前回の記事は、私は本当に思い切って書きました。
えいっと勇気を持って「投稿」をクリックしました。
・・・やったことに疑問を持っている人を傷つけるのではないか、子どもに不要な手術をしたと後悔させるのではないか・・・
その思いがあったから、今まで書けないでいたことなのです。
もちろん、目前で診る縁のあった方には、舌小帯のことを聞かれたら、
その人の表情を見て、どんなことを言うか考えながらいうこともできますから、
言えることを傷つけないように言っています。
また、やってよかったという人にも稀ですがいます。
そういう場合は、「自分の選んだ方法で納得できる結果が出てよかったね」と言っています。
「それは間違っている」などとはいいません。
(ただ、やってホッとした効果があるかもとは思いますし、「信じる者は救われる」効果を感じます。)
でも、ブログの記事は違う。
傷つけたこともわからないし、どのようにもフォローのしようもない。
未然に防ぎたいという気持ちで書いたけど、すでにしてしまった人を傷つけるかも・・・
でも、防ぎたい。
伝えなきゃいけない。
このことを知ってもらって、きちんと納得できていないでするのはとても危険な手術だと伝えなければと思いました。
(命の危険ではなくて、納得できなかったときの精神的なダメージという意味での危険です)
ツイッターでは、多くの方がおかしなことだという反応をしてくださいましたし、反響の大きさが問題の根深さを示しています。
そして、切除した人、それに満足している人も、後悔している人も反応はほとんどありませんでした。
複雑な気持ちで、でも口をつぐんでいる人は、反応がなくても多いだろうと思います。
そんな中、ブログのコメントで「やりました」と書いてくださった方がいました。
ゆうままさんです。
少ない言葉の中に、いろいろな思いがあるのだろうと思います。
「二年前、息子が一歳の時にやりました。十万以上払いました。
気になっていた症状は一向に改善せず、一体なんだったんだろうと思っています。
とにかく痛そうで可哀相でした。
しなくて良いものだったとすると、とても胸がいたみます。」
とのことでした。
保健センターでの健診で出会った、混乱して泣いていたお母さんと私の中で重なりました。
追いつめられて切除してしまって、辛い思いを抱えているお母さんへ・・・
苦しまないでほしくて、返事を書きました。
前回の記事を読んで苦しくなったお母さんに読んでもらえたらな・・・と願っています。
ゆうままさま、(そして、切除してしまったことを苦しく思っているお母さんへ)
辛い経験をおもいだすことで、また辛い思いをされているかもしれないですね。
それなのに、お話しを教えてくださってありがとうございました。
しないで済む手術だったと知ることはとても切なくて辛いことだと思います。
今日も、ひだまりクラスで(私がクリニックでしている母親学級です)お話ししてたんですが、
後になって思うとあれは失敗だったなぁということを、だれだってしてます。
後悔のない母親なんていないのではないでしょうか?
もちろん、一人の未熟な母親だった私も同じでした。
小児科医なんて誰にも知られたくない、そう思って子育てしていました。
思い出すと辛くなり泣くことをよくしていました。
特に、二人目の出産で幸せなお産を経験した直後、一人目の出産子育てを思い出しては泣いたものです。
小児科医だから子育ては楽にできるなんてとんでもないことで、
私の場合は、逆に辛かったです。
医学と育児は全く違います。
多くの専門家といわれる人が「私はママとしては赤ちゃんなのよ~」と思ってます。
周りから「専門家でいいわね~子育て上手でしょうね。」と言われてプレッシャーだという共通の悩みを多くの人が持っているのですよね。
(小児科医だけでなく、看護師さんとか助産師さんとか、保育士さんとか学校や幼稚園の先生とか・・・)
どんな専門家であっても、新米のママからですから。
私も、失敗談だけで子育て相談できるくらいいろいろな後悔があります。
私の失敗で安心できるならいくらでもしてあげるっていつも思っています。
失敗はつきものですけど、でも、自信を持って言えることが一つあります。
その未熟で無知な母ながら、そのときそのときのベストで一生懸命やってたことだけはまちがいないと。
だから、しかたなかったな・・・ごめんね、って子どもには思ってます。
自分を責める気持ちは持たないようにしてます。
(それは時に難しいことではありますが)
子どものことを一生懸命考えて、その時よいと思ったことをしただけなんですから。
ひどいのは、そういうお母さんの一生懸命なわらにもすがるような気持ちを利用するようなやり方をする人たちなんですから。
お母さんを支えるということは、お母さんの不安を取り除くのが一番大事なのに・・・
お母さんが望む子育てをするために、自分のできることをする、お母さんの苦しさをとるためのことをする、そういうことだと思います。
理想と現実はちがってくることが多いし、子育てもそう。
その中で、自分の納得できる選択をするしかなくて、
その自分なりの選択をするために、お手伝いするのが支援者の仕事だと思います。
お手伝いの中には、正しい科学的な医療知識を伝えることが入ります。
こうしなければと脅すことは絶対あってはならないことです。
今やらないと後で大事になる、思春期に大きな隔たりが生じる、
そんな先のことなど、どうして、舌小帯を切って全面的に解決できるというのでしょうか。
今の、悩みが舌小帯のせいだと、その悩みに苦しむお母さんを不安に陥れることのどこが母親を支援していることになるのでしょうか。
・おっぱいが飲めない、せっかく出ているおっぱいを飲みとれないので乳腺炎になる
・肌が白い、口の周りが青白い。
・よく泣く、あまり寝ない、鳴き声が甲高い。
・身体が固い、股関節が固い、むきぐせがある。
・湿疹、アトピー性皮膚炎
・髪の毛がたっている
・手足が冷たい
・活気がない、目がうつろ・・・などなど
そして、これらの育児の悩みが解決できるといいます。
そうやって、体力的にも限界でフラフラになって子育てして、
冷静な判断ができない状態の、不安でつぶれそうな気持ちでいる母親を脅すなんて、こんなひどいことはないです。
支援とは逆のことをしています。
さらに、小児科医には相談に行ってはダメという人までいます。
(小児科医は、この処置、まちがいなく止めますからね)
普通の歯科・耳鼻科も、乳児期早期にはこの処置をしません。
少なくとも早くやったほうがいい、とはいわないでしょう。
だから、日本に数カ所しかないクリニックを紹介しています。
切除する耳鼻科医は入室した赤ちゃんを見るだけで(診る前に)これはひどい状態だったねとよく言っています。
ネットで捜すといろんな手術体験記に、一目見るなり「これは重傷」と言われたとあります。
が、一目で子どもを見抜くなんて小児科医には思いもよらないことだと思います。
いろんな状態があるのがあたりまえで、泣いているときも笑っているときも眠いときもあるのに・・・
大人のように、取り繕うということは絶対しない時期ですから。
いつでも、どこでも寝てしまう、ぐずることもあるのですから。
診察室だとお利口にする赤ちゃんなんていませんから。
そんな特殊な人に出会ってしまって、悩んでしまい、でも、「子どものために決断しないと」と言われ・・・
冷静になれないときに、母乳マッサージで助けてもらってありがたいと思っている専門家からたたみかけられ、
言われるまま手術してしまったお母さんを誰が非難できるでしょうか?
非難されるべきは支援とは程遠いことをしている助産師と、
エビデンスのない手術をしている耳鼻科医ではないですか。
(ことさらエビデンスエビデンスと言い立てるというのは、私は好きではないのですけれど、
あまりにもひどい勧め方なので、こう書いています。
本当に正しい処置だというなら、学会できちんとデータを出して、多くの人に証明して
納得してもらうべきです。
これは、新しい認められていない治療をする人が、自説の正しさを主張するには必須の事だと思います。
これは、いろんな民間療法に言えること。
癌の治療、アトピー性皮膚炎などなど、困っている人の弱っている心を利用しているひどいものが多くあります。
どれもが、学会での発表やデータを出しているわけではないのです。
単純な症例報告をいくら報告しても、納得されるわけではありません。
一生懸命な、子どものためなら何でもする気持ちでいる自分が
そのとき選んだことを後悔したり、思い出して後ろ向きになったりするのは、やめましょうね。
お子さんは元気にそだってくれているのでしょう?それが答えなんですから。
私の辛い経験だった息子も(もう21歳)神経質で、夜泣きがひどくて、食べなくて、小さくて、私から離れなかった赤ちゃん。
本当にそのたびに辛かったものですが、優しいお兄ちゃんに育ってくれてます。
それだけで充分だと思っています。
もちろん、小学校中学校高校と・・・いろんなこともありましたけどね。
理想通りには子育ては行かないけど、その時々、親は良かれと思うことをやっていくしかないのですよね。
まだまだ、元気に楽しくやっていかないとね。親が楽しそうに暮らしてると、この世は生きる価値があると思うものだと思います。
余計な心配なことを書き散らしたかもしれませんが・・・
保健センターで泣かれたお母さんに話しかけるつもりで書いてしまいました。
失礼しました。
子育てはまだまだ続きますよね。
終わったことは否定しないで受け入れて(一生懸命子育てした自分を褒めてあげてください)
いつも新しい気持ちでやっていけばいいのだと思います。
苦しい経験が自分を育てているのだから。
問題を突き付けてくれる子どもが自分を育ててくれているのだから。
だから、過去のことをくよくよ考えないで、これからを見ていきましょう。
苦しんだからこそわかったことを大事にしたらいいと思います。
苦しんだからこそ成長した自分っているのではないかなと思いますよ。
そういう自分を愛おしんで、自分を活かしてあげることを考えてみたらいいのではないでしょうか。