遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『Curious George Learns the Alphabet』 H.A.REY Houghton Mifflin Harcourt

2022-09-01 13:21:43 | レビュー
 「Curious George」シリーズの1冊である。1963年の著作権表示があるので、この年に出版されたのだろう。
 本書は、1993年に出版されたようである。英語絵本の電子書籍版で読んだ。同様に「Read-Aloud ebook」として、ナレーションが入っている。

 今回この絵本を読んだ後、少しネット検索してみて、いくつかのことを知った。まずそれに触れておきたい。調べるきっかけは、冒頭の表紙に見る通り、著者名がH.A.REY 一人になっていたから。ちょっと、疑問を持ったのだ。

1. H.A.REY と Margret は夫妻である。本名はHans Augusto Reyersbach 。1898年ハンブルグの生まれ、1977年に78歳で没した。一方、Margret は、1906年ハンブルグ生まれ、1996年に90歳で没した。二人はドイツ生まれのアメリカ人。Hans と Margret はGerman Jews だったと記されている。

2.このCurious George は、Hans が主として絵を描き、Margret がストーリーを大凡担当する形で生まれたという。第1作は『Curious George』。本書はシリーズの6作目に当たる。
 出版に当たっては、この表紙のように、H.A.REY の名前だけで出版された。

3. これで一つの疑問点が改称した。ランダムに先に読んだこのシリーズの2冊に、Illustrated in the style of H.A.Rey by **** という表記がされている意味である。
 つまり、H.A.REY が没した後に、この第3シリーズという形で "New Adventures"が 制作され、今日に至る。当初の絵本の登場人物の姿が継承されている。適切な表記と言える。

4.H.A.REY の没後の続編からは、夫妻の名前が使われることになったようだ。

5.「Curious George」は「ひとまねこざる」と訳されシリーズとして、光吉夏弥ほか数名の翻訳により岩波書店から出版されている。 "New Adventures" の方は、「おさるのジョージ」シリーズとなっている。

 さてH.A.REY が生前中に手がけたのはこのシリーズの7作までである。上記の通り本書は第6作。ジョージが友達である黄色帽子の男から、アルファベット26文字と単語を教えてもらうというストーリーである。
 黄色帽子の男の留守中に、ジョージはその友達の本を引っ張り出して、好奇心から数冊の本に戯れて本を傷つけていた。帰宅した友達は本に書かれているのは言葉(単語、文)であり、単語は文字でできているということを教えるというストーリー。AからZまでの文字を順に絵の中に文字を描き込みながら、26文字が単語を構成し、単語がある物を示すということを教える。
 冒頭の絵は、大文字のLをライオンの絵に組み込み、Lという文字を教え、Lで始まる LION という単語をまず教えるという場面。対象物と文字・単語という記号との関連付けをしていくというストーリー。
 
 英語圏の子供たちが、耳にする会話を経て、文字、単語という記号に触れ、親しみ、言葉というものを習得して行く過程なのだなということがこの絵本でよく体感できる。

 それで思ったのは、意外と非英語圏の日本人が英語を学ぶのとは違って、我々が学校の授業で学ぶことのないような単語も自然にこのプロセスで教えられ、絵とリンクされて覚えていくんだな、ということである。

 ナレーションがついているので、絵本の本文が読まれる。面白いのは、たとえば、Lという文字の説明のところでは、黒字の本文の単語中のLという文字が赤字になっていることである。つまり、Lという文字が単語に組み込まれていることを意識させるようになっている。単語を構成するのは文字なのだということを自然に理解させるということなのだろう、勿論、大文字Lの説明は、小文字lと対にして教えていくという進め方の絵本である。
 もう一つ興味深いのは、Lを教えている箇所では、その説明文の中には意識的にLを含む単語が文として組み込まれているのだ。
 この箇所の本文を引用してみる。どの程度の難しさの文で説明されているかも、おわかりいただけるだろう。

 L is a LION.
He is LUKY. He is going to have LEG of LAMB LUNCH, and he LOVES it.

という具合だ。

 そこで、この絵本では大文字・小文字の説明のために、どんな単語を最初に利用しているかをご紹介しておこう。動植物そのほかの対象となる物と文字の組み込みやすさという点で単語が選ばれている面もあるかもしれない。しかし、文字を学ばせるために利用された単語をあなたは即座に理解できるだろうか。
 A ALLIGATOR   a apple    N NAPKIN    n  nose
 B BIRD      b  bee      O OSTRICH   o  ostrich
 C CRAB      c  crab      P PENGUIN   p  penguin
 D DINOSAUR   d  dromedary   Q QUAIL    q  quarterback
 E ELEPHANT    e  ear      R RABBIT    r  rooster
 F FIREMAN     f  flower     S SNAIL     s  snail
 G GOOSE      g  goldfish    T TABLE     t  tomahawk
 H HOUSE      h  horse     U UMBRELLA   u  umbrella
 I ICICLE      i  iguana    V VALENTINE   v  valentine
 J JAGUAR    j  jack-in-the-box  W WALRUS WHISKERS   w whiskers
 K KANGAROO    k  kangaroo    X Xmas     x     
 L LION       l  lean lady    Y YAK      y  yak
 M MAILMAN     m  mouse     Z ZEBRA     z  zebra

という単語リストになる。
 因みに、dromedary はヒトコブラクダ。 ICICLE はつらら。OSTRICH はダチョウ。
SNAIL はカタツムリ。tomahawk は北米先住民が戦闘・狩りに用いるおの。トマホーク。
rooster は雄鶏。WALRUS はセイウチ。WHISKERS は(男性の)ほおひげ。(ネコ・ネズミなどの)ひげ。序でに辞書で確認すると、口ひげは mustache、あごひげは beard 。beard は「一般的に mustache, whiskers を含む」(『ジーニアス英和辞典』大修館書店)とか。
私にはこんな知らない単語がいくつかあった。嗚呼! 絵本恐るべし、である。

 おもしろいのは、黄色帽子の男がジョージに、A,a,B,b,C,c を教えたところで、この3文字から、cab と言う単語ができると説明する。taxi という単語より、cab をまず認識するんだ、と思ったこと。
 その後、G,g まで進んだところで、A~G, a~g でできる単語を黄色帽子の男は紙に書き出す。絵には作れる単語例を示している。 DAD, ED, BAD, bag, cage, bed, feed と。彼はジョージにそれらの単語を読むようにと言う。

 『ひとまねこざるのABC』大型絵本(山下明生訳、岩波書店)というのが本書の翻訳絵本のようだ。
 
 まあ、いずれにしても、大人にとっても改めてアルファベットを楽しめ、言語の成り立ちに思いを馳せる材料となる絵本と言える。

 ご一読ありがとうございます。

参照資料
H. A. Rey   From Wikipedia, the free encyclopedia
Margret Rey  From Wikipedia, the free encyclopedia
Curious George  From Wikipedia, the free encyclopedia 
H・A・レイ      :ウィキペディア
マーグレット・レイ  :ウィキペディア
ひとまねこざる :ウィキペディア
ひとまねこざる 岩波書店 おさるのジョージ ひとまねこざるシリーズ:「EhonNavi」

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