本蔵院 律良日記

熊本県にあるお寺“真言宗 本蔵院 律良のブログ”日々感じるままに活動のご報告や独り言などを書いた日記を公開しています。

さとりの病気

2016-01-18 21:06:12 | 十地経

お経の中にこういう話があります。

 

ある行者が安楽浄土という

ある一つの世界を求めて

修行の旅に出たという。

途中の宿に着いた、

ところがその宿がとても居心地が良く

出発することを忘れてしまった。

 

という喩の話があります。

このことを「懈慢」(けまん)という

言葉で言い表しています。

懈、懈怠(けたい)という「なまけ」です。

慢はおごり高ぶる、

だから、懈慢とはおごりたかぶりなまける

ということです。

もうここまで修行したから、

このくらいでいいだろうと

怠け心が起こってくるのです。

 

宗教心は怠ける

ということはないのですが、

人間の方が怠けるのです。

まあ、これでいいだろう、と

 

十地経という、十地は

六波羅蜜にも関係していて

十地にあわせるように

六波羅蜜を十波羅蜜に展開して、

布施波羅蜜

持戒波羅蜜

忍辱波羅蜜

精進波羅蜜

禅定波羅蜜

智慧波羅蜜

この六波羅蜜で完成している

ようですけど、

さらに、

方便波羅蜜

願波羅蜜

力波羅蜜

智波羅蜜

と十波羅蜜に厳密にくわしく

述べています。

 

六波羅蜜の六番目智慧は

正確には「慧波羅蜜」

十波羅蜜の十番目が智波羅蜜

となります。

 

物語の修行者が一服するところが

六番目の「慧波羅蜜」です。

般若空の智慧も得た、

もうここらでいいだろうと、

腰を落ち着けてしまう。

 

十地経では第七地の難関を

「七地沈空」といっています。

空に沈む、

智慧と言っても

世間の知恵もあれば

出世間の智慧もあります。

世間智が分別智であれば

出世間智は無分別智です。

 

人間あるところまで行くと

もうこれでいいだろうと

休んでしまう。

スランプとかもそうです。

今までバリバリやれたのが

なにかしら力がでなくなる。

物事の道理は分かったのに

力が出ない、

やる気が起こらない、

そのことを十地経では

「七地沈空の難」といっているのでしょう。

 

その難を破っていくのが

十波羅蜜でいえば

七番目の「方便波羅蜜」です。

方便という字も幅広く、

本当は、衆生を導くために

仮に設けた手段、ということ

なんですけど、

そのためには嘘をついてでも

だましだまし導くという

こともあるようですが、

 

方便も智慧で

方便智という言葉で出てきます。

般若波羅蜜で一応完成している

けど、

般若という空に沈んでしまう。

その般若空の智慧を破るのが

方便波羅蜜です。

出世間の智慧を磨いていくのですが

たとえの修行者のように

居心地のいいところに止まってしまう

その修行者を激励して励ます

それが、

方便波羅蜜です。

 

方便智のことを世間智ともいいます。

般若の方は出世間智です。

出世間智の方が勝れているようですけど

これは、「さとりの病」に

かかってしまいます。

面白いことに

「さとりの病」を治すのは

方便智である世間智です。

 

出世間の智慧は完成した

そこからさらに、

その智慧を見直していく

そこに「方便波羅蜜」という

世間の智慧が大事なのです。

 

たんに、十並べただけではなく

実践していくと六波羅蜜では

不十分で、

その智慧を完成させるには

方便・願・力・智

という、後の四つが

実践概念としてはとても重要です。

 

これは頭で考えたものでなく、

波羅蜜ですから実践です。

やってみて、譬えの修行者のように

気持のいい世界に腰を落ち着けて

休んでしまう、

その境地をいかにして脱出するか

その苦労の結果が

方便波羅蜜、という世間智、

今まで下に見ていた分別智

その世間の智慧が

空に沈んだ心を回復してくる。

 

今読んでいる「十地経講義」も

30巻ほどあるのですが

そのすべてを第七地の難

七地沈空のことにそそがれています。

だれでも、

ここで悩むのです。

先に進むのも困難だし

後戻りをするのもできない、

その結果、避けていこうとします。

誰でもそうです。

 

学問や研究や芸術

仏教芸術とかその研究とか

そこに逃げ込んでしまう。

そこから一歩歩み出せと

出世間の智慧だけ求めるのでなく

毎日の世間の智慧に目をむけよ

世間の智慧に照らされて

さらに歩みが出てくる。

 

今読んでいるところ

そういう難関に差し迫った

自分にとってもとても厳しい

講義を書き写しています。

そのせいか、行きつ戻りつ

遅々として進みません。

読んで身に照らせば、

痛いところだらけです。

 

 

 

 

 

 

 

コメント
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