今年度に入り盗塁の数が飛躍し、2塁へ届くはずの球が捕手の胃袋の中に消えているのではとささやかれ始めた。コミッショナーは公の場で、公式球がいつの間にか大福餅に変わっていたようだと述べ、甘党低迷の責任を認めつつも、ガバナンスを徹底することで球質を改善する意向を示した。#twnovel
今年度に入ってから急に死にすぎる。主人公の侍は悪事が発覚する前に切りつけ、悪人顔というだけで刀を抜く、どうも命が軽く扱われている。プロデューサーは、悪人が死ぬのは当然と前置きした上で「昨夜のテレビを見て初めて知った。局のガバナンスが最も悪い」と反省の弁を口にした。#twnovel
今年度に入ってから急にうどんの腰が弱まったという声があちらこちらから持ち上がったため、ついに店長が表に顔を出した。内部調査の結果、職人の一部が本来はうどんを踏むべきところを誤って蛇を踏んでいたことがわかり、今後はガバナンスを徹底したい、と店長は深々と頭を下げた。#twnovel
今年度に入って学校中の生徒の成績が急激に上がったのは一体どういうわけだと多数の声が寄せられたため、緊急の調査が行なわれることとなった。会見の席で校長は、教員の大部分がいつの間にかアンドロイドに変わっていたが、成績が伸びたというだけで何も問題はなかったと胸を張った。#twnovel
高々と舞い上がった打球は、かつてない放物線を描いてバックスクリーンにたどり着く。その時のためだけに用意された7秒間だけの超短編映画が上映される。ちゃんと届いただろうか……。監督は人々の反応が気になる。男たちはベンチから飛び出して、賞賛の拍手で主演の帰還を出迎えた。#twnovel
1度も投げたことはなかったが、高く振り被るだけで周りのみんなは心配したり評価したり食べ物をくれたりしたのだ。みんなはきっと「投げたら終わり」と知っていたのだ。みんなの期待を背負い、私はより高く高く振り被る。「ボーク!」人の家の前に立ち、仮面の男が謎の言葉を叫んだ。#twnovel
主人公の額に当選議員の名が再び走った。最終回、最愛の人に向かって最後の思いを告げる時だったけれど。「あなた、誰でしたっけ?」大事なことを忘れてしまっても、男は余裕の微笑みを浮かべていた。「この後もっと面白いドラマが始まるよ!」人格は既に、次回の主演作に移っていた。#twnovel
ルルと名づけたケーキを少しだけ遠ざけた。見ているだけで十分にしあわせだったから。「この子のためなら頑張れる」無理難題の山、難攻不落の暗号たちと格闘して、私は多くのことを学んだ。ルルの名を忘れる時がきた。「もういいね、ルル」私はフォークを手にして、解体作業を始める。#twnovel
ゴールを決めるだけが仕事ではなかった。後方からのスルーパスに反応してワンタッチでコントロールする。中盤で溜めを作るとその間にマイクに向かってしゃべり出す。「いらっしゃいませ。ご注文をどうぞ」リクエストを味方に通すと急いでゴール前へと駆け上がる。時間は1分を切った。#twnovel
誰かと話すつもりも何かを開くつもりもなかったが、ただ表面で眠る猫を撫でたいだけだった。1つの絵に触れることもなく、猫の頬に触れる。猫は反転しながら不機嫌に目覚めると、液晶の上で狂ったようにタップを踏み始めた。種々のアプリの競合の中、デタラメ電話の雨が夜通し続いた。#twnovel
1人が指を指し確認するとそれに対して3人の人間が指を指して指を指した人の確認をする。確認をする3人の1人1人にも3人の人間がついて指を指して確認する。確認の連鎖は宇宙にまで及びその安全性をより強固なものにしていた。彼らは確認のためだけに作られた確認人間なのだった。#twnovel
あんまり雨がしつこいので空を遠ざけた。空と一緒に雨はいった。安心するあまり、遠ざけたことを忘れてしまうと時間の感覚を失って、しばらく「今」が迷子になってしまった。本当に遮りたいのは雨だけだったのに……。反省に浸った後、思い切って空を引き戻すとまとまって星が流れた。#twnovel
「きみだけ残ると寂しいね」それはあなたがペースを間違えたせいか、あるいは友達が少なすぎたせいか、私は望んで残ったわけではないのだけれど、誰かの絡みがあってこそ私という存在は生かされるのかもしれない。お茶の葉の香りが微かに感じられる。新しい友達が来るのかもしれない。#twnovel
「乾式電子複写機をお借りします」男は一声かけて文房具屋の奥へ進む。「複写が終わったら持って来て」お金は後でいいと店の主人が言った。複写を終えると男は優雅なジャグリングを見せながらレジへと歩いた。「地球が30球」みんなが未来への備えを考える。そんな時代がやってきた。#twnovel
別れの季節がやってきた。惜しいので挨拶する間も惜しんで話し込んだ。どうしてあなたはやって来るのか、いつもどこからやって来るのか、本当に話したいのはそんなことではないはずなのに、話したとしてもすぐ終わるのに。「さよなら」ほら、ね。もっと来て、いいえ来ないでください。#twnovel