母乳育児と復職について
ひだまりクリニック 助産師 IBCLC 伊藤敦美
4月に復職をされる方も多いと思います。
すでに卒乳を迎え、新たなステップを踏んだ方、
母乳育児をされている方の中には、授乳を続けたい方もいれば、卒乳したいというという方も、
あるいはどうしようかと迷われている方も、いらっしゃると思います。
最適な卒乳の時期は、お母さんの希望や、お子さんの個性、成長や発達を考慮し、その親子にとっての適時を見出していけば良いでしょう。
100組の親子がいれば100通りの物語があり、すべての親子が尊重されるべきだと思います。
私たち助産師も、そのような考えのもと、伴走していきたいと考えています。
=参考になる指針=
●日本の乳幼児の栄養指導指針(厚生労働省「授乳と離乳の支援ガイド 実践の手引き」)
離乳の完了(平均月齢12~18か月)とは、
「大部分の栄養を食事からとれるようになること」で、
「母乳や育児用ミルクを飲んでいないことを意味するものではない」とし、
「子どもには、それぞれ個性があるので、画一的な進め方にならないように留意しなければならない」と記されています。
●WHO(世界保健機構)とユニセフの共同発表(乳幼児の栄養に関する運動戦略 「イノチェンティ宣言」 (2005)
「6か月以降、補完食(※母乳に加えて栄養素を補給する食事)を始めたのちも、2歳かそれ以上まで、母乳育児を続けるように保証すること」としています。
【おっぱいの分泌量を決めるメカニズム】
おっぱいの分泌は、需要と供給で成り立っていて、授乳や搾乳でおっぱいが乳房から出ることによって、次の量が決まっていきます。
授乳や搾乳をせず、おっぱいが乳房に留まると、徐々に分泌を抑える成分が身体の中で作られ、
さらに授乳をしない時間が続くと、72時間以降には、おっぱいを作る細胞がどんどん減り、脂肪組織に変わっていくと言われています。
卒乳は、月齢とともに徐々に授乳回数が減る中で、分泌を枯渇させていく身体の仕組みを利用した、とてもシンプルなもので、
成長に合わせた生活を取り入れることで、お子さんの成長と共に、おっぱいはその役目を終わらせていくのです。
【搾乳という選択肢】
母乳を搾乳して保育園に持参したい方もいらっしゃると思います。
各自治体や保育園などで基準があるので、面接で希望を伝え、1日に必要な搾乳量を相談し、保育園へ持参ください。
搾乳の持ち込み方や保存方法、期間などもご確認ください。
搾乳は電動搾乳機でも手による搾乳でも構いません。
手による搾乳の方法は、以下のリンクからご覧ください。
(参考)http://jalc-net.jp/FAQ/ans11.pdf
(出典:日本ラクテーションコンサルタント協会)
【部分的な卒乳(日中断乳)という選択肢】
保育園にいる間はミルクで、それ以外の時間は授乳を続けるという、ゆるく授乳を続ける選択肢もあります。
保育園に行くと、はじめの頃は体調を崩す機会も増えたり、母子で同じ感染症にかかる場合もありますが、母の体が作った免疫物質は母乳にも含まれ、お子さんにも届きます。
また、母乳は胃で速やかに吸収しやすいため、脱水の予防や補正に効果が期待されます。
保育園に行っても授乳を続けることは、免疫面、栄養や水分の補てん、夜泣きなど、お子さんの気持ちの調整に役に立つかもしれません
実際の方法ですが、慣らし保育が始まってから、分泌のコントロールを行います。
お子さんが保育園にいる間は、お母さんはおっぱいのことを考えずに過ごし、お迎え後、お子さんが欲しがったら与えましょう。
徐々に保育時間が長くなると同時に、乳汁を出さない時間を伸ばして行き、身体に日中は乳汁を作らなくて良いことを覚えさせます。
慣らし保育時間は、徐々に長くなっていきますが、土日や体調不良時のお休みで、
お子さんによっては、「今日は、ママいなくならないよね?」と確認したく、一緒にいる間ずっとおっぱいを吸い付いている子もいます。
自分で気持ちを調整しているので、飲みたいリズムに合わせてあげて構いません。
保育園の生活に慣れてくれば、また、リズムが戻るでしょう。
保育時間が長くなっていくと、おっぱいの張りが強いことがあるかもしれません。
仕事中に気になったり、痛みを伴う場合は、少し楽になるくらいまで搾乳してください。
張りをある程度楽にする目的の搾乳であれば、サイズアウトした紙おむつや母乳パットを使うと、
帰宅後タオルの洗濯の手間が省けて良いかもしれません。
月日とともにお休みを挟んでも、搾乳などせず気にせず仕事に集中できるようになります。
【卒乳という選択肢】
お二人の生活が安定し体調も良いときや、そろそろかな?と思ったら、お子さんと相談し、少しずつ授乳をスキップしていきます。
親子にとって、最小限の授乳回数だと感じたところで、最後の授乳を行い、
そこから飲まないように、日中はしっかり遊ばせ、お子さんがおっぱいを忘れる時間を積極的に作りましょう。
夜間もお子さんが泣くかもしれません。
受け止め、お母さん自身も休めるようお父さんなど、頼れるサポーターがいてくれると良いでしょう。
搾乳の頻度や量は、個別性が大きいので、状況に合わせて延ばしていきましょう。
張りが強く分泌が多い方は、焦らず日数をかけることで徐々に枯渇させることで乳腺炎の予防になります。
どの程度の張りで搾乳するかの目安は、
「おっぱいに触れただけで痛い」「お子さんの求めることに対応するのがつらい」
といった程度までは張らせず搾乳したほうが良いでしょう。
張りがなく、搾乳しても全く、またはほとんど乳汁がでないことが、卒乳が完了です。
お子さんによっては、卒乳中から後も、抱っこを求めたり、よく泣いたり、おっぱいに触れる子がいます、
受け入れて折り合いがつけられるようサポートしてあげてください。
(月齢や食事の進み具合によっては、ミルクが必要な場合もあります。)
【補足1:乳腺炎の予防や対応】
多い授乳回数のまま断乳することは、必要性がない限り、お子さんの混乱が大きく、
お母さんも張りが強く苦痛や乳腺炎のリスクが高いのでお勧めしません。
乳腺炎は、高熱や全身のダルさ、乳房の赤身や痛みなどの症状が出ます。
しかし風邪と同様、必ずしも受診や抗生剤の投与が必要となるわけではありません。
ゆっくり休みつつ、冷やしたり温めたりと、気持ちの良いほうを試し、
効果的に乳汁を外に出す(授乳を再開したり、搾乳する)ことで、症状が軽快すれば、ご自身で解決できているでしょう。
解熱鎮痛剤を内服しながら対応すると、授乳や搾乳で乳汁を出す効果もより高まるといわれています。
迷うとき、つらいときは、遠慮なく助産師にご相談ください。
(参考)http://www.midwife.or.jp/midwife/mastitis-flow.html
出典:日本助産師会
【補足2:授乳を続ける場合のお母さんの食事】
お母さんの食事によっておっぱいの質は大きく変わりません。基本的にバランスよく食べていれば、お肉やケーキなどの甘いものを食べても構いません。コーヒーなども全くダメということではありません。
栄養価の少ない食事を続けることでお母さんの体調が崩れやすかったりするのでおいしいものを気持ちよく食べてください。
また、お母さんの体調不良時、服薬も多くの薬は、影響なく飲めます。
(参考)妊娠と薬、授乳と薬 http://shiroujournal.jugem.jp/?eid=168
【補足3:離乳食の進みとの兼ね合い】
生後6か月以降は、母乳やミルクから取れる栄養に上限があるため、離乳食を開始し、様々な食材を試していくことを推奨しています。
(参考)赤ちゃんの「鉄欠乏性貧血」と母乳 http://shiroujournal.jugem.jp/?eid=174
一方で、食事が思うように進まず、授乳回数が減らないお子さんも少なくなく、心配されることもあるでしょう。
食の進みは、個人差が大きく、成長発達は多様性に富んでいます。
我が子の個性や育ちを、焦らずドシっと構えながらも、
どこか食べるために工夫する余地はあるか?と、色々と試しながら、信頼できる専門職と共に成長を見守っていただけたらと思います。
【さいごに…】
4月を目前に、子育てと仕事の両立がうまくいくか、不安や心配があるかと思います。
お互いのリズムがつくまでは、大変だなと感じることもあるでしょう。
お子さんの応援もしつつ、ご自身のことも良くやっているとほめてあげてください。
いずれ離れている間もお互いの時間を楽しめるようになるでしょう。
卒乳について迷ったら、やめる判断を先延ばしにするという選択肢もあります。
やめようと決めて、道半ばで再開に至った場合も、失敗したとは考えずないで。
「いずれ機が熟す、まだ今は早かったのだ!」という考え方で大丈夫です。
自分たちにとって良いと思った時期に卒業を迎えてください。
お母さんのどんな決断も応援しますし、迷った時は、伴走します。
気軽に助産師に声をかけてください。