
昔々、あるところに危険なおじいさんがいました。喫茶店、大衆食堂、映画館、遊園地、コンビニ、スーパー、ファミレス、公園、図書館、美術館、書店。ありとあらゆる場所で、おじいさんは危険人物に指定されていました。
ある日のこと、おじいさんは鈍器のようなものを持って銀行を訪れました。
「金を出せ!」
おじいさんが凄みのある声で行員を脅します。すると奥から鈍器のようなものを持った支店長が現れました。
「帰れー!」
「金を出せ!」
「とっとと帰れー!」
「とっとと金を出せ!」
「はよ帰れー!」
「金が先だ!」
「帰れー!」
「金を出せ!」
「もう帰れー!」
「金出せ!」
しばらく押し問答のようなやりとりが続きました。しかし、しびれを切らしたおじいさんが鈍器のようなものを振り上げました。するとすかさず支店長も鈍器のようなものを振り上げて応戦します。鈍器のようなものと鈍器のようなものがぶつかる鈍い音が、不快なノイズとなって通常の業務に重大なストレスを加え、皆の迷惑となっていました。
「帰れよー!」
「金を出せ!」
おじいさんが振り上げた鈍器のようなものの攻撃は、支店長が構える鈍器のようなものによって完全に吸収されてしまいます。これでは何度やってもまるで効果がありません。危険なおじいさんは脳をフル回転させると形勢が互角であることを判断しました。そして、行き止まりのような現状を何とか打破するために、自ら鈍器のようなものを床に置きました。するとすかさず支店長も、鈍器のようなものを床に置きました。けれども、それは戦いの終わりではありませんでした。なぜなら、危険なおじいさんの手には元から最も危険な武器が備わっていたからでした。おじいさんは、その手をぎゅっと閉じて握り拳を作り出しました。
「金を出せ!」
おじいさんの振り上げた握り拳が、支店長に襲いかかります。
「家に帰れー!」
支店長も負けじと握り拳を作って応戦しました。
ホイ♪ ホイ♪ ホイ♪ ハッ♪
ホイ♪ ホイ♪ ホイ♪ ハッ♪
ホイ♪ ホイ♪ ホイ♪ ハッ♪
武器を持たない男と男の真剣勝負が続きました。
「金を出せ!」
「家に帰れー!」
「帰っても何もない!」
「私は知らない!」
「金だ!金だ!金だ! この世はみんな金なんだ!」
「うるさい!」
「金を出しやがれー!」
ついにおじいさんの必殺の一撃が決まると支店長を打ちのめしました。おじいさんの大勝利です。戦に敗れた支店長は翌週には遠方への出向が命じられました。見事勝利したおじいさんにはその功績を称え一日支店長のポストと多額のファイト・マネーが与えられました。
めでたし、めでたし。
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