中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

過労社会 つぶされる若者たち

2013年06月28日 | 情報
過労社会 つぶされる若者たち(13.6.3-5東京新聞)

長時間労働や職場での理不尽な処遇などによって、若者が体を壊したり、自ら死を選ぶニュースが報じられています。過労社会の実態は?

過労社会<上>労組も守ってくれない 過重な残業「見ないふり」
2013年6月3日 朝刊
「すかいらーくの組合はもう労働組合として機能していない。
会社のご用聞きだ」外食大手「すかいらーく」の店長だった中島富雄さん=当時(48)=は二〇〇四年八月に過労死する直前、
妻の晴香さん(57)に、こう漏らした。
かつて労組幹部だった中島さんはサービス残業の改善を訴えたが、古巣の労組は冷たかった。失望し、外部の個人加盟ユニオンに相談。
倒れたのは訴訟準備の最中だった。晴香さんは夫の遺志を継ぎ、ユニオンの支援を受けながら、会社に職場の改善を約束させた。
中島さんの労災が労働基準監督署に認められた二カ月後の〇五年五月に発行された業界専門誌に晴香さんは目を疑った。
すかいらーく労組の委員長がインタビューに答えていた。「店長は忙しさも半端ではありません。
しかし、本当にできる店長は、その中でも休みが取れるのです」
夫の過労死が自己責任だと言いたいのか。晴香さんは〇七年七月、「過重労働に見て見ぬふりをしてきた」として、
労組にも過労死の責任があったことを認めるよう求め、武蔵野簡易裁判所に調停を申し立てた。
労働基準法は一日の労働時間を八時間などと定める。
ただ三六条は残業時間の上限について、労使間で協定(三六協定)を結んで労基署に届け出れば、残業させられるとしている。
すかいらーく労組は晴香さんの訴えを否定し、協定書の開示さえ拒もうとした。協議は決裂し、調停は成立しなかった。
すかいらーく労組の山崎大輔事務局長は取材に「過重労働防止にはきちんと取り組んでいる」と反論する。
当時のすかいらーく社長は初代労組委員長。歴代委員長も後に会社幹部になった。晴香さんは憤る。
「経営者の方しか向いていない労組なんて要らない」
厚生労働省は通達でおおむね月八十時間を超える残業を過労死との因果関係が強い「過労死ライン」とし
、長時間労働の抑制を指導している。しかし、大手百社に対する昨年七月の本紙調査では、七割の企業が八十時間以上の残業を容認。
三六協定は労使合意が前提で、労組側は過重な残業を拒否できる建前だが、実際は防波堤の役割を果たしていない。

労組の総本山の「日本労働組合総連合会(連合)」。
新谷信幸総合局長は「健全な労使関係がある企業は、三六協定の上限は高く設定していても、それとは別に規定を設け、
長時間労働にならないようにしている」と説明。その上で、「そもそも八十時間を超える協定を、
なぜ労基署は受理するのか」と批判の矛先を行政に向ける。
サービス残業や不当解雇など個別の労働紛争で、一一年度に全国の労働局に寄せられた相談は過去最多の二十五万件。
一方、労組の組織率は20%を切っている。
労使協調路線が趨勢(すうせい)となり、ストライキなどが減った上、労働者が抱える個々の問題に労組は関与せず、
労組に加入する意義が薄れているとの指摘もある。
独立行政法人「労働政策研究・研修機構」(東京)の〇七年の調査では、
労組に期待しないと回答した労働者は47・5%。理由のトップは「会社と同じ対応しかできない」(36・8%)で、
「(労組に相談すると)会社から不利益を受ける恐れがある」(20・1%)との回答もあった。
労組問題に詳しい甲南大学の熊沢誠名誉教授は「一人のために労働者が連帯すれば職場は変わる。
働き過ぎやメンタルなど個人の受難に寄り添うことが、労組の復権につながる」と訴える。

安倍政権の「成長戦略」が月内にも取りまとめられる。
「世界で一番企業が活動しやすい国」を目指し、労働分野の規制緩和も視野に入れる。
労働環境が急速に悪化する中、規制緩和で、働く人の健康や命を守るセーフティーネットは機能するのか。働く現場に迫る。 

<労働組合> 憲法は、労働者が団結し、会社と団体交渉したり、行動(争議)したりする権利を保障している。
国内では企業ごとに組織する企業別労働組合が主流。昨年6月末で、組合員約989万人のうち企業別組合の所属は約829万人。
全労働者に占める組合員の割合は1949年の55.8%をピークに年々低下し、
昨年は過去最低の17.9%。個別労働紛争の増加などで、近年は個人でも加入できる労働組合「ユニオン」が増えている。

過労社会<中>名ばかり管理職今も 拡大解釈サービス残業助長
十三カ月で休みは三日。残業代はなし。2013年6月4日 朝刊

茨城県笠間市の和菓子メーカー萩原製菓の男性社員=当時(30)=は二〇一一年八月、帰宅後に倒れ、心室細動で亡くなった。
死亡直前の残業は月百時間を超え、昨年三月に労災が認められた。会社は、残業に必要な労使協定を結んでいなかった。
会社は「労働基準法の労働時間規制の適用を除外される管理監督者だった」と水戸労働基準監督署に強弁した。
 労基署によると、男性は肩書こそ製造本部長だったが、仕事は出荷管理で、自ら菓子店に卸すこともあった。
労基署は権限も裁量もない「名ばかり管理職」だったとして、昨年十月、労基法違反の疑いで、会長と社長を書類送検した。
 名ばかり管理職は〇八年一月、東京地裁が日本マクドナルドの店長を「管理監督者に当たらない」と認めた判決で世間の注目を集めた。
残業代を削るために、実態が伴わなくとも「管理職」の肩書を与える-。
判決から五年余がたつ今も、個人加盟の労働組合「東京管理職ユニオン」には名ばかり管理職への相談が後を絶たない。
中ノ郷信用組合(東京都墨田区)の元社員小池正明さん(60)も、相談者の一人だ。
管理監督者をめぐって会社と争った小池さん。「かつては自分も仕事人間。
会社のため長時間労働は当たり前と思っていた」と語る=東京都渋谷区で
得意先の中小零細企業を大手銀行に奪われ、信組も融資が伸び悩む。
組織のスリム化で課が統合、小池さんは七年前、経理課長から部下のいない平社員に降格された。
だが、給与ランクは七等級のまま。七等級以上は一律に管理監督者とされ、役職手当の代わりに残業代は出ない。
決算前の残業は月百時間を超えたが、小池さんに残業代は出なかった。
小池さんの役職手当は最低の月二万五千円、〇八年度の年収は約六百八十万円。
残業代が出る一ランク下の社員十八人のうち十一人が小池さんの年収を上回り、最大で約百万円の開きがあった。
信組は、マクドナルド判決後も労働条件を改めなかった。
小池さんは一一年五月、未払い残業代の支払いを求めて東京地裁に提訴。
昨年七月、信組が二百九十五万円を支払うことで和解が成立した。信組は本紙の取材に「給与待遇を見直したい」と答えた。
小池さんは「収益確保のために制度を悪用して人件費を削る。従業員の弱みにつけ込む会社は結果的に駄目になる」と憤る。
昨年、上場企業二百二十四社に行った民間調査では、51・0%の企業が課長代理クラスに残業代を支払っていなかった。
厳格に審査されれば、課長代理は名ばかり管理職の可能性が高い。
神戸大法学部の大内伸哉教授は「国の管理監督者の要件があいまいで、法の趣旨に反した拡大解釈を生み、
違法行為を助長している」と指摘。残業時間の上限を定める三六協定のように、
事業所ごとに労使間で具体的に管理監督者の適用範囲を決め、労基署に届け出る制度を提案する。

名ばかり管理職の問題を放置したまま、安倍政権は、労働時間規制のもう一つの例外ルールである「裁量労働制」の適用拡大ももくろむ。
就業時間など働き方を労働者に任せる代わりに、一定時間働いたとみなして残業代を支給しない。
東京管理職ユニオンの鈴木剛書記長は「経営者に都合のいい制度にしようとしている。
さらに長時間労働をまん延させかねない」と規制緩和に待ったをかける。

 <管理監督者> 労働基準法の労働時間(1日8時間、1週間40時間)規制の適用から除外され、残業代の支払いが免除される。
厚生労働省は通達で「経営者と一体的な立場にあり、人事や労働条件の決定権限が与えられている」「出退勤が自由」
「一般の従業員より賃金が高い」といった要件を提示。
未払い残業代請求をめぐり管理監督者に当たるかどうかが争われた裁判では、管理職であっても管理監督者とは認めず、
経営側に厳しい判断が相次いでいる。

過労社会<下>希望押しつけ無責任 若者に身を守る知識を
NPO法人「あったかサポート」が2011年5月、
京都府立鳥羽高校の定時制で行った労働法教育の出前授業=京都市南区で(同法人提供)。2013年6月5日 朝刊

「職場で理不尽な待遇を受けても、仕方ないとあきらめてしまう。かつての自分もそうだった」
ウェブデザイナーの山口猛さん(32)=仮名=は振り返る。
東京都港区のIT企業で働いていた三年前、サービス残業を強いられた揚げ句、リーマン・ショックのあおりを受けて解雇された。
残業代が出なくても当たり前だと思っていた。これが会社なんだと。
同僚は月の労働時間が四百時間に及び、うつになった。泣き寝入りしなかったのは、後から転職してきた上司の存在があった。
上司はかつて個人加盟ユニオンで働いていたこともあり、労働知識が豊富だった。
「これは違法だ。出退勤の記録を残しておけば残業代は取り返せる」。
上司のアドバイスに、在職中からタイムカードをコピーしたり、勤務時間をメモしたりして証拠を集めた。
雇用契約の書類は捨てずに残しておいた。解雇後、上司の紹介でユニオンに駆け込み、未払いの残業代を取り戻した。
山口さんは「労働の知識やトラブルの対処法を知っておくことの大切さを身をもって感じた」と話す。
 しかし、学校や職場で労働者の権利や制度を学ぶ機会は極めて少ない。
文部科学省が提唱するのは「働くことはこんなに素晴らしい」といった働く意欲を育むことに主眼を置いたキャリア教育だ。
学生のインターンシップ(就業体験)は盛んだが、
そこで、入社後に実際直面する可能性のあるトラブルへの対処法を学ぶことはほとんどない。

最近では無知につけこみ、過酷な働かせ方で若者を使い捨てにする「ブラック企業」の存在が問題視されている。
働くルールや権利を知らないまま、社会に放り出される若者はブラック企業の前に、あまりに無防備だ。

厚生労働省の調査によると、二〇〇九年三月の大卒者で入社後三年以内に仕事を辞めた人は28・8%に上る。
 国は昨年、若者の雇用環境を改善しようと「若者雇用戦略」をまとめた。
ここでも議論の中心は、キャリア教育の充実や学生の大手企業志向と求人のミスマッチ解消ばかり。
根底にある過重労働やサービス残業など、働く現場の問題にまで踏み込むことはなかった。
 昨年五月、若者雇用戦略の最後の作業部会の席上、メンバーの上西充子・法政大学キャリアデザイン学部教授は、
事務局が用意した原案に異を唱えた。「厳しい環境はしょうがないという前提で、
骨太の若者を育てるという雇用戦略がまとめられるのは、非常に大きな問題を感じる」
上西教授は「労働法教育の普及に程遠い現状の中で、
ブラック企業に入るのは自己責任であるかのように若者を追い込むのは酷だ」と訴える。
社会保険労務士らでつくるNPO法人「あったかサポート」(京都)は、〇六年から大学や高校で労働法教育の出前授業を行っている。
労働条件を知るための求人票の見方など実践的な労働知識を教えるほか、困ったときの対処法や相談窓口を紹介している。
あったかサポートの笹尾達朗常務理事は、偏ったキャリア教育に疑問を投げかける。
「これだけ若者の雇用が悪化しているのに、希望や夢だけ教えるのは無責任。
学校教育の中で、身を守るすべや働くリスクまで教えるべきだ」
<キャリア教育> 勤労観を身に付けるとともに、主体的に進路を選択する能力や態度を育てるための教育。
1999年の中央教育審議会の答申で初めて登場した。
若者のフリーターやニートの増加などから、学校での教育の必要性が叫ばれるようになった。
代表的な取り組みは中高での職業体験や、大学でのインターンシップ。2011年度からは大学設置基準で、
キャリア教育へ取り組むことが義務化された。


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