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眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

撃退未遂

2020-08-12 17:29:00 | 幻日記
 虫が出た。虫がいたところに僕が来たのかもしれなかった。虫は隅っこに固まったように動かなかった。その時、僕は丸腰で少し時間を稼ぐ必要があった。簡単な謎々を出してその間にスプレーを取りに下りた。念のためノーヒントにしておいた。

「虫が出ました!」
 緊急事態を告げて武器を求めた。赤色のものをイメージしていたけれど、出てきたのは緑色のスプレーだった。殺傷力に問題はなさそうだった。武器を手にして急いで2階に戻った。問題を置いて逃げ出してはいないだろうか……。
 虫はまだ同じ場所にとどまっていた。

(遅かったじゃないか)
 というような顔をしてこちらを見た。
 驚いた事に虫は解答を3つ用意していた。
 1つ目は平凡で、次も辻褄は合っていた。
 3つ目の解答が僕をしびれさせた。

「やられたー!」
 僕はスプレーを持ったまま身動きすることができなくなった。


秘密のイタリアン 

2020-08-11 11:59:00 | 幻日記
 突然訪れたのでもてなしの準備が整っていなかった。
 レシピが煮詰まるまでグリーンを一緒に回ることになった。シェフはごぼうを手にし「これが愛用の武器だ」と自慢げに言った。構えは一流、スイングはデタラメで、一直線にバンカーに沈んだ。
「本業は猿ゴルファーだ」
 みんなでトマトを拾いに行く途中に異変に気づく。
「罠だ!」
 気づいた時には砂に足を取られて沈んで行った。地底まで行くとそこは大人の隠れ家的スペースになっており、小猿のイタリアンに入店してもてなされた。
「いらっしゃいませ」

小さいおじさんの寝息

2020-08-06 23:01:00 | 幻日記
 おかしな時間に目が覚めて海苔を食べた。
 1枚、2枚、食べると喉が渇いた。冷蔵庫を開けると小さいおじさんがチーズを食べていた。
「あまり食べるなよ」
「わかっとるわ!」
 逆に釘を刺されたような思いだった。改めて言うほどでもないことは、あまり言わない方がよいのだ。
 お茶を取ってそっと扉を閉めた。

 喉を潤すと少し気持ちが落ち着いた。
 さっきまで大事な夢をみていたような気がするが、設定がよく思い出せない。
 お茶を戻すと小さいおじさんはもう豆腐の上で寝ていた。

 すぐ寝れる人はいいね。

お部屋探し/Wi-Fiテスト

2020-08-03 18:13:00 | 幻日記
「試してもいいですか」
 間取りはともかくWi-Fiマンションというのが魅力だった。家賃は多少高くても自分の通信費を浮かせられるかもしれない。
 しかし、通信状態はどうだろう。今よりも遅くストレスを感じるほどだったら考え物だ。
 スマホからアクセスするといつものSNSで偶然みた詩にスキをした。
 ハートが届くまでおよそ30秒かかった。
 うーん……。
「快適でしょう」
 営業マンはかしこまって膝の上にPCを開いた。即興的5行詩を打ち込んでアップする。
「速いですね。(タッチが)
それWi-Fiですか?」
 速さは比べるときりがないと男は言った。

「駅から何分でしたか」
「徒歩40分ほどです」
 うーん……。


夢の中で安心するな

2020-07-23 08:42:00 | 幻日記
 さっきまで夢うつつだった。
 消えそうな発想を何度も引き戻し組み立てて書き留めた。書き留めたところで少し安心した。ところが、そこまでやったところで結局何も残っていないのだ。「安心した」ところまで含めて全部夢だったのだ。
(夢の中で安心するな)
 なんて現実の人に助言したところで何の意味があるだろう。
 それにしても、「あの苦労が」……、
 みんなうそだったとは簡単には納得できないのだった。

 では、これは?
(あれが夢ならこれも夢であるやも)
 時々、現実サイドに問いかけたくなる。
「みんな夢でした」
 ある日突然、誰かにそう教えられるのではないか……。

(現実の中で安心するな)
 向こうの方で誰かが呼びかける声が聞こえる。

ためらいの宝物

2020-07-19 09:31:00 | 幻日記
 洗面所に行き手に取った瞬間、離れた。落ちていく歯ブラシを手が追いかける。いつもなら追いつけるはずなのに、今日は駄目な日だった。歯ブラシは軽くドブの中に落ちた。3秒ルール! 拾おうとして歯ブラシは、更に深いドブの中に浸かった。調子がいい時はミスをしてもリカバリーできるのに、駄目な時はとことん駄目だ。

(もしもこれしかなかったら……)
 最悪の事態を思いながら、下書き保存庫の中を探った。
 あった! あったぞ!
 2005年『歯磨き選手権』の参加賞にいただいた歯ブラシだ。

「こんなものいらない」そう言って、
 自分から遠ざけていた歯ブラシを、ようやく使う時が訪れた。
 あの日、躊躇われたものが今日の宝物になるとは……。
 取っておいて本当によかった。



どこからか吹く風

2020-07-10 20:38:00 | 幻日記
雨脚がゲームを止めたネット裏
昔話でつなぎましょうか



 パン屋さんの旗が風に煽られて揺れていた。だんだん強くなって、食べ終えたパンの下に敷いてあった紙などが飛ばされてしまいそうだった。こちらに被害が及ばないように、テーブル周りを整えた。その風はどこから吹いてくるのだろう。地下からか、地上からか、天井からか、あるいはどこかの搬入口が開いたところから、ここぞとばかりに入ってきたのだろうか。よくわからない風というものがある。

 病院の近くの食堂に入った時のことを不意に思い出した。漫画がたくさん置いてあった。店主は少し年を取っていただろうか。どこか奥の方の扉が開いていて、そこからずっと風が入り込んでいた。夏の少し前でそう暑くはなかった。ずっと遠くから吹いてくるような風だと思った。山の奥から、あるいは遠い過去から、吹いてくるような風。涙腺を刺激する風だった。パタパタとメニューが揺れていたが、倒れることはなかった。
 何を食べたかは思い出せない。
 風のことだけはしっかり覚えているのに。


玉葱クッキング

2020-07-08 21:20:00 | 幻日記
 玉葱の皮を剥いて料理した。
 作り終えてみると手の平ほどのお皿に収まった。おかしい……。そんなものに収まる玉じゃないんだ。1週間分の食事にあてるつもりだったので動揺した。これではもう1つ剥かなければならないぞ。


作り置き玉葱のレシピ

材料①玉葱1つ

手順
 1 皮を剥いた①を芋蒸し容器に入れてレンジで1分チン
 2 やわらかくなった玉葱をフォークとナイフを使ってカットする
 3 カットした玉葱を再びレンジに入れて1分チン
 4 醤油をかけて味をつける(お好みにより豆板醤などをプラス)
 5 味つけした玉葱を再びレンジに入れて1分チン
   (お好みにより更にレンジで1分チン)

いくらネオン(テイクアウト)

2020-07-07 15:16:00 | 幻日記
 いくらたちは元の居場所から零れ光になって散らばっていた。不条理な闇が作り出した仕事、1つ1つ拾い集める。
「早く家に帰りなさい」
 命令というほど強い口調ではなかった。
「俺たちこれら大麻だから」
 警官はそう言って笑った。清々しい目の輝きからジョークだとわかったが、気づいた時にはもう彼らは背を向けて歩いて行くところだった。

 のり巻きの上にいくらを戻すとネオンは消え、部屋の中だった。
 あるべき形で届けること、持ち帰ることは、簡単ではない。
 私は軍艦の上にわさびをつけ、控えめに夜をたらした。


プレッシャー・ベーカリー

2020-07-06 08:05:00 | 幻日記
「今焼けたとこですよ。
最近流行ってます。いい色でしょ」
「ああ」
「これなんか中にクリーム入ってます。
デニッシュ生地になっていて、コーヒーとかに合わせられますよ」
「へー」
 行くところ行くところ店員がついてくる。まるでボディガードのように強力だ。

「これなんかシンプルでかわいいでしょ。
私も1つ食べてます。はい」
「なるほど」
 ああ、色々あって目移りする。
 だけど、胃袋は1つだけだ。
 お店の外には私の決断を待つゲストの立ち姿があった。
 トングはふらふらと泳いで塩パンに吸い寄せられた。
(今日も冒険はできなかった)

「イートインでお願いします」


スーパー特急ドクター(考えるよりも動いた方が早い)

2020-06-25 18:38:00 | 幻日記
 6時前に家を出て歩いて駅に向かった。電車に乗って1駅先で降りた。踏切を渡り陸橋を渡り少し歩いて階段を上がると内科の入り口は開いていた。診察券を出すとすぐに名前を呼ばれた。診察室に入ると電子カルテが映し出されているのが見えた。「今日はどうしました」と先生が訊いた。少し話をして、お腹を触り、来週の今日に検査日を決めた。初めて見る若い看護師が採血をして終わるとすぐに会計をした。
 時計を見るとまだ6時半にもなっていない。そんな……。

 歩く途中、私は1つも信号を待たなかった。1分も電車を待たなかった。私が帰る頃に、1人の患者が現れた。あまりにすんなり進みすぎたため、まるで夢のようにも思われた。そして、今までの躊躇いが馬鹿馬鹿しく思えてきた。(病院に行こうか行くまいかもたもたしていたのだ)迷ったら踏み出すことも必要かもしれない。
 帰りは歩いて帰った。買い物をして家に着いたのは7時を少しまわった頃だった。


猫の瞳

2020-06-18 20:59:00 | 幻日記
 まだ大河ドラマをやっているような時間なのに、フードコートには網がかけられている。宣言が解除されても、すぐに元の日常は戻ってはこない。僕は網をかき分けて、フードコートの中に入ろうとした。もう終わりだと警備の人に制止される。
「中に人が!」
 閉めるのなら先に状況を確認しないと。
 彼には何も見えていないようだった。
「見えないんですか。あそこに!」

 以前にも見かけたことがある。
 おばあさんはキャンバスを広げて猫を描いていた。
「今日の内に描いておかないと逃げてしまうのよ」
 手元しか見えていないようだった。
「もうここは閉まるみたいですよ」
 もう完全に閉まっている。
「ご親切にどうも」
(目玉を入れたら終わりにするわ)
 その時、フードコートの明かりが消えた。

「おばあさん?」
 おばあさんは消えた。
 静寂の中に猫の瞳だけが光っている。


記録係がいない

2020-06-12 19:18:00 | 幻日記
 九段は60%勝ちそうだった。次の一手を考える表情に楽観の色は見えなかった。最善手を追ってもがき苦しんでいるようにも見えた。しばらくして九段は席を立った。その後すぐに記録係も席を外した。
 九段は戻ってきた。記録係はまだ戻っていなかった。
 九段は正座になって盤上を鋭く睨んだ。ここは勝負どころなのか、相当に深く先を読んでいるようだった。時々視線を外し記録机の方を見た。いつまでも記録係は戻って来ない。そんなことがあるのだろうか……。ちがう! 記録は自動化されたのだ。(私は認識を修正した)
 1時間以上、九段は一手も指さなかった。

「6時になりました」
 戻ってきた先生が休憩を告げた。
 時を告げるのはまだ人間だった。(やがては機械化されるだろう)
 うとうとしている内に私は眠ってしまった。

 目が覚めると九段は80%負けそうになっていた。
 休憩のあとに何を指したのだろう。今日は解説の先生が誰も来ない日だった。玉は端まで追いつめられ、歩頭に桂が飛んできた。もう逃れられまい。私はテレビを消して応援席を離れた。