眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

風の旅人(アドベンチャー・マインド)

2022-09-20 03:24:00 | ナノノベル
「隊長、この風では無理です」
 もの凄い風だった。進もうとしても押し戻される。どんな屈強な脚を持っていても前進を阻まれる。希にみる手強い風が辺り一帯に吹き荒れていた。
「それでも行こう。先が待っている」
 賢明なリーダーなら立ち止まるところかもしれない。隊長は足止めを好まなかった。他の隊員も進めるものなら進みたいと思う心は一つだった。
「駄目です。強すぎる!」
 想像を絶する風は、今までの敵のレベルとは次元が異なっていた。
 歩いても歩いても進まない道がある。未来の風景を開こうとしているのに、時間はまるで止まっているようだ。

「でも楽しいね」
 抵抗に逆らって進もうとするのは、楽しいことだった。生の感覚がこの瞬間に研ぎ澄まされている。私たちの冒険とは、そういうものだ。
「下がってる!」
 進んでいないどころではなかった。歩くほどに押し戻されていく。この強すぎる風は、足踏みさえも許してくれない。いっそ留まっていた方が未来に近づいていただろう。
 隊長の声に従って私たちは望まぬ後退を強いられた。ぐんぐん押し戻されて、過去来た道をたどった。
「強かったな」
 無力さを思い知る頃には懐かしい村の中を歩いていた。

 前進は失敗した。誰も誰かを責めなかった。
(そういうものだ)
 私たちは社会と人の構図を捨てて自然からみる。
 自然の中では誰もが小さくなる。大事にみえていたものも、より大きなものの中では霞んでしまう。
 悲しいことは悲しくて当然だ。
 自然を受け入れることで私たちは軽くなることができる。

「またあんたらかい」
 村長があきれたように言った。
「お久しぶりです」
「よほどここが気に入ったようだな」
 風がまた一つのお気に入りを作ったようだ。
 今夜はここで旅の翼を休めるとしよう。

コメント
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