胸についたバッジ(俺の主治医)が黄色から激しい点滅に変わり、そのペースは徐々に速さを増していた。ついにこの日がきたか……。色が赤になった瞬間、俺の引退が確定する。ピッチ袖では交代の準備が進められていた。あの番号は。(やっぱり俺か……)
遠のいていく意識の中で、俺はバイタリティ・エリアに入っていく。新しいサイドバックから最後の贈り物。トラップはできない。精一杯に伸ばした足の先が微かにボールに触れて押し出した。その瞬間、ちょうど飛び出して来たキーパーの股を抜けた。(間に合うな!)戻って来たディフェンスは追いつけず、そのままゴールに入った。
奇跡か、故障か、胸のバッジの点滅は止まり、青になっていた。俺の体は弾むように軽く、頭は冴え切っていた。交代のカードは取り下げられたようだった。
俺はボールを取ってセンター・サークルまで駆けた。ゲームはまだ振り出しに戻っただけ。喜んでいる時間はないのだ。