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かみつけ岩坊の数寄、隙き、大好き

働き方が変わる、学び方が変わる、暮らしが変わる。
 「Hoshino Parsons Project」のブログ

良い医療と良い経営は両立しないのか?

2010年04月02日 | 気になる本
日本でいちばん大切にしたい会社2
坂本 光司
あさ出版

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社会問題として指摘され続けている救急患者の受け入れ拒否の現実がありますが、
ほとんどの町では、いまだに改善の方向へは向かっていません。

病院側からすれば、現実に対応できる医師がいないのだから責任ある受け入れは不可能ということになるのでしょう。
どこも経営難のなかで、医師を簡単に増やすことはできない。
増やしたくても、なかなか来てくれる医師がいないのも確かに多くの病院の現実です。

そんなことから、まことしやかに「良い医療と良い経営は両立しない」
といったことがしばしば言われることがあるのを耳にします。

こうした話は、良い医療に限ったことでもなく、
長引く不況で市場が縮小し続ける時代に、様々な分野で似たようなことを聞きます。

「それは経営にゆとりがあれば出来るかもしれないが、今の実情で無理だ」
どの経営者から聞く言葉も実情からすれば、ごもっともなことのように聞こえてきます。

財務状況を表す数字をみれば、改善を要求すること自体が無茶な要求であるかのような実態もあります。


ところが、こうした問題のうちにこそ、
そもそも「経営」とは何か、
「良い経営」とはどのようなことなのかを
根本的に問いなおす大事な鍵がひそんでいることを、
わたしは改めて知りました。

これまで何度か紹介させていただいた、坂本光司教授の『日本でいちばん大切にしたい会社 』(あさ出版)は、こうした様々な「出来ない理由」が、経営の本来の姿からいかにかけ離れているかを私たちに教えてくれるものですが、この度の第2弾『日本でいちばん大切にしたい会社2』では、さらにそうした実例を紹介してくれています。


最近、テレビなどでもよく紹介されるようになった千葉の亀田総合病院。
救急医療患者受け入れを絶対に拒否しない病院としてかなり有名になりました。

私はこの病院のことを、もっぱら救急患者の受け入れ体制のことでのみすぐれた病院であるかのように思っていました。

もちろん、そのことだけでも十分すばらしいことなのですが、それにとどまらない医療の在り方そのものを問い直す、しっかりとした病院経営思想のもとにここの医療が成り立っていることを本書で知りました。

具体的なことは、是非、本書を読んでみていただきたいのですが、
なにごとも経営が苦しいから、良いサービスや医療は提供できないのではなく、
良い医療やサービスを提供する考えがあれば、
患者は集まり、すぐれた医者がたくさん集まるようになることで経営が良くなるのだということです。

これは財務諸表を固定的に分析している人には、なかなか理解できないことでです。

いかなる分野の事業でも、衰退していく経営体は、何なにがないから不可能だ、それは出来ない、と言います。
ところが、すぐれた経営を成しているところは、ほとんどが同じ条件のなかで突破口を切り開いているのです。

おそらくどこの病院でもあることですが、
「隣りの人のいびきがうるさくて眠れない」
「軽症なので入院中に酒が飲みたい」
「入院している家族が心配なので泊りたい」
これらの個々の患者や家族の要望に応えられるのか応えられないのか、
それこそが、「経営の核心」部分なのです。

でも、それが出来るところと出来ないところの差はどこに生まれるのでしょうか。
決してマニュアルで解決できる問題ではありません。
「Always say yes」「絶対にNOと言わない」サービスは、どのようにして可能になるのでしょうか。

かつて『真実の瞬間』といった本がありましたが、顧客に接している最先端の従業員にこそ、会社の真の姿はあらわれるといったようなことを書いていた本ですが、それを見事に実現した経営がここにありました。

坂本先生が亀田病院長に、最も重視している仕事、役割はなにかと尋ねると、
「私がいちばん多くの時間を割いている仕事、いちばん大切と思っている仕事は、医師と看護師をはじめとした、病院スタッフの命と生命を守ることです」と迷うことなく答える。

この精神が生みだすシステムこそが、給料だけが高いわけでもなく、働くがいと生きがいを感じて創造的仕事に従事するスタッフの職場環境を育てている。

人に能力の問題を問う前に、
誰もが、人の役に立てること、必要とされること
人の喜んでくれた顔が見れること、人にほめられることを
どれだけ働くことの動機としていることかをもっと多くの人が知るべきです。

そして、この話は次に書く予定の「モチベーション3.0」の話に続きます。

実は、あとがきでふれられた内容についても、ひとこと付言しておきたいことがありますが、
それは別の場にします。

本書で亀田病院の話は8つ取りあげられた企業のなかのひとつにすぎません。
是非、書店店頭で手にとって見てみてください。
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黙ってはいられない!「銀花」の休刊

2010年02月24日 | 気になる本
とっても残念なニュースです。
黙ってはいられないので、お店のブログ「正林堂店長の雑記帖」に書いた内容同文をこちらにも転載します。
「季刊銀花」が2月26日発売の4月号で休刊になります。

最近相次ぐ雑誌の休刊は、時代の流れで、その多くは避けられないものです。
しかし、この「季刊銀花」に限っては、そうした時代だからこそ、ネット情報にはない紙の媒体のすぐれた表現力をもつものとして、大半の情報がネットに移行していくなかで、こうした雑誌だけは生き残る価値があるのだと立証するためにも、是非、存在し続けて欲しかった雑誌です。

そもそも、このような密度の濃い情報を提供してくれる雑誌が今まで生き延びてくれたこと自体が、雑誌出版業界からすると異例のことだったのかもしれません。
それはおそらく、この文化出版局というところが、純粋な出版社というよりは、学校法人文化学園の事業として位置づけられた特殊性によるものだったのでしょう。

ピーク時には9万部を発行していたものが、直近の平均発行部数は2万5000部だったといいます。
同社では、休刊の理由を、「情報ソースの多様化や市場環境の変化により、学校法人として新年度の予算を編成するなかで、2誌(「ハイファッション」と「銀花」)の売上げとコストのバランスを保つことが、将来的に見込めなかったため」と説明していますが、あれだけポリシーあるすぐれた雑誌を刊行し続けてきた組織の言葉とは思えません。

「銀花」は、すぐれた編集者に支えられていたことは間違いないのですが、その刊行を続けてきた文化学園にも、それだけの十分な意義を持った位置づけがされていたからこそ出来たことだと思うのですが、内部の詳しい事情まではわからないので、ただ残念としか言えません。

でも本誌に限っては、多くの読者から「はい、そうですか」とは引き下がれない、なんらかの次の動きが出てくるのではないでしょうか。
青山ブックセンターが、店の経営問題以外の会社事情で危機に瀕したときのように、
多くの熱烈なファンからの声が、これから文化出版局に届くことと思います。

一企業の経営判断として、決して軽いものではありませんが、
この雑誌の存続は、出版業界全体の流れにとっても、
また日本文化をどのように守り育てていくのかといった観点でも、
とても大きな問題だと思います。

ちょいと代々木まで一読者として、また一販売書店の立場として、一言伝えに行ってきましょうか。

確かに今まで通りのやり方で存続することは、難しい時代です。
だからこそ、この雑誌の特徴を活かしながらも、もっと売り方、伝え方を変える努力をしてみてから判断しても良いのではないでしょうか。

これからこのようなケースが続くことも予想されるだけに、
ネットか紙かの選択肢ではなく、
数千から2万人程度の市場規模の顧客で採算ととっていくビジネスモデルというものを真剣に考えていきたいと思うのです。
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『ダム撤去』

2009年09月18日 | 気になる本
(まずは)売れなかった本のはなしです。

2004年に発売された本で
青山己織訳『ダム撤去』 岩波書店 2,800円+税
という本を長い間店においていたのですが、なかなか売れなかったので、
今年8月の棚卸のときに、必要な本でもあったので自分用で買ってしまいました。

民主党への政権交代が実現したことで、にわかに八ツ場ダムの中止論議が活発になってきました。

ある日、役人が突然訪れ、「この村はドボンですな」と告げられてから
すでに半世紀以上にわたって推進、反対の議論がたたかわされてきた問題です。

多くの地元住民は闘い疲れ、なんでもよいから早く平穏な暮らしがしたいと望んでいます。

経済効果、災害予測など、自分に都合の良い資料が飛び交い続けてきたなかで、
今、ようやくその実態があぶり出されようとしているかに見えますが、
マスコミの報道などを見る限り、まだまだ遠い道のりであることが想像されます。

そんな今こそ、この本を店頭においておくべきでした。
まだお取り寄せは可能な商品です。


日本よりもダム先進国であるアメリカは、寿命をむかえたダムや環境への影響があるダムなど
この本が刊行された時点で500を超えるダムが膨大なコストをかけて撤去されています。

それは、ダムが悪であるといった単純な議論から進められていることではありません。

開発にともなう環境への被害だけでなく、撤去にともなう被害も少なくないからです。
さらなるコスト負担も発生します。

大事なのは、ひとつの結論に至るプロセスの問題です。

八ツ場ダムのように突然「ドボンですな」と告げられてから、
成すすべもなく進められていってしまう計画にたいして私たちは、
今回のような政権交代でもおこらない限り、とても太刀打ちのできない現実と長らく思っていました。

もちろん、ダム本体工事の中止が実現したとしても、一度、破壊された住民の生活再建は、
代替地への移転では解決しない難しい問題をたくさん残しています。

これらの問題解決のプロセスのあり方に、このアメリカの『ダム撤去』の論述は大きな示唆を与えてくれているのです。

本書がめざすのは「ダム撤去あるいはダムの存続のいずれかをて提唱しているわけではなく、あくまでも客観的な視点から入手可能な限りの科学的な情報を提供することである。なぜなら、最高の意思決定はまずできる限り知ることから生まれるとの信念に基づいているからである」と序文で述べられています。

正しい論拠、間違いの論拠をそれぞれが出し合う争いではなく、
難しい問題の合意形成をどのようにはかっていくのか
民主主義のレベル、報道のレベル、住民自治のレベルそれぞれで、
これから私たちが身につけていかなければならない大きな課題です。

********************

             ここまでは「正林堂店長の雑記帖」より転載


ひるがえってこの間の政権交代確定以後の八ツ場ダムに関する報道をみると、
情報不足によりものなのか、意図的なものなのかわかりませんが、やたらとマスコミのミスリードと思われる報道が目立ちます。

八ツ場ダム問題に限らず、地元の方への取材や有識者へのインタビューなども含めたマスコミの報道は、かなりの取材時間をかけていながらも、当人の意図とはかけ離れた断片のみが報道されてしまうことが少なくありません。

とくに政権交代という歴史的な舞台の上で語られる八ツ場ダム問題は、政争の具にされ、地元不在の議論に陥っている、といった趣旨がたびたび取りざたされています。

「ダム中止」が地元無視の独断方針であるかのような論調が、各方面から談話としてこのところの紙面をかざっています。


これらをうけて長年八ツ場ダム問題と取り組んできた「八ツ場あしたの会」事務局の渡辺さんは、以下のように語っています。


> 総選挙で八ッ場ダム(に含まれる生活再建事業)が政争の具にされ、
> 地元不在の議論が展開されている、という趣旨がたびたび取り上げられていますが、
> 八ッ場ダム計画の57年の歴史の中で、今まで「地元不在」でなかったことが
> あったでしょうか。
> 地元が反対闘争をしていた1960~70年代もダム計画は進んでいました。
> 地元がダムを受け入れた後、ダムの関連工事は進んでも、
> 生活再建の基盤となるはずの代替地移転は進みませんでした。
>
> 4年前、2005年9月11日に行われた前回総選挙の直前、
> 9月7日に代替地分譲基準の調印式が八ッ場で行われました。
> 代替地の地価があまりに高額なため、何度も住民組織が値下げ交渉を
> しましたが、国のゼロ回答が続いた挙句の、住民と国、県との最後の調印式でした。
> 総選挙の結果、地元が更に犠牲を強いられることは目に見えていましたが、
> 調印式を取り上げたテレビ報道は、何のコメントも流しませんでした。
>
> 当時、代替地への移転は、1期~3期を平成17年から19年までに完了することを
> 明示した文書を国は地元民に配布していました。分譲地価が異常に高額なことに
> 加え、代替地の造成は大幅に遅れました。
> 大規模な工事現場を見て、ここで生活できるのかと不安を覚え、見切りをつけた住民が
>
> この4年の間に大量に流出しました。
>
> ダム計画の長年の経緯から政治不信に陥っている住民の多くが
> 野党がめざす生活再建を信じられないのは当然のことですが、
> 与党=国交省が進めてきたダムによる生活再建が問題なかったとする
> 与党の認識は、あまりに現実と乖離しています。
> 地元では、現状に批判的な声が表に出ることはなかなかありませんので、
> マスコミがとりあげにくいのはわかります。
>
> 4年前の8月16日、川原畑の百八灯の暗闇の中で、地元紙の記者が
> 住民に、「代替地での生活再建の展望について、お話を聞かせてください」
> と話しかけていました。その翌日、地元紙の一面中央に、「民主党のマニフェストに
> 八ッ場ダム中止」のタイトルが載りました。その朝、たまたま会った水没予定地の
> 方々から、「民主党に勝ってもらいたい」と声をかけられ、面食らいました。
> 一度も会ったことのない、地区の役職にない方たちで、私をただの観光客と見て、
> 声をかけられたのです。その中から、この4年の間に、転出された方もいます。
>
> 郵政選挙後のこの四年間も含め、八ッ場で住民不在、人権無視の政策が
> 半世紀以上も続けられてきたことが明るみに出る日が来るのは
> いつのことでしょうか?

注 この文章は8月25日のもののため「与党」は自民党のこと

問題の大きさ、深刻さから考えたならば、これまで半世紀のダム事業で破壊されつくした地元の人々の生活再建は、ダム本体工事の中止が実現しても、工事が続行されることになったとしても、どちらにしても大変な困難をともなうものです。

ただですら日本全国の山村の生活基盤づくりは、どこでも難しい時代なのですから、なおさらです。

先に紹介した本の主旨にもどれば、情報を正しく出しつくしたうえでの議論と、それをわかりやすくまわりに伝える地道なプロセスが、今、なによりも求められています。

そうした活動を長く行ってきた「八ツ場あしたの会」の渡辺さんの言葉は、専門の研究者以上に、わかりやすく事実をわたしたちに伝えてくれます。
それは、じつは「八ツ場あしたの会」のホームページ以上に、わかりやすい言葉で事態の本質を語ってくれているのですが、様々な関係者への配慮などからネット上への公表には制約があります。
 ここでの紹介は、上記の文のみにさせていただきました。

まずは、「あしたの会」のホームページの以下のページを是非、ご参照ください。

八ツ場ダムについて流されている情報の誤りについて

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天皇以上のタブー「藤原氏の正体」

2009年05月06日 | 気になる本

日本に中国に摸した律令制度を取り入れ、国家という形を確立した藤原鎌足と不比等。
それは既存の日本の勢力とドロドロの戦いのうえになりたっています。

藤原氏の正体 (新潮文庫)関 裕二新潮社このアイテムの詳細を見る


古代国家は、仏教を積極的に取り入れることで国づくりを推し進めた。
当然、天皇がその仏教導入の先頭にいたわけで、当時の天皇は神道の保護には積極的ではなかっただけでなく、その古来の神道のしきたりを持っていた物部氏を排斥すらした。

様々な信仰をもった地方豪族たちのゆるやかな連合体であった当時の日本を、仏教の力と律令制度の名の下に、一元化をはかろうとした中心に藤原氏がいました。

出自のよくわからない藤原鎌足が、どうしてこれほどまでに中枢の権力を握ることができたのか、関裕二さんは、鎌足は百済王豊璋であったと推論しています。
そんな馬鹿なと思いつつも、その論拠にはとても説得力があります。

しかし、鎌足、不比等にはじまった藤原氏の支配が、歴史の底流をみるといついかなる時代をみても、どの将軍の時代であっても、いかなる天皇の時代であっても、またいかなる政権の時代であっても、脈々と続いていることがわかります。


藤原氏は不比等の四人の子の末裔がそれぞれ、南家(藤原武智麻呂)、北家(房前)、式家(宇合)、京家(麻呂)にわかれ、互いに牽制し、覇を競いあいました。平安時代は、藤原氏内部の権力闘争から始まったと言っていいであろう。そして北家が勝利を収め、摂関政治がはじまるのである。    (関裕二『藤原氏の正体』280頁)

天皇を操り続け、時の政権をも常に左右する力を持った藤原氏、それは現代につながる、トップに責任と権限を与えない官僚制度そのものであるようにも見えます。

一条、二条家や西園寺家、近衛家などに限らず、地方から自力で這い上がる人びとに常に立ちはだかる勢力として根深く日本社会に存在し続けています。

美智子皇后や雅子さんは、そうした表には見えない勢力との闘いのなかで生きているのではないでしょうか。

と言っても、美智子皇后は、民間とはいえ名門中の名門、正田一族の出。
江戸時代には館林の豪商で、近代に入ってからは日清製粉創業家となった。それだけでなく、正田家は学者一族としても知られています。 そこには雅子さんの立場とは比較にならないほどの開きがあります。

もちろん天皇家の内部は、そういった雑音とは無縁ともいって良いほどしっかりとした矜持があるから国民からの信頼を得ているのですが、その周辺に連なる血縁、血脈のネットワークの力は、私たちの想像を超えたものがあります。
それは時としてオモテの政治経済の現象以上の影響力を持っていたりもするものです。 



日本の歴史を通じてこうした絶大なる支配力を持ち続けている藤原氏が(を?)祀る興福寺、春日大社へよることも、今回の旅の楽しみのひとつです。

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絵解きの魅力と歴史学の進歩

2009年03月30日 | 気になる本
最近、少し遅い昼食をとりながらテレビをみていたら、国宝絵画の値段ランキングが出ていました。

私が上位に予想したのは、尾形光琳や俵屋宗達、長谷川等伯、雪舟などの絵画ですが、これらの有名な絵画はいずれも20億円以上するものではありましたが、ベスト10入りしていたのは、光琳の紅白梅図屏風と雪舟の秋冬山水図のみでした。

これらの絵画以上に高額なものがいったい何なのだろうと思ったら、それは絵巻物のたぐいでした。

信貴山縁起絵巻や鳥獣戯画、あるいは洛中洛外図などは、考えてみると純粋な絵画的価値のみならず、歴史資料としての価値やその情報量においても確かに前にあげた絵画よりも貴重なものであるといえるかもしれません。

とすれば、国宝絵画で最も高価なものは、当然「源氏物語絵巻」に違いないと思ったのですが、なんとそれ以上に値段の高いものがあったのです。

伴大納言絵詞です。

実は最近、こうした絵巻物にとても興味を持っているお客さんがいて、私の家に埋もれた画集などを貸したりしていたのですが、そのお客さんが一遍上人絵巻などともに、伴大納言絵詞をよく話題にしてたのを思い出しました。

早速そのお客さんにこのことを知らせると、どうだとばかりに私の目に狂いはないと鼻高々に喜んでくれました。

で、そこまで絵巻物に興味を持って画集を買い集め丹念に読み解いていたお客さんだったのですが、そうした絵解き研究の第一人者である黒田日出男さんが、群馬県立歴史博物館の館長であることを知らなかったのです。

ここ10年ほどのあいだの歴史研究の進歩には目覚しいものがあり、これまで正史と呼ばれるその時代の支配者の側からみた文献資料ばかりに頼っていた歴史学が、文字にあらわされたもの以外の考古学の成果やこうした絵巻物の絵解きの進歩によって、これまでの常識が次々と書き換えられているのです。

足利尊氏の像といわれていた絵が尊氏ではなかった。

肖像画の名作として知られていた伝源頼朝像などが、なんと足利尊氏から義満へ受け継がれる関係をあらわしたもののひとつであったことなど。

考えてみると最近の歴史学の進歩は、考古学の領域なども含めてみると、現代のIT技術の進歩にも劣らないともいえるほどの目覚しいものがあります。

こうした分野の研究の第一人者が黒田日出男さんなのです。

別なお客さんが、最近、予約の取りにくい黒田さんの講座にやっと参加できた話をしてくれました。お話自体もとても上手なので人気もかなり高いようです。

こうした絵画資料の見直しばかりでなく、史実とは関係ないものとして捉えられがちな神話や説話の世界も、今ようやく真の歴史的資料としての読み解きがはじまりだしています。
たしか、史実とは関係ないとみられがちな『神道集』の再評価も大事であると強調されていたのも黒田さんだった気がします。

ちょうど今月、岩波新書で出ていた洛中洛外図についての黒田さんの本も復刊されました。

こんど、「現代の科学技術の進歩にも負けない日本歴史学の最先端」とでも題したフェアをしてみましょうか。
古代史の関裕二さんと黒田日出男さんあたりを軸にして。



             「正林堂店長の雑記帖」より改題転載
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歌というものが生まれた原点?

2009年02月02日 | 気になる本
辰巳正明『歌垣 ――恋歌の奇祭をたずねて』
新展社新書 定価 本体1,000円+税

 ある常連のお客さんと子持の万葉歌の話をしていたら、そのお客さんがこれは「歌垣」として歌われたものなんだよと話してくれました。
 その歌に関する真偽はともかく、万葉歌の原点が歌垣にあったことは容易に推察されます。

 ところが、この歌垣といものは、具体的資料がほとんどないために学術的研究はほとんどなされないまま今日に至っているようです。

 そんな折ちょうどタイムリーにも本書の発売予告を見ました。当初は昨年12月発売の予予定で、とても楽しみにしていたのですが、遅れて今年1月の発売となりました。

 資料に乏しい歌垣について、本書は中国西南地域の雲南省などに残る歌垣に類似した風習から、沖縄にまで至る東南アジア文化の流れとして考察しており、遠い地の事例ながらもとても説得力のある論証になっています。

 万葉歌の世界には、地方の風俗・習慣も含めて、実におおらかな自然な感情の表現や開放的な性の表現などが特徴として感じられますが、本書を読むと、その開放的な性の表現も、少し違った視点が見えてきます。

 日本で具体的な記述のある筑波山の歌垣などとともに、中国南西部の類似の習慣は、とても大規模に長期にわたって行われるお祭りで、そこでの歌の披露には、技能に長けた専門的な歌人ともいえる者から一般人まで様々な参加者で行われていたようです。

 そこでは歌の交歓を通じて、男女の出会いから婚姻に至るまでのプロセスを、あるいは日常の生活を再現する姿があったようです。
 それが、中国で行われていた風習からすると、田舎特有の儒教的しがらみの強い村落社会のなかでで、あからさまな男女関係の表現をしにくい環境であるからこそ、歌を通じた世界においてのみ、現実にはなかなか行いえない関係を表わしえたという姿がうかがえるのです。

 このことをみると、万葉集の大らかさというものも、必ずしも文字道理に捉えられるものではなく、現実にはその後の日本の普通の村落社会と同じような、周囲の目にさらされた保守的な社会構造が万葉の時代にもあり、そうした社会環境があったからこそ、歌の世界でのみ、現実にはかなわないことを歌いあげていた側面があるのではないかと感じてくるのです。

 万葉の時代を知る手がかりとしてばかりでなく、広く歌というものが発生して芸術表現にまで発展していく原点をうかがい知ることができるようなとても面白い本です。

               
                      お店のブログ「正林堂店長の雑記帖」より転載
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2008年の印象に残った本

2008年12月15日 | 気になる本
1、DVDBOOK魅惑のオペラ 特別版ワーグナー「ニーベルングの指輪」全4巻
   ダニエル・バレンボイム指揮 ハリー・クプファー演出
   バイロイト祝祭劇場 
     小学館
  これを本のランキングに入れてよいものかどうか疑問はあるものの、今年はこの映像との出会い、衝撃はあまりにも大きかった。
  金融危機という社会情勢の変化も、金銭と契約で成り立つ社会の崩壊というこの楽劇のテーマがダブり、第一位にもってくるに値する作品。これをきっかけに他の「指輪」のDVDも観てみたが、演奏・演出ともにこの演奏は突出していた。金額的にも全巻で18,585円という高額のお買いものなので、重みも増す。

2、坂本光司『日本でいちばん大切にしたい会社』
   あさ出版 定価 本体1,400円+税
   この本について、今年はどれだけ多くの人と語りあっただろうか。
   また新しい出会いも生んでくれた本。
   実質、書籍の第1位といって良い本です。

3、柳澤桂子『よく生きる智慧』
   小学館 定価 本体1,600円+税
     こういう深い詩の良い本は、今、最も新鮮な感動につつまれているが、どのように感じたのか、どのように伝えたいのかをうまく整理して書いて、なおかつそれを伝える相手にたくさん出会わないと、時間とともにランクが下がってしまう傾向にある。


4、井上ひさし『ボローニャ紀行』
   文芸春秋 定価 本体1,190円+税
   単なる紀行文のような装丁からは想像つかないほど内容密度の濃い本。地域づくりや大学のあり方、文化のあり方を考えるたくさんのヒントに溢れている。

5、塩見鮮一郎『江戸の頭 車善七』
   河出書房新社 定価 本体720円+税
    かつて三一書房から出ていたこの著者の本は手が出なかったが、本書をきっかけに弾左衛門の世界にものめり込んだ。『弾左衛門とその時代』『弾左衛門の謎』など続けて読んだが皆面白い。お店の出足はいまひとつといった感じだったが、最近になって動き出してきた。

6、池田清彦+養老孟司 『ほんとうの環境問題』
    新潮社 定価 本体1,000円+税
  池田清彦+養老孟司 『正義で地球は救えない』
    新潮社 定価 本体1,000円+税
   私もアル・ゴアの『不都合な真実』にはのせられた方ですが、最近このふたりに代表される論調が急速に増えてきた。環境問題の欺瞞性を暴くということだけでなく、ものの考え方そのもので学ぶところがとても多かった。

7、田中優子『カムイ伝講義』
    小学館 定価 本体1,500円+税
   ブログで紹介したように、カムイ伝の謎解きではなく、歴史のオーソドックスな教科書として最適な本。

8、オペラ名作鑑賞 ヴェルディ「アイーダ」
   ミラノ・スカラ座/オペラ映画
    世界文化社 定価 本体3,600円+税
  今年は、このアイーダの感動に始まって、ワーグナーの指輪に終わる年であったといっても過言ではない。オペラというよりも、総合芸術の魅力をあらためて知ることができた。

9、原丈人『21世紀の国富論』
    平凡社 定価 本体1,400円+税
   本書については、ブログ「未来人とかみつけ岩坊の往復書簡」で、継続して考察していく予定。

10、吉田太郎『世界がキューバの高学力に注目するわけ』
     築地書館 定価 本体2,400円+税
     ほんとうは、『200万都市が有機野菜で自給できるわけ』築地書館と今年出会ったことがきっかけ。フィンランドのモデルばかり注目されているが、お金のかからないシンプルでわかりやすいことではキューバの方が凄い。


他に佐野眞一や日垣隆、勝間和代や斎藤一人などの本も入れたいところですが、インパクトの度合いで考えると、上記の選択で自分なりには納得できる。
    
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9月のちょっと気になるおさえておきたい本

2008年09月15日 | 気になる本
【ちょっと気になるおさえておきたい本】

○ 『柳田国男入門』 鶴見太郎
     角川学芸出版 定価 本体1400円+税
前回紹介した気がしますが、ただの入門書ではないはず。

○ 『沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史』 佐野眞一
     集英社 定価 本体1,900円+税

○ 『仙人の世界 仙人の研究(1)』 
     国書刊行会 定価 本体3,800円+税

○ 『日本の仙人 仙人の研究(2)』 
     国書刊行会 定価 本体3,600円+税

○ 『足利尊氏のすべて』 櫻井 彦編
     新人物往来社 定価 本体3,800円+税

○ 『修験道霊山の歴史と信仰』五来重著作集 6
     法蔵館 定価 本体8500円+税
    *五来氏の著作は欲しいものが多いのに皆値段が高い!

○ 『ソロスの警告』 ジョージ・ソロス
     講談社 定価 本体1,500円+税

○ 『恐慌前夜 アメリカと心中する日本経済』 副島隆彦
     祥伝社 定価 本体1,600円+税
    *今まで危機を煽るだけに見られていた副島先生の言葉が、ようやく現実味を帯びてきました。

○ 『国家の基本』 櫻井よしこ 田久保忠衛
     海竜社 定価 本体1,600円+税

○ 『脳を活かす仕事術』 茂木健一郎
     PHP研究所 定価 本体1,100円+税


○ 『ジミ・ヘンドリックス レジェンド』 
     小学館 定価 本体7,000円+税 
       7,000円も出してくれるジミヘン・ファン、渋川にいるかな?

○ 『運慶にであう』 山本勉 
     小学館 定価 本体2,200円+税

○『白洲次郎と白洲正子 乱世に生きた二人』 
     新潮社 定価 本体3,000円+税



【文庫新刊】

○ 『弾左衛門の謎 歌舞伎・吉原・囲内』塩見鮮一郎
     河出文庫 定価 本体840円+税
   著者の既刊、ずいぶん力を入れておいてるのですが、いまひとつ沖浦和光さんのようにはいかない。

○ 『言葉を育てる 米原万理対談集』 
     ちくま文庫 定価 本体740円+税
    なんか米原さん、亡くなられてからのほうが、刊行ペースが俄然あがったみたい。

○ 『小沢昭一がめぐる寄席の世界』
     ちくま文庫 定価 本体800円+税

○ 『武満 徹 エッセイ選 言葉の海へ』
     ちくま学芸文庫 定価 本体1,500円+税

○ 『時計じかけのオレンジ 完全版』
     ハヤカワepi文庫 定価 本体800円

○ 『戯曲/毛皮のマリー』 寺山修司
     角川文庫 定価 本体600円+税

○ 『あゝ、荒野』 寺山修司
     角川文庫 定価 本体600円+税

○ 『北斗の拳語録』
     PHP研究所 定価 本体648円

○ 『スーパー忍者列伝』
     PHP研究所 定価 本体533円

○ 『上杉三代記』
     PHP研究所 定価 本体800円

○ 『ローマから日本が見える』塩野七生
     集英社文庫 定価 未定


【新書】

○ 『信じない人のための〈法華経〉講座』 中村圭志
     文春新書 定価 本体720円+税

○ 『貧民の帝都』塩見鮮一郎
     文春新書 定価 本体760円+税

○ 『冒険としての社会科学』橋爪大三郎
     洋泉社新書 定価 本体1,700円+税

○ 『新書で入門 宮沢賢治のちから』
     新潮新書 定価 本体680円

○ 『カラー版 四国八十八ヶ所 戦争と命を考える旅』 石川文洋
     岩波新書 定価 本体1,000円+税
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日本でいちばん大切にしたい会社

2008年07月20日 | 気になる本
「日本でいちばん大切にしたい会社」
  坂本光司著 あさ出版  定価 本体1,400円+税

優良企業を取材し取り上げた本は、昔からたくさん出ていますが、本書で紹介する企業は、それらのなかでもちょっと違う。
優れているというだけでなく、著者が文字通り「日本でいつばん大切にしたい会社」という意味でとらえているからです。

なぜこの会社には、4,000人もの学生が入社を希望するのか?
なぜこの会社は、48年間も増収増益を続けられたのか?

冒頭の章で著者は、会社経営とは「五人に対する使命と責任」を果たすための活動であるとして、本書で紹介する5つの会社どれもが、その使命と責任を見事に果たしていることを見せてくれています。
まず、その五人とは、以下の人たちに対する使命と責任のことです。
1、社員とその家族を幸せにすること
2、外注先、下請企業の社員を幸せにすること
3、顧客を幸せにすること
4、地域社会を幸せに、活性化すること
5、これらを達成することで自然に生まれる株主の幸せ

5番目の表現でわかるように、この順番を間違えてはいけない。
まず従業員が幸せになっていることでこそ、良いサービスや品質を実現することができるのです。

そんな経営像の最初に紹介されている日本理化学工業株式会社の事例は強烈です。
従業員約50名のうち、およそ7割が知的障害をもった方々で占められているこの会社は、はじめからこのようなスタイルを考えていたわけではなかった。

昭和34年のある日、ひとりの養護学校の先生がこの会社を訪ねてきた。
難しいことはわかっているが、どうかあなたの会社でうちの子どもを採用してもらえないか、という。
その意義はわかるものの、責任をもてるかどうか自信はもてないので、社長は断ることしかできなかった。それでも、その先生は再三お願いに来る。
三度目の訪問のとき、それでも就職が無理なら、せめてあの子達に働く体験だけでもさせてくれないか、と頼み込んできた。その先生の姿に社長は心を打たれて、「一週間だけ」ということで二人の障害をもつ少女を受け入れることになる。
やがてふたりが勤めはじめると、先生はもとよりお父さん、お母さんが遠くから「倒れていないか」「何か迷惑をかけていないか」遠くから見守る。

そして一週間が過ぎ、就業体験が終わろうとしている前日のこと。
十数人の社員全員が社長を取り囲み、どうかあの子達を採用してあげてください。あの二人の少女をこれっきりにするのではなく、正社員として採用してあげてください。これが私たちみんなの願い、総意だという。
それだけ社員みんなの心を動かすほどその子達は朝から就業時間まで一生懸命働いていた。

なぜこの子達はこれほどまでに一生懸命働くのか、社長は不思議に見えた。
その疑問をある法事の場でお坊さんに尋ねてみた。するとお坊さんは
「そんなこと当たり前でしょう。幸福とは、①人に愛されること、②人にほめられること、③人の役にたつこと、④人に必要とされることです。(このうち②と③と④は)施設では得られないでしょう。この三つの幸福は、働くことによって得られるのです」
といい、それに社長は気づき、人を工程に合わせるのではなく、工程を人に合わせるしくみ作りをし続けて50年以上、そうした従業員を雇い続けることになる。

ある日、トイレで社長はあるベテラン社員の言葉を耳にする。
「社長があんなおかしな人間を入れるもんだから、おれたちまでおかしく見られちゃうよな。あんなことされちゃ、たまったもんじゃないな」
社長は、すぐに社員全員に会社が障害者を採用した理由を話して、別室にそのベテラン社員を呼び「彼の前で謝らないのであれば、あなたには去って欲しい。あなたの言動は会社として、人間として認めることが出来ない」と強く言った。
やがてその社員は結局会社を去っていくが、多くの会社でも、このベテラン社員と同じような気持ちで働いているものは決して少なくないのではないだろうか。

著者がそんな取材をしていると応接室に、おばあさんがコーヒーを運んできてくれて、静かに去る。
すると社長は、
彼女ですよ。
以前お話した最初に雇った女性は、という。

めまぐるしく変化する世の中で、10年はおろか、3年、5年先の事業計画すら成り立ちにくい時代ですが、
どんな変化があっても、こうしたきちんとした価値観で、決して会社側の都合でリストラなどもすることなく地域を長い歴史をもって支えている企業がここにある。

きちんとした価値観を持ちそれを貫くことこそが、長く会社経営を続けることの条件であることが、本書で紹介されている5つの企業の事例でよくわかります。

ほかの人と同じように戦いたくても戦えない、がんばりたくてもがんばれない、そんな方々が真の弱者であって、がんばれるにもかかわらず、がんばらない人、やれるはずの努力をしない人や企業は、偽者の弱者です。そんな人々に手をさしのべる必要はないと、著者は強く訴える。


この日本理化学工業という会社はダストレスチョークという粉の飛ばないチョークの生産で高いシェアを持つ会社なので、地域の学校でもこの会社の製品を使っているところも多いのではないでしょうか。

この本、追加が入荷したら、学校関係者、企業関係者、人が働くということを考える姿勢のあるすべての人たちに紹介したい。

 (以上は、正林堂店長のブログより加筆、転載したものです)
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子どもと一緒に絵本を開く時間

2008年07月02日 | 気になる本
今日、うちのB型のパートさんが前から騒いていた絵本で、いったい何がすごいのかと確認したいと思いながらも売り切れたいた絵本がようやく入荷しました。

「正林堂店長の雑記帖」

便利なデジタル情報がどんどん進化して普及する時代だからこそ、
こうした絵本の価値も一層増してくるものと思う。
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戦争遺跡の発掘 陸軍前橋飛行場

2008年06月28日 | 気になる本
菊池 実 著 『戦争遺跡の発掘 陸軍前橋飛行場』
  新泉社 定価 本体1,500円+税

アジア太平洋戦争の末期、群馬県高崎市の郊外に陸軍の飛行場が急造された。
農地をつぶしての造成と住民・児童の勤労奉仕、
特攻隊の突撃訓練、米軍の空襲など、戦争の実相を考古学的発掘調査と地元資料、
米軍資料などから明らかにし、戦争遺跡発掘の意義を訴える。
                  (以上、表紙の解説文より)

 著者である菊池実氏は、(財)群馬県埋蔵文化財調査事業団主席専門員をされており、『しらべる戦争遺跡の事典(正・続)』柏書房などで中心となって活躍されてる方です。

 最近、これまでの古代の遺跡調査や地理学的研究を中心とした考古学から、歴史考古学ともいわれる、中世、近世、近代、さらに現代まで含めた考古学調査と歴史学との融合が盛んになってきています。
 これまでの文献中心の歴史研究に、こうした考古学的調査が加わると、その実証性が格段に進歩します。
史実のなかには、こうした調査が遅れているばかりに誤った歴史理解に陥ってしまっている例も少なくありません。

 安土城や大阪城の発掘調査をはじめとする城郭、寺院の研究に、こうした戦争遺跡の調査が最近では加わってきました。
「かみつけの国 本のテーマ館」のなかにも
「戦争遺跡と廃墟の美学」というページがあります。
私の場合は、足尾銅山跡をきっかけにのめりこんだのですが、遠い過去の遺物やカケラなどの断片を見てその時代を想像してみることは、とても面白いものです。

ましてやこうした身近な戦争の遺跡ともなると、その姿を通して様々な物語も目に浮かんできます。

群馬県は、遺跡の多さでは全国屈指のものがありますが、そうしたものの多くは、大規模な道路の拡幅工事や巨大ショッピングセンターの造成などによって発見されたものです。
この陸軍前橋飛行場も、こうした大規模な道路工事が計画されてはじめて発見され注目たものです。

このような現場から、当時の新聞や地元の人の聞き取り調査などを経て、広大な土地が接収されていく過程や、その工事に徴用された青年団や児童の勤労奉仕、あるいは朝鮮人労働者などの雇用の実態にまで調査が及んでいく。
残念ながら、朝鮮人労働者の雇用実体の解明までは本書ではできませんでした。

ちょうど今、私は月夜野町から少年飛行兵として戦争に関わった方の体験を冊子にまとめるお手伝いをしているところなので、前橋飛行場から浜松、加古川を経て、九州の特攻前線基地大刀洗などへ向かうルートの図など、とても興味深く見ました。

県内を普段、車で何気なく運転しているその場所が、こうした戦争の歴史の現場であったことを生々しく伝えてくれる本です。


この新泉社の「遺跡を学ぶ」というシリーズは、他にも三ツ寺遺跡や赤城山麓の3万年前のムラ・下触牛伏遺跡などの群馬にかかわる本があります。
是非、店頭で手に取ってみてください。

     お店のブログ「正林堂店長の雑記帖」より転載
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普及しない大事な本

2008年06月22日 | 気になる本
こういう本こそ、発売時にさっとブログに書くべきと思うのですが、
毎度、気づくのが遅いんですよねー。

『現代語訳 吾妻鏡』  全16巻
 五味文彦・本郷和人〔編〕
  吉川弘文館 各巻定価 本体2,200円+税

上州や関東の歴史を調べていると、しばしばこの『吾妻鏡』の引用に出くわすことがあり、
何度となく、原典を読んでみようと思いはするものの、
実際に岩波文庫版などを開いてみると、
あ、これは私には読めない、とあきらめることばかり繰り返していました。

それが、昨年、現代語訳でようやくわかりやすいのもが吉川弘文館から発売されることを知り、
待ってましたとばかりに、高校の先生や図書館などに薦めてはいたのですが、
各巻2,200円ほどの予定で全16巻という量は、なかなか専門家でもない個人でほいと買えるものではない。

ついつい店頭でアピールするようなこともなく、月日が過ぎてしまっていました。

ところが、最近になって、よく古本の取り寄せを依頼してくれるお客さんが、『吾妻鏡』を取り寄せて欲しいと私に言ってきました。
え?『吾妻鏡』?
私は、読もうと思って何度も挫折してるんですよ。
ちょっと高い買い物になるかもしれませんが、最近、現代語訳のいいのが刊行されてますよ。

とそのお客さんに紹介したら、すぐに買ってくれました。

数日すると、そのお客さんがまた来て、
この間の本、すごく良かったわよ。私、ああいうのが欲しかったのよ。
と言ってくれました。

今、古典を学びたいと思っているひとはとても多い。
それが、まだ古事記や万葉集、源氏物語あたりであれば、様々な解説書や現代訳の本が出ている。

ところが、そうした人気の作品から一歩はずれると、一般の人が読みやすいものというのがなかなかない。
それでも「すらすら読める」なんとか、といったたぐいの本は随分刊行されるようになっているが、
地元がらみで多くの人が関心をもつ、この『吾妻鏡』や、
もうひとつ大事な『神道集』などは、残念ながら一般普及向けのものはずっとないままでした。

完全読み下しだけでなく、ある程度は原典の学習がきちんとできるもの、
それでいて解説が学術におちいることなく適切な表現であるもの、
そういったものがなかなかない。
普段は、岩波文庫、角川文庫、講談社学術文庫、それと角川文庫のビギナーズクラシックスシリーズなどがよく売れていますが、そこでも吾妻鏡は刊行されていないか、あっても難しいものでした。

そうした読者の不満にこの吉川弘文館のシリーズは、見事に応えてくれた企画であるといえます。
源氏の関東での活躍の様子などは、まずこの本でおさえておかなければ、他の話しに進まないといってもいいくらい大事な本です。

そのことに、今回のお客さんは気づかせてくれました。
売りたい本、良い本だと思いながらも、店頭から消えたままになってしまっている本はたくさんありますが、このお客さんのおかげで、ちょっとだけ、いい仕事をすることができました。

今度は、平凡社の東洋文庫(現在品切れ)でしか手に入らない『神道集』だ。


             「正林堂店長の雑記帖」より加筆転載
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元気があればなんでも出来る(その1)

2008年05月28日 | 気になる本
元気ですか~?

元気ですかー?
ハハハハ、

元気があれば、なんでもできる。

元気があれば、天気も晴れる。
ハハハハ。

元気があれば結石も消える
ハハハハ。

昨日はすがすがしい快晴だっただけでなく、
一日、元気の出ることがたくさんありすぎたので、
ちょっと今日が怖い。

元気のでること (その1)

iGoogleのガジェット追加やデザイン変更などしていたら、
Googleの便利な機能がいろいろ見えてきてしばらくのめり込んでいた。

そんな作業をしていたら、ブログ紹介からすばらしい本の情報に出会えた。

元気の出ることが押し寄せる一日は、
この本の目次との出会いからはじまった。

おそらく、
ただのベストセラーリストとして見ていたら気付かなかっただろうこの本。
「ラクをしないと成果は出ない」
http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000032075874&Action_id=121&Sza_id=GG




はじめにこの項目を見たときは
ビジネススキルのチェック項目かと思って感心してながめていたのですが、
よくみればこれは本の目次。

ひと項目見るごとに、
そうだ!
ヨシヨシ!
そっか、それで行け!

と頷きながら元気がでる。


はじめに
第1章 基本編
1 ラクをして成果を上げるのが基本中の基本 
2 ゴールを必ずイメージしてから仕事に取りかかる
3 自分にできないことをしている人を、素朴に尊敬する
4 お金で自分の時間は買えない。他人の時間なら買える
5 「ぜひ続編を」に即対応できるよう、素材は使い切らない
6 外部の人に自分の仕事のおもしろさが伝わらなければ、それはつまらない証拠
7 よくわからなかったら現場に行って考える
8 気になったら、まず買う
9 自分に対する相手の優先順位を上げてもらうことが仕事の基本
10 全体像と個別の処方箋を混同しない

第2章 インプット編
11 「つまらない」と思ったら、できるだけ早く撤退する
12 情報収集にのめりこまない。情報とは「出合う」ものだからである
13 立ち読みは書店でなく家の中でする
14 若いうちはテーマなしで一日一冊、四〇代は一日で五冊
15 興味がわいたことは講演やセミナーに出て、全体像と情報源を一気に押さえる
16 書棚一本の本がたまったら、新しい分野を開拓できる
17 ブログを世界中の井戸端会議における、「立ち聞き」として活用する
18 ウソには必ず理由や背景がある。それを探るとインプットが効率的になる
19 発行部数数千部のメルマガや専門誌や白書類にたくさん目を通す
20 図書館に行けば行くほど「無駄遣い」になる

第3章 ネットワーク編
21 いざという集まりには万難を排して参加する
22 アイデアは他人の頭で揉んでもらう
23 メールの未処理は「なし」の状態にして帰宅する
24 会いたい人にはできるだけ向こうから望んで会ってもらうように仕向ける
25 お願いした場合は「いつでも」と言う
26 予測がつかなかったら、親しい友人と賭けをする
27 人から薦められたものは、無理をしてでも即日取り入れる
28 期待値を下げる
29 自分の実力をマッピングしておく。身の丈を知ったうえで見栄を張る
30 先輩の一言アドバイスには、とにかくまず従ってみる

第4章 撃退編
31 締切日に納品しても、返信がないような会社とは仕事をしない
32 依頼には即決で答える
33 愉しめない喧嘩は避ける
34 自爆しない
35 NGな人には説明しない。NGな人とはモメない
36 クレームは、成長に不可欠なもの(一割)と、無駄(九割)に分かれる
37 できるだけ葬式には行かない努力を
38 三日かかることは一日でやる
39 「苦手なこと」は人の手を借りて解決する
40 NG上司に煩わされない

第5章 独立編
41 本当に「良いもの」は自分で売ってみる
42 出された問題はすべてその場で解決の方向と、「いつまでに」を明確にする
43 今の仕事を30年後にもやっているかを自問。もしNOなら続かない
44 自分の仕事が黒字になっていなかったら、絶対に会社を辞めない
45 商売道具への投資はケチらない
46 最初から必ず黒字にする
47 「この社と切れたら自分がアウト」という取引先は作らない
48 「やりたいこと」を周囲に話しておく
49 「好き」を安さの言い訳にしない
50 独自の販売回路をもち、その売り上げは五年で二倍が最低ライン

第6章 継続編
51 好きな仕事を増やすために、好きではない仕事を毎年二割ずつ削除する
52 「なるほど」と思ったことは、二四時間以内に「やる」メドをつける
53 過去を振り返らない
54 「何をしないか」を明確にしてゆく
55 常に確率を意識する
56 一発屋でなく、人気(売り上げ)×継続の面積を広げていく
57 貯金しなくても良いようなキャッシュフローを、常態化する
58 問題を見つけたら、必ず即日解決の糸口を見つけておく
59 継続させる小さな工夫を

第7章 組織編
60 今いるメンバーを前提にする。「上手くいかない」のを彼らのせいにしない
62 会議や集会は、参加者全員が「待ち遠しい」仕掛けをつくる
63 自分の「忘れグセ」を前提に、「忘れても、できる」仕組みをつくる
64 共有する言葉の定義を明確にしないと、誤解が量産される
65 コーチはするものではなく、優秀なコーチに短期間「つく」のが近道
66 どれくらい時間がかかるかは先に訊く。ギャラも先に決めておく
67 インセンティブを高める工夫だけで、成果が上がる場合は予想外に多い
68 毎日仕事が終わったら、机の上と周辺を完全にリセットする
69 「約束の優先順位」を見直すクセをもつ
70 休暇中も仕事をしたほうが、のんびりできる

第8章 時間編
71 会議は一企画につき二度だけで終える
72 決裁は火曜日の午前一〇時半から、と決めておく
73 探し物は一ヵ月で合計一時間以内に
74 人を待たせない。待たされても怒らない
75 「遅刻してしまった!」を先にイメージする
76 よほどゆとりがない限り、正義に多大なエネルギーを注がない
77 レファ本の常備は時間を節約する
78 出欠を迷うイベントには行かない
79 一万円札と名刺は三ヵ所に入れておく
80 もう腕時計をしない

第9章 アウトプット編
81 ノウハウはどんどん公開する
82 「好き」をお金にしてゆく
83 「本格的に勉強したい」分野の仕事を引き受ける
84 アウトプットしないものはインプットしない
85 数値目標とその根拠を明白にもつ
86 同じネタで何度も稼がないように自戒する
87 「新鮮でおもしろいこと」は三〇秒で説明する
88 毎晩アルコールが欠かせない人は伸びない
89 相手を飽きさせず一時間話せたらお金になる
90 「必要でないこと」は極力やらない

第10章 生活技術編
91 死以外の悲劇は、一〇年後に必ず人生の肥やしになる
92 子どもができたら、「仕事で二〇年後にブレイクする」準備を始める
93 昨日と違う今日、今月と違う来月、来年と違う再来年にする
94 加齢とともに遊び時間を増やしてゆく
95 最悪の事態を想定し、その兆候が出たら動く
96 よほど親しい人以外にはプレゼントをしない
97 ドタキャンは月に一度だけ、と決めておく
98 旅行用の持ち物リストをつくっておく
99 子ども部屋より書斎を優先するのが、家族のためになる
100 大切な人は命がけで守る
おわりに


昨日は長野へ行ったので早速、平安堂で現品を見てみた。

うーーーーーむ。
やっぱり、内容が豊富だから
オレはこの目次だけでも十分だ。

自分の店には、まだ入っていない本です。
早速仕入れる。
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