飛び出してきたらマルセイユルーレットでかわせるようなイメージを作りながら、道を歩いた。公道なのかどこかの敷地の一部なのか、それなりに広い道の正体は不明だった。曲がり角を折れた向こうに鉄柱が五本ばかり立っていて、車の来れない道であることがわかった。硝子の向こう、レストランは混んでいた。中に入ると貝殻と貝殻が擦れ合う音がテーブルのあちらこちらから聞こえた。意外にも一人でいる客の姿が、週末だというのに多かった。より安心して過ごせるために、背後に人がいない席が空くまで、待つことにした。
「お待たせしました。例のものをお持ちいたしました。」
テーブルの上に皿を並べる。
「ご注文に異常はありませんでしょうか?」
席を離れた瞬間、皿が勢いよく回り始めた。スープが零れ、中から飛び出した貝殻が床に落ちる。見たこともない貝殻だった。厨房の奥から声が聞こえる。
「最後まで手を放したら駄目でしょ。最後の一滴を飲み切るまで見ておかないと」
怒られているのは僕だった。客から従業員になっていたのだ。
「それくらいのことわかるでしょ!」
その言い方嫌い!
「もういいから少し休んでいなさい」
不貞腐れてジャムパンを食べた。ジャムパンを食べていると、電子レンジの中にいつかのジャムパンを見つけた。それはもっと大きく、もっとおいしそうで、パンの中からイチゴジャムがあふれ出していた。いつからあるのかと思えば、心配なのは蟻のたかりだったけれど、一見するとその姿はなかった。手持ちのジャムパンを食べながら、更に深く観察していると所々に虫の跡のようなものが見えたが、改めて見るとそれはパンに最初からついている模様だった。手持ちのパンがなくなったので、ついついいつかのジャムパンに手を伸ばす。パンはすっかり固くなっていて、噛むと中から砂が出てきた。
「砂のピッチで酒井がボレーで狙いました」
シュートは惜しくも外れたが、相手チームを慌てさせるには十分だった。
「永井追いつくか?」
深い草むらのピッチは選手の姿を見えにくくし、チームから連携と連動性を奪った。流石に無理かと解説者は言った。その時、ディフェンダーの姿はまだ20メートル先にあり、円陣を組みながら混乱の最中にあった。
「追いついた!」
彼一人がボールに追いついた。そして再びボールを蹴り上げた。ボールは再び草むらの中に落ちて隠れた。
「追いつくか?」
流石に無理かと解説者は言った。ピッチサイドに助けを求めたが、信頼のおける情報は得られず、感情に任せた声援を送った。敵チーム全体がミステリーサークル作りに夢中になる頃、風が草の密集を揺らした。風を起こしたのは、永井だった。
「追いついた!」
またしても永井は追いついた。
「追いついた! シュートだ! 入った!」
永井のシュートで得点が生まれた。
「追いついて、シュートを打って、そしてゴールが決まりました! 永井やりました。相手ベンチはあっけにとられています。ついに永井が値千金のゴールを決めました」
「一万円お預かりします」
一万円札を預かってから、お釣りを用意して振り返った。
「1,880円お返しします」
お釣りを返そうとしたが、80円がまだ揃っていなかった。一万円も実際には預かり損ねていた。もう一度返りお釣りを作り直した。振り返ってお釣りを渡そうとする。客の手の先に一万円札が見える。1,880円はまだ揃わなかった。10円玉が多すぎる。それはあの時の一万円札ではないですか、と訊こうとするが声が出ない。もう一度お釣りを作り直して、向き直った時には、もう一万円札は消えている。もう一度最初からやり直したかった。
どこまで戻れば正しい道に戻れるのか、記憶の迷路を彷徨っていた。何かが弾けて、思考は遮断されてしまう。誰かがシャンパンを開けた音だった。
「お待たせしました。例のものをお持ちいたしました。」
テーブルの上に皿を並べる。
「ご注文に異常はありませんでしょうか?」
席を離れた瞬間、皿が勢いよく回り始めた。スープが零れ、中から飛び出した貝殻が床に落ちる。見たこともない貝殻だった。厨房の奥から声が聞こえる。
「最後まで手を放したら駄目でしょ。最後の一滴を飲み切るまで見ておかないと」
怒られているのは僕だった。客から従業員になっていたのだ。
「それくらいのことわかるでしょ!」
その言い方嫌い!
「もういいから少し休んでいなさい」
不貞腐れてジャムパンを食べた。ジャムパンを食べていると、電子レンジの中にいつかのジャムパンを見つけた。それはもっと大きく、もっとおいしそうで、パンの中からイチゴジャムがあふれ出していた。いつからあるのかと思えば、心配なのは蟻のたかりだったけれど、一見するとその姿はなかった。手持ちのジャムパンを食べながら、更に深く観察していると所々に虫の跡のようなものが見えたが、改めて見るとそれはパンに最初からついている模様だった。手持ちのパンがなくなったので、ついついいつかのジャムパンに手を伸ばす。パンはすっかり固くなっていて、噛むと中から砂が出てきた。
「砂のピッチで酒井がボレーで狙いました」
シュートは惜しくも外れたが、相手チームを慌てさせるには十分だった。
「永井追いつくか?」
深い草むらのピッチは選手の姿を見えにくくし、チームから連携と連動性を奪った。流石に無理かと解説者は言った。その時、ディフェンダーの姿はまだ20メートル先にあり、円陣を組みながら混乱の最中にあった。
「追いついた!」
彼一人がボールに追いついた。そして再びボールを蹴り上げた。ボールは再び草むらの中に落ちて隠れた。
「追いつくか?」
流石に無理かと解説者は言った。ピッチサイドに助けを求めたが、信頼のおける情報は得られず、感情に任せた声援を送った。敵チーム全体がミステリーサークル作りに夢中になる頃、風が草の密集を揺らした。風を起こしたのは、永井だった。
「追いついた!」
またしても永井は追いついた。
「追いついた! シュートだ! 入った!」
永井のシュートで得点が生まれた。
「追いついて、シュートを打って、そしてゴールが決まりました! 永井やりました。相手ベンチはあっけにとられています。ついに永井が値千金のゴールを決めました」
「一万円お預かりします」
一万円札を預かってから、お釣りを用意して振り返った。
「1,880円お返しします」
お釣りを返そうとしたが、80円がまだ揃っていなかった。一万円も実際には預かり損ねていた。もう一度返りお釣りを作り直した。振り返ってお釣りを渡そうとする。客の手の先に一万円札が見える。1,880円はまだ揃わなかった。10円玉が多すぎる。それはあの時の一万円札ではないですか、と訊こうとするが声が出ない。もう一度お釣りを作り直して、向き直った時には、もう一万円札は消えている。もう一度最初からやり直したかった。
どこまで戻れば正しい道に戻れるのか、記憶の迷路を彷徨っていた。何かが弾けて、思考は遮断されてしまう。誰かがシャンパンを開けた音だった。
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