボッティチェッリの友人らしく、甘やかな作風が心地よいですよね。Cojicoさんのブログにもお邪魔しますね(^_-)-☆
で、シピオーネって横暴なことをしていますが、CARAVAGGIOのファンで、パウロ3世に恩赦を働きかけたり、ベルニーニ作の胸像を見ていても、けっこう憎めない面白い枢機卿だったようにも思うのですよ(^^ゞ
いわゆる「代表作」はほとんど来ていませんでしたが、
日本であまり知られていないペルジーノについて興味を持つきっかけとなる展覧会であったのではと思います。
『デチェンヴィリ祭壇画』はオリジナルである『ピエタのキリスト』と模写の中央パネルでは技量の差が明らかでしたね。
オリジナルの状態で是非見てみたいものです。