2人協力してゴールを目指すか、1人は相手の邪魔に回るかは作戦の岐路だったが、僕らは2人で協力してゴールを目指す方の作戦を採った。ある程度の距離を取って友達が幾度もシュートを放つのを僕は石の上に座って応援しながら見つめていた。応援空しく、シュートはついに決まることなくタイムアップとなってしまう。「わざわざ離れて投げる必要はなかったんだよ」と審判は言い、リンクに近づいていってお手本を示した。まるで手紙を投函するように、それはいとも簡単な動作だった。「ごめんな」と友達は素直に詫びた。「気にするな」と僕は言った。
濡れ衣の倉庫から僕は脱出する。その死体を作ったのは僕の仕事ではない。けれども、他の人はどう思うだろうか。出入り口にカメラがあって、それが冷徹に作動しているのを十分に意識しながら僕はあえてゆっくり歩いた。あえてリラックスしている風な仕草を作り、肩を回し、両手を組んで頭の上に高く上げた。これほど悠然とした、警戒心を持たない犯人なんてありえないのだ。そうした空気がきっと伝わるということを願って、悪気のない微笑が、微かに浮かぶように遠い空を見つめた。星はない。
止めておいたはずの自転車が見当たらなかった。既に押さえられてしまったのか、誰かが僕をより深く陥れるための計画の一環なのか。どこを見ても僕の金属的な自転車は見つけることができなかったが、少しずれた場所に、鉛筆で描いたような自転車らしきものの姿があった。自分の自転車でないことがわかり切っているのに、近づいて触れてみるとそれは細い針金のようだった。触れていると向こうからも触れてきて僕の腕に絡み付いてきた。その時、自転車はもう自転車の形をしていなくて、それが植物の一種であるとわかった。夜の中に佇んで静かに獲物を待っていた。振り解こうとする時に、腕を数箇所刺されてしまった。(これもきっと不利な証拠として働くことが想像される)ゲームセンターの扉には「満員中」と紙が貼られて、夜の入場者を拒んでいた。明日の球技大会に備えて子供たちを眠らせる作戦なのだろう。
ベッドの上で歌手が歌うので口を封じると歌手は歌手ではなくなって、ただの石になった。頭の中で僕はそれをベッドの下に隠したけれど、少し姿勢を下げれば、例えば床に落ちた物を拾う時、例えば床に掃除機をかけている時、難なくそれは見つけることができる。その発見の瞬間、石と目を合わせる母の頬の冷たさに耐えられず、僕はそれをためらった。町内会の人たちが、石を運ぶ様子を、僕はベッドの脇で黙って見守っていた。「最初からそこにありました」
「それは大変なことでしたね」
会長さんが、そう言って労った。
「死体を作ったのなら大変なことだぞ!」
大変という言葉にこれ以上ない力を込めて父が言った。そう言う父は、僕のことを信じていないのだろうか。きっとそれは何かの間違いだ。死体はない。今ここに死体はないのだし、元々死体でさえもなかったのだ。そもそもどうしてベッドの上で突然歌手が歌うなどということがあるだろう。僕はノートを探さなければならない。ノートの中に空想の歌手を見つけ出すことが、何よりも僕の無実を証明するだろう。
「大変なことだぞ!」
きっとどうってことはないのだ。父は少し大げさに捉えすぎるところがあった。部屋の中の思い当たるところを当たってみたが、それは見つからなかった。ベッドの中には、僕が着ていくためのシャツと履いていくための靴があった。前もって母が温めてくれていたのだ。(母は僕が出席することを信じ切っているのだ)もうすぐ警察の者が、手書きの自転車の証言を元にして、僕を捕まえに来る。
鞄の中で、僕のノートは見つかった。いつの間にか表紙の色が変わっていて、最初はそれとわからずに見過ごしていたのだった。
試合は10試合同時に行われ、会場の中央に位置した審判が1人でそれを捌いていた。笛が鳴るとサーブが打たれ、すべての球音が静かになってから、笛が鳴り、次のサーブが始まる。ラリーが長く続く台は、みんなの注目を集め唯一残った球音が途絶えるまで審判は笛を吹かない。何度目かの笛でサーブ権が移り、ある選手が台の中央付近からサーブを打つと、審判がそれに向かって笛を吹いた。審判は自らそれに似たサーブを実演してみせ、これではレシーブが不可能な場合が生じると主張した。ルールブックは、彼の頭の中にはないようだった。
濡れ衣の倉庫から僕は脱出する。その死体を作ったのは僕の仕事ではない。けれども、他の人はどう思うだろうか。出入り口にカメラがあって、それが冷徹に作動しているのを十分に意識しながら僕はあえてゆっくり歩いた。あえてリラックスしている風な仕草を作り、肩を回し、両手を組んで頭の上に高く上げた。これほど悠然とした、警戒心を持たない犯人なんてありえないのだ。そうした空気がきっと伝わるということを願って、悪気のない微笑が、微かに浮かぶように遠い空を見つめた。星はない。
止めておいたはずの自転車が見当たらなかった。既に押さえられてしまったのか、誰かが僕をより深く陥れるための計画の一環なのか。どこを見ても僕の金属的な自転車は見つけることができなかったが、少しずれた場所に、鉛筆で描いたような自転車らしきものの姿があった。自分の自転車でないことがわかり切っているのに、近づいて触れてみるとそれは細い針金のようだった。触れていると向こうからも触れてきて僕の腕に絡み付いてきた。その時、自転車はもう自転車の形をしていなくて、それが植物の一種であるとわかった。夜の中に佇んで静かに獲物を待っていた。振り解こうとする時に、腕を数箇所刺されてしまった。(これもきっと不利な証拠として働くことが想像される)ゲームセンターの扉には「満員中」と紙が貼られて、夜の入場者を拒んでいた。明日の球技大会に備えて子供たちを眠らせる作戦なのだろう。
ベッドの上で歌手が歌うので口を封じると歌手は歌手ではなくなって、ただの石になった。頭の中で僕はそれをベッドの下に隠したけれど、少し姿勢を下げれば、例えば床に落ちた物を拾う時、例えば床に掃除機をかけている時、難なくそれは見つけることができる。その発見の瞬間、石と目を合わせる母の頬の冷たさに耐えられず、僕はそれをためらった。町内会の人たちが、石を運ぶ様子を、僕はベッドの脇で黙って見守っていた。「最初からそこにありました」
「それは大変なことでしたね」
会長さんが、そう言って労った。
「死体を作ったのなら大変なことだぞ!」
大変という言葉にこれ以上ない力を込めて父が言った。そう言う父は、僕のことを信じていないのだろうか。きっとそれは何かの間違いだ。死体はない。今ここに死体はないのだし、元々死体でさえもなかったのだ。そもそもどうしてベッドの上で突然歌手が歌うなどということがあるだろう。僕はノートを探さなければならない。ノートの中に空想の歌手を見つけ出すことが、何よりも僕の無実を証明するだろう。
「大変なことだぞ!」
きっとどうってことはないのだ。父は少し大げさに捉えすぎるところがあった。部屋の中の思い当たるところを当たってみたが、それは見つからなかった。ベッドの中には、僕が着ていくためのシャツと履いていくための靴があった。前もって母が温めてくれていたのだ。(母は僕が出席することを信じ切っているのだ)もうすぐ警察の者が、手書きの自転車の証言を元にして、僕を捕まえに来る。
鞄の中で、僕のノートは見つかった。いつの間にか表紙の色が変わっていて、最初はそれとわからずに見過ごしていたのだった。
試合は10試合同時に行われ、会場の中央に位置した審判が1人でそれを捌いていた。笛が鳴るとサーブが打たれ、すべての球音が静かになってから、笛が鳴り、次のサーブが始まる。ラリーが長く続く台は、みんなの注目を集め唯一残った球音が途絶えるまで審判は笛を吹かない。何度目かの笛でサーブ権が移り、ある選手が台の中央付近からサーブを打つと、審判がそれに向かって笛を吹いた。審判は自らそれに似たサーブを実演してみせ、これではレシーブが不可能な場合が生じると主張した。ルールブックは、彼の頭の中にはないようだった。