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眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

ルー(折句の扉)

2018-02-28 01:39:52 | 折句の扉
昨夜の他殺体の記憶がまだ残っていた
「そいつが悪いんだ」
「あんたがやったのか」
男は何も答えない
その時、不意に死体が動いた
「はー、疲れた」寝返りを打つ
「大丈夫ですか?」
死んだ風で死んでいない
「救急車をお呼びしましょうか?」
もはやその必要もない
死体は完全に息を吹き返した
平和な夜だった

主人公の台詞に驚いて顔を上げた
拍子に強く後頭部を打った
「いたた!」
店中に君の声が響く
店じゃない そこは自分の部屋だ
まだ少し記憶が混乱していた
雨か 
雨が降ってどこにも行けない

カレーが食べたい

出前を頼んだ後で君は無性に音楽が恋しくなる
ヘッドホンをつけていたらチャイムを聞き逃してしまう
出前というのは救急車でくるものだ
君は思い直してキーボードに向かった
安心してヘッドホンをつけると折句の扉が開いた

空腹が揚げ豆腐を引き寄せ
歌は雨と容易く結びついた
雨粒がケトルの首を説き伏せる
雨音は鍵盤上で富を得る
雨足は獣を越えて鳥になる
雨降りの気怠い午後に

雨宿り剣を交えた
雨乞いの玄武岩には
雨蛙 アメンボの 飴玉に 

あめ あめ あめ あめ あめ
雨はいま 雨上がり
そっと誰かの手が君の肩に触れた
テーブルの上にライスが盛られた皿が置かれていた
救急車などではなかった
出前は普通にやってきたのだ

君はヘッドホンを外した
男は何事もなかったように帰って行く
大家さんか(いや大家さんはもっと歳をとっている)

「どうやって入った?」

男は振り返るとキーホルダーのついた鍵を掲げて見せた
腰を低くしながらこちらに顔を向けたまま後退していく
何も言葉を発しない
(寝た子を起こしませんからという顔)
うっすら笑みを浮かべたまま
男は玄関から消えてしまう

おい!
「ルーはどうした?」


縁深き
通りすがりは
しあわせを
くれてひらりと
去るものである

折句「江戸仕草」短歌




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