◇◇◇ 頭の良くなる湯
師走も下旬、カレンダーが磯野波平氏の髪の如く侘びしくなった某日、暖冬で雪が無いというので蔵王山麓の青根温泉行を思い立った。例年なら根雪がしっかりと根付いてノーマルタイヤでは入れない山腹でも乾いた寒風だけで雪の気配は全く無い。
宮城県柴田郡蔵王山麓の青根温泉は仙台藩62万石の伊達正宗の湯治場として1546年に湯小屋が開かれたのが始まりというから歴史は古い。掛け流しの湯でお殿様の気分に浸れる。湯元不忘閣にはそれにまつわる古文書なども展示されていて物語は尽きなかった。
侘びた木造のすき間から木枯らしが吹き込む長い廊下を進み「御殿湯」に向かう。途中、に「頭の良くなる温泉」の能書が目についた。何処の温泉にも「効能書」があるが、ズバリ頭が良くなる温泉というのは始めてである。
蔵王山中にある『三階の滝』には大カニが住み、『不動滝』には大ウナギが住んでいました。大蟹は滝壺(住み家)が狭くなったので大ウナギの滝壺が欲しくなり、壮絶な戦いを挑んでウナギをハサミで切り刻んでぶん投げました。
頭部は青根(あおね)に、胴体は峩々(がが)へ、尾部は遠刈田(とおがった)に飛んで行きました。その結果、青根温泉(頭痛、眼病に効能)になり、胴体は峩々温泉(胃、腸、肝臓に効能)になり、尾は遠刈田温泉(神経痛、婦人病に効能)になったんだと。
何だか、頭が痛くなりそうな話ですが、山本周五郎がこの不忘閣で「樅の木は残った」を執筆したというのも納得!
雪降らず山は眠れず凩に波濤の如く裸木荒ぶる
吾も無く顎まで浸る温し湯に粒子となりてふるさとに還る
稜線に今年が烟る冬の暮
枯萩の青根湯殿の野面積み
ビル風は枯葉と缶をこき混ぜて
※野面積み(のづらづみ)=自然石をそのまま使用する石垣の積み方