眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

不死の時間

2020-09-24 22:34:00 | ナノノベル
 テーマ曲のように繰り返される一日がある。再び戻ることのない一日。けれども、いつまでも風化することがない。昨日の出来事のようにいつまでも何度でも脳内で再現することができる。時間は確かに失われたが、あの日に限っては色濃く定着してしまった。永遠に顔を合わせることはなくなったのに、僕の脳内であなたは不思議なほどに生き続けている。かなしい一日だった。けれども、再現される風景の中であなたは笑顔さえのぞかせる。一日と呼んでいる記憶は本当はほんの一瞬なのかもしれない。それは終わりのない時間だ。定着し、たゆたいながら広がっていくことができる。取り戻せないかわりにその一日はしつこいほどの生命力を持った。一生の時間にも勝る重みと輝きを持って、これからも僕の中で幾度となく繰り返されることだろう。今日が今日として軽々しく過ぎ去ろうとも。

 猫とすれ違う。
 その時、僕は永遠を感じてしまった。
 
 猫をかおう。

「絶対猫と束の間猫とどっちにします?」
 さあ、どっち。
 弱気が勝り絶対猫の方を選んでしまう。
「今だけ100円になります」
 これは絶対猫じゃない!
 と思いながら家につれて帰った。

 毎日頭を撫でながらコインを入れた。
 今日は10円だ。

「少し重たくなったね」

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できるかな(作業員の逆襲)

2020-09-24 04:47:00 | 短い話、短い歌
「これだけやって5円か」
 私たちの仕事は下請けだ。
 製品に欠かせないかけらの何かを作っている。
 それは何か? それを知る者はいなかった。
 発注に従って寸分の狂いもなくそれを作る。
(世界の大事な何かしらを作っている)
 私たちの手に自負はあった。
 私たちはいつも未来を作っているのだ。
「夢がある仕事ですね」
 響きのいい言葉。だけど、その目はどうも疑わしい。

「今を作ってみないか?」
 工場長は唐突に切り出した。
(一つの世界を作ってみよう)
 それは薄々皆が秘めていた想いだったが。
「そんなことはやったことがない!」
 心からの反対ではない。恐れからくる疑問だ。
「私たちにできるのでしょうか」
(神さまみたいに大きな仕事)

「できるに決まってんだろ!」
 工場長の言葉には寸分の疑いもなかった。
(自分たちの手をよく見ろよ)
 皆が我に返ったように自分たちの手を見た。
 これまでの作業はすべてここにくるためにあったのかもしれない。
「そうか……」
 あらゆる部品を作り、あらゆる部分を生み出す間に、それぞれの手の中に途方もない技術が培われていた。
「できないはずがない」
 確信の笑顔が工場の中に広がっていく。
(私たちの今がはじまる)

「我々は誰よりも先を行ってるんだから」


かみさまのかけらをつくる未来より
今に目覚めた下請工場

(折句「鏡石」短歌)
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ワンリュック(憧れの四角)

2020-09-23 11:28:00 | ナノノベル
「今日はどんなのをお探しですか」
「できれば四角いのかなと」
「それでしたら、こちら一択になります」
「えーっ?」

チャカチャンチャンチャン♪

「こちら超おすすめのリュックになっております」
「なかなかのサイズですね」
「しっかりと入るようになっております」
「はあ」
「中にラーメン、チャーハン、他にも寿司やカレー、ハンバーガーなど何でも入れて運ぶことができます」
「ラーメン?」

チャカチャンチャンチャン♪

「同時に契約していただいて即日働いていただけますよ」
「私はリュックが欲しいだけなんですけど」
「そうですか。でもまあ一石二鳥と申しましょうか、運動不足の解消にもなるので、みなさん出前もされてますよ」
「はあ。まあ、運動はしたいですけど」
「そうなんですね。セットでナビがつきますので、不慣れな道も大丈夫ですよ」

チャカチャンチャンチャン♪

「じゃあ、これにします」
「ありがとうございます!」

チャカチャンチャンチャン♪

「それでは安全運転で行ってらっしゃいませ」
「頑張ります」
「あ、それと道で仲間とすれ違ったら合図を」
「仲間?」

チャカチャンチャンチャン♪
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しめの一杯(さよならラーメン)

2020-09-22 10:28:00 | ナノノベル
 大繁盛店ということで少しは期待して入ったのだが。他人の味覚ほどあてにならないものはない。麺は輪ゴムを伸ばしたようなものだった。スープの方は泥水に塩を入れたものと変わりなかった。私は思ったことがすぐ口から出るタイプだ。
「カップラーメンの方が旨いね」
 大将の手が一瞬止まった。
「それを言っちゃあおしまいよ」
 よかった。心の広い大将のようだ。その人柄に打たれて私は箸を進めた。食えたもんじゃあなかったが、頑張って食べきった。
「お代は結構」
 せめてもの罪滅ぼしというわけか。
「ごちそうさん」
 客としての礼を尽くして私は店を出た。

「なんだあんたらは?」
 私は表で常連風の男たちに取り囲まれて、路地裏につれていかれた。
 この野郎!
 覚悟しろ!
 ひーっ! 勘弁してー!
 やっちまえー!
(それを言っちゃあおしまいよ)
 店主の言葉が思い出された。
 おしまいよー おしまいよー おしまいよー
 ああ、だまされた。
 これは口封じだ。
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麒麟を描く(伝説のペン)

2020-09-22 07:44:00 | ナノノベル
 多くの人間を描いてきた。数え切れないほどの猫を。世界中の野生動物をずっと描き続けてきた。そろそろ次のステップに踏み出してもいいかも……。そんな野心が私の中に芽生え始めると日に日に膨らんでいき、ついには抑えきれなくなった。無数の猫を描いた経験があっても、麒麟を描くとなると話はまるで違ってくる。同じような姿勢ではその輪郭さえも捉えることはできないのだ。
 私は噂を頼りに伝説の洞窟へ足を運んだ。
(すべては麒麟ペンを手に入れるために!)

「私に描かせてください!」
「素性のわからん者に渡すことはできぬ!」
 老人は厳しい目をして言った。容易く手にできるようなら、それは街の文房具屋さんで売っていることだろう。審査のハードルが高いことは覚悟していた。

「麒麟を知っておるのか?」
「憧れています」
「ならば麒麟に乗ったことはあるか?」
「いいえ。ありません」
「麒麟と暮らしたことはあるか?」
「ありません」
「麒麟と目で話し合ったことは?」
「ありません」
 自信を持って(はい)と答えられる問いは皆無だった。

「麒麟と喧嘩したことはあるか?」
「いいえ」
「麒麟の上から弓を引いたことはあるか?」
「いいえ」
「傷ついた麒麟を助けたことはあるか?」
「いいえ。ありません」
「まったくないのか!」
 厳しく言われて返す言葉もなかった。

「麒麟と将棋を指したことはあるか?」
「ありません」
「お前が麒麟であったことはあるか?」
「ありません」
「麒麟と炒飯を食べたことがあるか?」
「ありません」
「麒麟の上から夜を眺めたことはあるか?」
「いいえ。ありません」
「麒麟と共に働いたことはあるか?」
「ありません」
「お前は今までいったい何をして生きてきたのだ!」
「えーと、それは……。自分なりに精一杯の努力をしたり……」
「そうか。それだけか」

「あのー」
「何じゃ」
「私では駄目なのでしょうか」
「駄目と思うのか?」
「わかりません」
「何がじゃ」
「何も答えられない自分がくやしいのです」
「そうじゃろうな」
 老人は杖を地面に突き刺しながら深いため息をついた。

「お前は麒麟を夢に見たことはあるか?」
「ありません」
「麒麟の尊敬を集めたことはあるか?」
「ありません」
「麒麟と野球をしたことはあるか?」
「ありません」
「麒麟と海を渡ったことはあるか?」
「ありません」
「自分を麒麟と思ったことはあるか?」
「いいえ。ありません」
「そうか」

「もう教えてください。駄目なら駄目と」
「本当に駄目になりたいのか」
「コンプレックスで爆発しちゃいそうです」
「誰でもそうじゃ」
「話を前に進めてもらえますか」
「ずっと進んでおる! 馬より速く進んでおる!」
「とても理解が追いつきません」
「お前の瞳にはずっと麒麟が映って見える」

「……」
「それが答えだ!」
「それじゃあ……」
 老人はおもむろにブリーフケースを開けて伝説を取り出した。
「これを受け取るがよい」
「いいんですか?」
「このペンで好きに麒麟を描くがよいわ!」

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リベンジの剣(7段階認証)

2020-09-21 02:45:00 | ナノノベル
 さあ、お前が来るのを待っていたぞ。
その剣を手にして俺の人生は終わりへ向かうだろう。(復習の始まりだ)ドローンが静かに正確に目標地点に接近する。
「本人確認顔認証実行中。普通の顔確認」
 IDもサインも必要ない。俺の証明は俺の顔だけだ。
「怒ってください。ぷんぷんぷん」
 それでなくても俺は怒っている。これでどうだ!
「驚いてみせてください。あなたは夕べお化けをみました」
 俺だって人並みにお化けは怖いね。おおっ!
「恐れてください。魂を抜かれそうです。疑ってみせてください。あなたはあなたでしょうか。とぼけてみせてください。あなたは大変おとぼけさん」
 ああ、忙しい。俺の顔の筋肉はもうへとへとだ。セキュリティー強化のためとはいえ、認証が厳しすぎる。(むしろ不安にもなる)

「微笑んでみせてください」
 できるか! 今はそんな状況じゃないんだ。
「最後の認証です。無理にでも微笑んでみせてください」
 俺はこれから仇討ちに向かうのだ。怒りを剣先に集中させて最後の決着をつける。微笑みなんて、もうひとかけらも残っていないよ。
「認証実行中。実行中……」
 ふふふ。くそーっ。これが限界だ。
「確認できません」
 こんな気持ち、お前には関係ないんだ。

「認証失敗! 一旦引き取らせていただきます」
「おう、帰れ! 二度と持ってくるな!」
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カオス感想戦(強くなりたい)

2020-09-20 09:48:00 | ナノノベル
 私たちは頭の中だけで駒を動かすことができるし、自分の対局なら棋譜を見なくても難なく再現できるものだ。私たちは死力を尽くしぼろぼろになった後でも、もう一つの対局を怠らない。
「感想戦」確かにそれは、叶わなかった夢や幻の構想、負け惜しみのような言葉をつぶやく場でもある。しかし、その本当の目的は自身の棋力向上のためだ。疲れ切った熱い頭をもう一度酷使するのは、誰よりも強くなりたいという一心から。だが、時には自分たちだけではどうしてもよみがえらない対局というのもあった。

「えー、ここで私はどう指しました?」
「確か、あれ? どうでしたっけ」
 そういう時に頼りになるのが記録係という存在だ。
「角を出られました」
「へー、角を」
「あー、確かに」
 これが私の指した手か……。
 今となってはまるで意味がわからない。

「で銀交換してから端歩を突いたの。ほー」
「それに対して私はじっと金を寄ったの」
「ありがとう。君がいてくれて助かったよ」
「いいえ。仕事ですから」
 記録係は今でも正座を崩していなかった。
 近い将来、私たちの棋力を凌駕するだろう。

「で私が桂を打った」
「私は銀を立った」
「へー、こんな手あるの?
 歩を打ったらどうするの。どう指すんですか」
「たぶん何もしないつもりでしたね」
「えー? あなた何しに来たの」
「いやお恥ずかしい」

「これはひどい」
「乱れがひどいですね」
「振り返りたくないね」
「流石にひどすぎる」
「夕食のワインがまわってきたよ」
「私もおやつのウイスキーが……」
「ああもう駄目だ」
「お酒強くないからなあ……」
「お互いまだまだ弱いね」
「もっと強くなりたいですね」
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スロー・ノベル(AIライター)

2020-09-19 03:21:00 | ナノノベル
 僕は現代小説家。数年前から、ほとんど書くことはなくなった。僕はまず自分の頭の中で書きたいもののイメージを膨らませる。ここにほとんどの精力を傾ける。そして、AIライターに伝える。あとは少し待てば作品ができあがる。僕はそれをざっと見て気になるところに付箋を貼る。それから、イメージのズレを伝え書き直してもらう。その工程は何度か繰り返され、だんだんと自分のイメージに近づいていく。AIライターとの粘り強いコミュニケーションが何よりも大切だ。長時間に渡る執筆作業は昔の話。
 書くこと以上に「話す」能力を磨かねばならない。そういう時代だ。


「……とまあ、だいたいこういう話なんだよ」
「おおよそ理解しました」
「よろしく頼むよ」
「名前はどうしましょう?」
「適当に頼むよ。無国籍な感じでね」
「わかりました」
「真ん中10000字くらい遊ばせちゃってよ」
「わかりました。文体はどうしましょう?」
「任せるよ。ポップな感じで頼む」
「わかりました。オチはどうしましょう?」
「それも任せるよ。ふわーっとした感じね」
「ふわーっとですね」
「そう。得意でしょ」
「ベストを尽くします」
「だいたいこういう話だから。細かい筋書きとか、みんな任せるから。いいようにやってよ」
「ベストを尽くします」


 そうして書き出しだけは自分で書くようにしている。そこは自分なりのこだわりと言えるかもしれない。(まあ、少なくとも今の内は)


 扇子を透かして見た恐竜たちは無言のまま向き合っていた。

「じゃあ、ここからよろしく」
「はい。それではお待ちください」

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名誉凡人100

2020-09-18 16:29:00 | ナノノベル
おめでとうございます!
あなたは「影響力のない100人」の中の
一人に選ばれました!

チャカチャンチャンチャン♪

「あなたすごいじゃないの!」
「いや、すごくないよ」
「100人の中に入るって!」
「いや、ない方だから」

チャカチャンチャンチャン♪

「他には誰が入ってるの?」
「いや、みんな知らない人たちだよ」
「知る人ぞ知るのね」
「いや、どうかな」

チャカチャンチャンチャン♪

「世界で? やっぱり世界でってすごい!」
「いや、狭い世界だよ」
「世界は世界よ!」
「まあね」
「すごいすごい!」

チャカチャンチャンチャン♪

「どこかに見てくれてる方がいるのね」
「いや、どうかな。微妙だなあ」

チャカチャンチャンチャン♪

「忙しくなるんじゃない?」
「いや、ない方だから」
「またまたー!」
「いや、本当に」
「またー、ほめさせて伸びるつもりかー!」

チャカチャンチャンチャン♪

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メモ帳の確保

2020-09-18 05:40:00 | 【創作note】
いつもあると思ったり
どこにでもあると思ったり
当たり前のように
あると思っていたら
そのものの価値を見過ごしてしまう
自分にとって
どれほどそれが大切なものであるか


 ダイソーにお気に入りのメモ帳が入荷していたので、セットで購入した。これで安心してモチーフを浮かべることができる。やはりメモ帳は欠かせない。デジタルに比べ、紙のメモ帳は消費されてしまうのだが、今はまだそれも捨て難い。手書きのモチーフをぼんやりと眺めているのも好きなのだ。
 サイズはA6。メモ帳は千切りたい時にきれいに千切れなければならない。しかし、千切りたくない時にはくっついていなければならない。風なんかで千切れてしまっては困る。上のページが千切られるからといって、一緒になって残るべきページが千切られてしまってはならない。強度のバランスがとても重要だ。
 そしてある程度の厚みが必要だ。厚すぎて躓いたり、持ち運べないようでは困る。逆に薄すぎては常に不安がつきまとう。ページが尽きることが気になっては、モチーフも浮かばないというものだ。
 メモ帳一つ取ってみても、やっぱりこれだというものがある。
 それがなければ仕方がないが、お気に入りのものがあるとそれだけで心強い。
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観る将

2020-09-18 01:57:00 | 忘れものがかり
考える人を
少し離れたところから
観察している

「何考えてるの」

よくわからないけど
色々大変そうね

わからないことは
空想を刺激するのだろう

絵になるね
不思議だね

読み耽る棋士の横顔を
猫がじっとみつめている

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ゲリラ・ライブ

2020-09-17 23:30:00 | ナノノベル
 人の心は一番よくわからない。
 自分が面白いと信じることを全力で演じても、舞台の向こう側には少しも響いて行かないようだ。感性はもう置いていかれたのか。あるいは、最初から僕はズレていたというのだろうか。(こんな時に、何か言ってくれる相方がいてくれればよかったが)
 この人たちは、何がそんなにつまらないと言うのか。(みんな笑いたくてここまで足を運んだのではなかったか)
 そして、サクラのように笑っているあいつは何だ。
 不機嫌な客席の最後部から高らかな笑いを堂々と発散するあいつこそ、いったい何なのだ。

(何がそんなに面白い?)

 腹を抱え、涙を流して笑っているあなた。あなたは大丈夫なのか。日常をちゃんと生きれてますか?
 僕の笑いはあの狭い場所に、ピンポイントで届いている。

 一人でも大丈夫。
 僕はまだやれるよ。

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先生の休日

2020-09-17 09:33:00 | ナノノベル
「お休みの日とか何をされてます?」
「休みというのものは、
こういう仕事だから、
まあそんなには、
普通の人が持てるようには、
取ることはできない、
わけではあるのだけれど、
全くないかと言うと、
それはそういうことでもなく、
休みの日というのは、
あることはあります」

「お忙しいのですねー」
「それで、
実際に休みとなれば、
映画をみます」

「どんな映画がお好きですか」
「それは、
その日の気分とか、
その日の体調とか、
色々な条件にもよるのだけれど、
具体的に言うと、
宇宙船が出てきたり、
怪獣が出てきたりだとか、
妖怪とかモンスターとか、
そういったものがたくさん出てきて、
人類に対して威嚇をしてみせたり、
無礼な態度をとったりだとか、
実際に攻撃をしてみせるような、
そういう野蛮なストーリーではなくて、
風が吹いたりとか、
道を歩いたりとか、
お話をしたりとか、
そういった映画の方を、
主にみております」

「落ち着きますよね。コンビニとか行かれるんですか」
「それは、
毎日足を運ぶということはないが、
必要とあらば、
行かないことはないし、
お昼なんかに、
弁当を買ったりもします」

「えーっ、コンビニ弁当を?
どんな弁当ですか」
「それは、
実際にそのコンビニに行ってみて、
弁当の陳列棚を見渡して、
その時に体が求めるものが、
どれくらいあるのかないのか、
十分に見極めた上で、
あるいはカロリーや栄養分を含め、
総合的に判断して、
私が決めます」
「体調管理にも気を配ってらっしゃるんですね。
もみあげはどうしましょう?」
「それは、
お任せします」

チャカチャンチャンチャン♪

「じゃあ、こんな感じで」
「どうもありがとう」
「3500円になります」
「PayPay、
で、
お願いします」
「かしこまりました」

チャカチャンチャンペイ♪

 G70を前によいリフレッシュになった。
 さて、首脳たちにどんなジョークを飛ばそうか。各国の文化や現代的背景を踏まえて調整しなくてはならない。
 秋の色に染まり始めた遊歩道を歩きながら、私の脳はフル回転していた。

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遅刻電話

2020-09-16 11:06:00 | 夢追い
「……他にも種類があってな、」
 また今度話そうと父は言った。僕が忙しいことを察してくれたのだ。2階に上がり、リュックの中にジュース、本、お菓子などを詰め込んだ。間に合うだろうか。電車のアプリが混線してダイヤが見られない。
「時刻表は?」
 壁にいつも貼ってあったはずのものがなくなっていた。
「もう外すことにしたの」
 母がばつが悪そうに言った。
 家の中ではだんだんと省かれるものが多くなった気がする。そうしていつかみんななくなってしまうのだろう。
 アプリが復活した。発車時刻を見るともう切羽詰まっていた。

「送っていくぞ」
 父が行った。
「捕まるよ」
「そうだな。捕まるな」
 父はすぐに納得した。
「無理だ。あきらめるか」
 駄目なことは潔くあきらめるのが、我が家の伝統だ。
「自転車は?」
 あきらめたあとにまだ最後の手段が残っていると気づいた。飛ばせば間に合うかも……。雨の中の坂道を飛ばすことは恐ろしくもあった。自転車は車庫の奥で埃を被っていた。僕は帽子も被らず家を出た。
 そこより僕の記憶は飛んでいる。

 僕は橋を越えたところにいた。走っていた。自転車に乗った母が帰っていくのが見えた気がしたが、人違いかもしれない。全力で走って駅に着いた。大勢の人がホームから階段を渡りあふれ出てきた。それからすぐにチェーンが引かれ、シャッターが下りた。全力を尽くしたが、やっぱり駄目だった。言い訳になるが、連絡する他はない。

「ああ、どうしました?」
「うっかりして寝坊してしまいました」
「そうじゃないかと思ったんだよ」
 嫌な予感があったと店長は言った。色々頑張ってはみたけれど、こうなることが最初から決まっていたのかと思うと、すべて虚しかった。
「どうしましょうか。誰か替わってもらえますか。誰かいます?」
「おるよ。木曜日は……」
 紙がめくられる音。歌が流れている。アコーディオンのような音色が聞こえる。
「何か賑やかだな」
 店長が言った。

「えっ? この歌、こっちですか?」
 テレビか何かだと思っていた。歌はこちらの世界の空気の中にあった。

「今、駅前なんです(走ってみたんです。何かな。祭りかな)」
 神社の通りを密になって歩いて行く人々。僕はなぜか家とは反対の方に向かっていた。人波に流されるように東の方に。髪を緑に染めた若者が猫のように壁に上っていた。膝から下を揺らして缶ビールを飲んでいた。

「打てよ 茹でろよ 美味しいぞ♪」
 うどんを称える歌のようだった。
 どこか知らない町に来たようだった。
 0時になろうとしているのに、夜は明るくあふれんばかりの人がいる。スマホを耳に当てたまま、僕は引き返した。すぐにまた別の人波に呑み込まれる。どこまで行っても歌は終わらない。

「じゃあ、すみませんけど」
 電話がまだつながっているのか、わからなかった。
「うん」
 という返事が聞こえたような気もした。
 僕はスマホをポケットの中に入れた。
 眠らない夜と歌の中を、口先を尖らせながら歩いた。

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【短歌】3のメルヘン

2020-09-15 11:05:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
3密を避ければ行けるどこまでもステイホームは昔の話

3軒目ここに入るか歩こうかランチタイムの優柔不断

3球目高めの球に手を出して名刺代わりの三球三振

3年の辛抱実り創造と自由を望む人間卒業

3分を待てずに伸びたテーブルに麺を残して夢中の男

3手さえ噛み合うことのない読みにぼやき始めた漫才将棋

3度目に現れたから迷いなく指輪を贈るメルヘン・ルール


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