御支援いただいている経産省産学連携人材育成事業の「起業家教育がもたらす変化と革新~ アントレプレナーシップとイノベーションの実現に向けて ~」の風景。
イノベーション政策は世界各国が真剣に取り組んでおり、イノベーションをめぐる議論はまさに百家争鳴。しかし、イノベーションを実行可能な視点からアプローチするのが、起業家という人的資源をいかに開発してゆくのか、という行き方。
イノベーションの評論でもなく、イノベーションの支援でもなく、イノベーションの実行者は起業家に尽きるからだ。ゆえに、イノベーションの実行者である起業家をいかに多数社会のなかに蠢かせ、その成功確率を高めて行くのかは、起業家教育のボリューム(数量)と質が大事になってくる。
何人かの卓越した起業家の話を聞いてナルホド、と思った。
彼らは、
1)いいアイディ、着想を得た。
2)そのアイディアを知識として形式化した。
3)知識を応用して価値を創るための仮説をこしらえた。
4)仮説にしたがって、製品やサービスをつくった。
5)製品やサービスをビジネスモデル化=事業化した。
6)ビジネスモデル=事業をディフューズさせた。
7)ビジネスモデル=事業から利益を創出した。
つまり、サクセスフルな起業家は以下の7つの壁を突破するのである。
========= 発想の壁 =========
1)いいアイディ、着想が生まれない。
========= 知識化の壁 =========
2)そのアイディアを知識として形式化できない。
========= ビジネスプランの壁 =========
3)知識を応用して価値を創るための仮説を作ることができない。
========= ソリューション化の壁 =========
4)仮説にしたがって、製品やサービスをつくれない。
========= 事業化の壁 =========
5)製品やサービスをビジネスモデル化=事業化できない。
========= 普及の壁 =========
6)ビジネスモデル=事業をディフューズさせることができない。
========= 収益化の壁 =========
7)ビジネスモデル=事業から利益をキャプチャーできない。
7つの壁をクリアーしてイノベーションが社会化される。そして当事者としてイノベーションにコミットした起業家は、IPOなりM&Aで晴れてイグジットを迎えることができる。数千万の鮭の卵がサバイブして成魚となるアナロジーがあてはまるほど、7つの壁を突破することは容易ではない。
だから、このルートを走るランナー(起業家)の絶対数を増やし、かつ壁を超える確率を増やすことが大事となる。
まあ、起業家でなくても、壁を突破する地力がある人的資源はサラリーマンとしても大成するだろうし、労働市場のなかでも高い値がつき、じゅうぶんやっていけるだろう。
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起業家は、形式知化されたナレッジを縦横に活用する。マーケティング、ファイナンス、OB、HRM、オペレーション、統計的推量など。これらはビジネススクールのカリキュラムやよく書かれた書物から吸い取ることができる。
これら以外の「志」や「人間力」といった計測が難しいエレメントが、壁の突破には欠かせない。
丹力、
情熱、
自分を知る力、
周りを巻き込む力、
ジジ殺しの力、
引張る力、
引き上げる力、
リセットする力、
境界を溶かす力、
境界を飛び越える力、
異質を統合させる力、
矛盾を止揚する力、
究極のインテリジェンス、
首尾一貫した力、
自己を超越する力、
対象に棲み込む力、
などなど、卓越した起業家の能力・資質を描写するための語彙は尽きないのだが、ここをある程度、明確化して教育ソリューションに落とし込むのが、今後の課題か。
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いずれにせよ、「アントレプレナーシップとイノベーション」を同日に議論するこの集まりは知的刺激に満ちていた。
起業家教育の良質な「場」を、国じゅうに創ってウジャウジャと蠢かせるべきだ。小、中、高、大学学部、大学院、知的クラスター、産学官連携などの場に、これらの仕組みが蠢く図ができあがった日には、日本に新たな発展の契機が訪れるだろう。
スイートスポットは、28歳~38歳くらいの企業での勤務経験(つまり幻滅経験)と問題意識を持つ連中でMBAやMOTの大学院にやってくるような奴らだろう。