ヒュースタ日誌

相談機関「ヒューマン・スタジオ」の活動情報、ホームページ情報(新規書き込み・更新)を掲載しています。

コラム再録延長(4)『角をためて牛を殺すな 〔上〕“お手伝い”することから』

2013年03月14日 11時27分59秒 | メルマガ再録
 去年の春から夏にかけて、不登校やひきこもりの青少年を持つ親御さんの「考えさせられる印象的な言葉」や「多くがおっしゃる言葉」に対して、私の意見をお伝えしてきました。
 それに関連して「言葉にはしないが、そう思っておられる方が多いだろうこと」を、このシリーズの最初にひとつ取り上げたいと思います。

 それは「家でどんなにいい子であっても、学校・社会に復帰しなければ意味がない」という親御さんの思いです。

 不登校やひきこもりのお子さんを持つ親御さんのお話をうかがっていて、印象的なことがあります。
 それは「家でいい子である」というケースが少なくないことです。

 本欄でも折にふれ指摘しているように、不登校やひきこもりは、暴力や神経症的行動などの「二次症状」がよく見られるものとされています。
 しかしその一方で「家事を頼むとやってくれる」「弟妹の面倒をよく見る」「祖父母の介護を手伝ってくれる」など、本人が家族のよき一員として生きていることを示すお話をしばしば聞くのです。

 この事実は、本人のどんな心理を表しているのでしょうか。

 当然のことながら、人の生活には「公」の部分と「私」の部分があります。

 「公」の部分は、子どもの場合「学校をはじめとする家庭外の場での生活」であり、おとなの場合「仕事をはじめとする社会的に認められた営み(主婦業やボランティアなど)での生活」とされます。

 「私」の部分は、それ以外の生活、たとえば、家族どうしの交流、友だちづきあい、勉強、家の手伝い、趣味、・・・等々です。

 そして「公」の部分を実行することは人としての義務であり、実行していないと「やるべきことをやっていない」「何もしていないに等しい」などと見られます。親御さんをはじめ周囲の人々も、本人をそう見ますし、本人自身もそう思って葛藤していることがよくあります。

 このような状況で「今の自分にできることをする」という発想が生まれる不登校児やひきこもり青年がいます。
 それは「自分は何もしていない」という負い目と罪悪感の苦しさから少しでも楽になりたい一心ゆえの、窮余の策なのではないでしょうか。

 「公」の部分が実行できない彼らに実行できることは「私」の部分しかありません。だから「せめて家庭のなかで役に立つことをしよう」という、彼らなりの精一杯の姿勢だと思うわけです。

 そこには、学校・社会で役に立っていない自分が、家庭で役に立つことで「自分はこの家で生きていていいんだ」と、家族の一員としての存在価値を自己確認しようという、切ない気持ちが働いているように感じるのです。

 つまり彼らは、まず「私」の部分を実行することで自己肯定感を取り戻してから「公」の部分を実行する、というプロセスを歩もうとしている、と考えられるわけです。

 それでは、そういう彼らに対して、親御さんはどう感じていらっしゃるでしょうか。

 「やってくれるのはうれしいんだけど・・・」という複雑なお気持ちではありませんか?
 できれば「私」の部分を実行するより、早く「公」の部分を実行できるようになってほしい、そのための訓練を受けてほしい、というのが本音ではないでしょうか。

 これは「私」の部分に専念する時期を取り上げてでも、早く学校などの場や社会に復帰させようという対応につながる考え方です。

 58号でお話ししましたが、ひきこもり時代の私は「公」の部分を実行すること=仕事を始めることを焦るあまり、実行できない状態のうちから仕事を始めようとしては挫折していました。
 先を急いで挫折を繰り返したら、ますます自己否定感が深まり、生きる喜びも遠ざかります。

 それとは反対に、不登校児やひきこもり青年が「私」の部分に専念して家族のよき一員として生きることによって、家庭のなかでの役割を獲得し、その役割における実績を積み重ねることは、自己肯定感や生きる喜びへとつながっていきます。

 それを基盤に「公」の部分を実行できるようになるのと、自己肯定感も生きる喜びも抜きに「公」の部分を実行できるようになるのと、どちらのプロセスが本人に豊かな人生をもたらすか、明らかだと思います。

 まずは「家庭内で役割を果たす力」を本人の力として認め、大いに発揮してもらいましょう。その力こそ、次のステップで発揮される力の基礎となってくれるのです。


2007.1.19 [No.136]


続けて『〔中〕家庭生活を楽しむことから』を読む(さらに〔下〕へ読み進む方は右側のカレンダーの「21日」をクリックしてください)
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コラム再録延長(4)掲載のお知らせ

2013年03月14日 11時02分57秒 | メルマガ再録
 去年10月から3か月間、メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』の創刊10周年を記念して本欄で実施していた「コラム再録」を3か月間延長のうえ、半分の頻度で実施する「コラム再録延長」も最後の月を迎えました。


 きょう4回目に転載するのは『角をためて牛を殺すな 〔上〕“お手伝い”することから』。「小さな問題点を直そうとして、かえって全体をだめにしてしまう」というたとえ言葉「角を矯(た)めて牛を殺す」を不登校・ひきこもりに応用し「本人の現状を必要以上に問題視し、それを解消しようとして、本人の人生全体をないがしろにしてしまう」という危険を回避する考え方と対応を示した3回シリーズの第1回です。
 
 この文は、ある当事者読者の方から「私たちはほんとうにそういう気持ちなんですよね」という意味の共感のメールが届いたほか、シリーズの第3回『〔下〕エネルギーを保つことから』を読んだある支援者の方は、ご自身のブログに「とても素敵な文章を読んだ」とほめてくださいました。

 このように全体として好評だった連載のひとつですので、末尾のリンクから〔中〕と〔下〕も続けてお読みくださいますよう、またよろしければコメントをくださいますようお願いいたします。


 では、このあと掲載します。
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コラム再録延長(4)延期と変更のお知らせ

2013年03月13日 17時14分08秒 | メルマガ再録
 暖かいなか強い風が吹き荒れるきょうの神奈川県東部。まさに“春の嵐”という感じです。

 さて、きょうは「コラム再録延長(4)『不登校・ひきこもりの“終わり”へ 〔下〕ハードランディングとソフトランディング』」を掲載する予定でしたが、事情により明日に延期するとともに、それを次回最終回に先送りし、明日は『角をためて牛を殺すな 〔上〕“お手伝い”することから』に変更させていただきます。ご了承ください。

 ところで「第19回青少年支援セミナー」の開幕まであと10日。まだ日がありますので、2日目のパネラーの生きざまや将来像が一覧になった比較対照表を掲載した案内書をお持ちでない方はご請求いただき、また代表のツイート(ツイートを記録している「ツイログ」が読みやすいです)もご覧いただきながら、趣旨と内容をご理解のうえ参加をご検討いただけると幸いです。よろしくお願いいたします。

 では、1日遅れの「コラム再録延長(4)」をお楽しみに。


今月の業務カレンダーを確認する
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業務カレンダーに3月の予定を掲載

2013年03月08日 16時09分22秒 | ホームページ
 諸般の事情により1週間遅れて今月の業務日程を入力しました。

 今月は、原則休業日のなかで火曜日を「ご利用は不可能だがお問い合わせは可能」と、第2週からの金曜日を「ご利用も可能」とすることができましたので、それらの曜日にもどうぞお問い合わせください。

 一方、業務日のうち数日を完全にお休みさせていただくほか、23・24の両日は本欄でもお知らせしている「第19回青少年支援セミナー」を開催します。

 なお、メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』号外を16日に配信します。「青少年支援セミナー」の詳細など掲載しますのでご覧ください。


3月の業務カレンダーを見る


【業務カレンダーの表示について】

 原則休業日は「ご予約が入っていなければ休業できる日」という意味であり、必ず休業するわけではなくお問合わせ・ご利用が可能な日がありますので、可能かどうかをカレンダーの日付をクリックしてご確認ください。

 業務のお知らせを掲載した日は、それ以外(休業日など)のお知らせがシステム上掲載できませんのでご了承ください。
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「第19回青少年支援セミナー」1日目のご案内

2013年03月06日 14時42分35秒 | ホーププロジェクト
 2週間前にお知らせした2012年度の標記イベント。毎度のことながら広報の進捗は遅々としていますが、おかげさまで事前申し込みのご連絡やお問い合わせが徐々に入ってきています。

 今回は『不登校・ひきこもりからの生き方を考える』という全体テーマのほかに、初めて各日ごとに小テーマを設定しました。
 講座を開講する1日目は『不登校・ひきこもりの支援再考』と、シンポジウムを実施する2日目は『バリアフリーな生き方を求めて』としています。

 つまり、1日目にこれまでの不登校・ひきこもり支援の考え方とありようを問い直して当事者側から違う考え方あり方を提示し、それを受けて2日目に当事者時代からこんにちまでを生きてきた経験者がその生きた証を示す・・・という構成になっているわけです。

 そのうち、きょうは1日目の詳しい趣旨と内容と担当者をご紹介します。2日目を含めた全体の詳細を知りたい方は、下記宛案内書をご請求ください。

husta@@nifty.com(@をひとつにし、件名を「セミナー案内請求」としてください)

          ●

 不登校支援の歴史は長く、ひきこもりへの支援もこの10年余りの間にずいぶん広がりを見せています。

 標記イベントも、これまでに開催した18回のうち4回目からの10回は「支援団体の合同説明・相談会」や「支援方法の団体による異同」など、毎回支援団体を招いて支援についてあり方を考えたり情報を提供したりするプログラムを柱として開催してきました。

 しかし、そのほとんどを企画してきた当スタジオ代表の丸山は、相談業務や親の会で当事者やその親御さんとおつきあいするなかで、当事者が支援を受けたがらない現状があり、それは本人の心理もさることながら親御さんや支援側の要因からの影響が大きいという印象を持つようになりました。

 たとえば、多くの支援に共通する「雇用されて人並みに稼いで自立する」という“ゴール”に向かって「学校/社会に復帰するために支援を受ける」ことを当事者に求める考え方や「居場所支援」→「学習支援/人間関係訓練」→「学校復帰支援/就労支援」という“階段”を昇らせるというシステムじたいが、当事者を支援から遠ざけている、言い換えれば、当事者の“人生という道”の先に用意されている<支援>が、当事者によっては<障壁(バリア)>になっている、と考えるようになったのです。

 はたして、そのような「ステップアップする道(ルート)」しか用意しないでいいのでしょうか?
 また、支援と関係ない人や場は不要なのでしょうか?

 今回、そういった問題意識にもとづいて開講するのが、次のふたつの講座です。
 ご都合とご関心に合わせて、いずれかまたは両方をお選びください。


講座1)『当事者はなぜ支援を拒むのか~支援思考から生活思考へ~』

 不登校・ひきこもりの当事者のなかには、元気になっても支援を受けられない人が多くいます。当事者のどのような心理と周囲のどのような考え方が影響しているのでしょうか。過去の実体験と相談員としての経験をもとに「心理」「言葉」「支援」の3点のありようを取り上げて検討し、支援を受けやすくなる条件を探ります。

講師:丸山康彦(当スタジオ代表兼相談員)
 高校時代の不登校体験と大学卒業後のひきこもり体験に、相談員としての援助経験を肉づけした“体験的不登校ひきこもり論”にもとづく支援システムを構築。『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』の執筆・配信は11年目に突入。


講座2)『ひきこもり支援への疑問~当事者の「声」を聴く難しさ~』

 「ひきこもっている人は無理解な社会にひきこもらされている」と言うこともできます。そのため「当事者の意思を尊重した支援」が原則とされますが「支援者に都合のよい部分」や「理解されやすい部分だけを語る当事者の発言」を意思とされたら、当事者は理解された実感を得られません。どうすればよいか問題提起して議論します。(聞き手:丸山康彦)

講師:石川良子(社会学者)
 『ひきこもりの<ゴール>-「就労」でもなく「対人関係」でもなく』著者。社会学専攻。日本学術振興会特別研究員。立教・専修両大学ほか非常勤講師。ひきこもりの会の世話人をつとめるなど多くの当事者と交流。この講座では支援に対する考え方を共有している丸山とともに、当事者支援のご都合主義を問い直す!


「第19回青少年支援セミナー」1日目の要項を見る
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