熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ケネス・ロゴフ:ドル高騰はむち打ちで終わるのか?

2022年09月05日 | 政治・経済・社会
   ハーバードのKENNETH ROGOFF教授が、プロジェクト・シンジケートに、Will the Dollar’s Surge End in Whiplash?を投稿した。
   最近のドル高に関する論考である。

   1980 年代半ばと 2000 年代初頭に、米ドルの価値が大幅に上昇したが、最終的に急激な下落で終った。今回のドル高も収まるのであろうか。しかし、確実に言える唯一のことは、2014年に始まった主要通貨の為替レートが異常に静止して安定していた期間が、今や過去のものになったということである。と言う。
   この夏、米ドルは急騰し、日本円とユーロは対ドルで 20 年間で最低水準まで下落した。長い間 1 ドル以上の価値があったユーロは、現在、ほぼ等価で推移している。米国とその貿易相手国のインフレを調整すると、インフレ率はすでに高く、米国が過去 40 年間で最高の年間インフレ率を記録し、世界的な金融危機以来最悪の貿易収支を記録しているにもかかわらず、起こっている。何が起こっているのか、そしてドルは暴落するのであろうか?と問題提起する。

   為替レートを説明することは勿論、予測することも非常に難しいのだが、4 つの主要な要因が世界の主要通貨の動きに影響を与えている。
   第1に、最も重要なことは、FRB が利上げを開始したことである。また、米国経済が真の景気後退にはほど遠いように見えるため、政策をさらに引き締める余地がまだ残っている。
   第2には、地政学のドル高の要因である。ウクライナでの戦争は、米国よりもはるかに差し迫ったリスクをヨーロッパにもたらし、台湾に対する中国の不吉な武力攻撃は、大きなリスクで、ヨーロッパと日本の両国は防衛能力を大幅に再構築する必要があり、それに伴って長期的な軍事費が増加する。
   第3は、中国で進行中の景気減速があり、アメリカよりもはるかにヨーロッパと日本に影響を与えている。 COVIDゼロのロックダウン、過剰建設の遺産、テクノロジーセクターの取り締まり、経済力の過度の集中化など、中国の減速成長の根本原因など、中国経済の足を引っ張っていて、急回復は望めない。
   第4は、エネルギー価格が依然として非常に高いため、米国がエネルギーを自給自足している一方で、ヨーロッパと日本が巨大な輸​​入国であるという事実もドル高要因となる。

   現在のドル高は、世界経済に深刻な影響を及ぼしている。世界貿易の大部分、おそらく半分はドル建てであり、多くの国では、それは輸入と輸出の両方であり、ドルの上昇は世界の多くの国で輸入を削減する原因となり、世界貿易に深刻なマイナス影響を与える。
   外国人投資家から借り入れを行う国の民間企業や銀行は、ほとんどドル建てでしか借りることができないため、ドルの高騰リスクは、新興市場国や発展途上国に特に残酷な影響を与える。また、米国の金利が上昇すると、弱い借り手の多くの新興国の中央銀行が積極的に金利を引き上げて自国通貨への下落圧力を食い止めて、幅広いドル指数はさらに上昇する。しかし、こうした引き締めはもちろん、国内経済に重くのしかかる。
   FRBが積極的な引き締め政策を押し進めてゆけば、特にコモディティ価格が同時に下落し、米国とヨーロッパが景気後退に陥いり、中国経済の減速が加われば、更に悪化する。
   短期的には、米国の貿易はほぼ完全にドル建てなので、ドル高は貿易相手国ほどアメリカに影響を与えないが、生産コストが相対的に高くなるため、持続的なドル高は国内に長期的な影響を与える。 2019年から悪化している、外国人観光客にもダメッジとなる。

   さて、他の主要通貨に対する最近のドルの上昇は、逆転する可能性があるのか?
   確かに、1980 年代半ばと2000 年代初頭を含め、以前のドルの価値の大幅な上昇の後には、最終的に急激な下落が続いた。
   しかし、為替レートは 1 年間の期間でも予測が難しい。特に地政学的な摩擦がさらに悪化した場合、ユーロと円が米ドルに対してさらに 15% 下落する可能性は十分にある。確実に言える唯一のことは、2014年に始まった主要通貨の為替レートが異常に静止した期間が、今や過去のものになったということである。

   ロゴフ教授は、これ以上踏み込まない。
   いずれにしろ、通貨の動向は、景気循環の一環であって、中央銀行や国際的金融機関、政府などが、どう足掻こうとも、その推移を見守る以外に仕方がないと言うことであろうか。

   ところで、日本経済を直撃している急激な円安だが、MIZUHOの坂本明日香さんのレポートでは、
   円安・ドル高が進む3つの要因として、①金利要因(日米金利差)、②実需要因(日本の経常収支)、③投機要因(過度な円売り)を取り上げている。
   日米金利差が今後一段と拡大し、円安・ドル高圧力になると予想、
   コロナ禍に伴う原油価格高騰や、ウクライナ侵攻による天然ガス価格高騰などの資源価格高騰を背景に、輸入金額が増加し、貿易収支の赤字幅が拡大、
   金融政策の影響を強く反映する短期金利の日米差に連動する形で、円安・ドル高が進展。引き続き日本と米国の金融政策の違いから、短期金利差拡大と連動する形で円売りが進む、
   以上から、2022年末にかけては3要因全てで円安・ドル高圧力が続くだろう。と言う。

   日本の場合は、欧米などとくらべて、インフレ率が、まだ2~3%の低率に止まっていることが救いかも知れないが、しかし、このコストプッシュによる悪性のインフレが、鳴かず飛ばずの失われた30年の日本経済に与える打撃は極めて大きい。
   貧困率が、先進国でも最悪水準に落ち込んだ日本の貧困層の救済をどうするのか。政府は殆ど無関心を装っているが、政策を誤ると日本の大切な公序良俗を痛撃する。
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都響定期C:大野和士のブラームス

2022年09月03日 | クラシック音楽・オペラ
   都響の定期公演Cで、東京芸術劇場コンサートホールに出かけた。
   コロナ以降、東京に通い続けていた能狂言や歌舞伎文楽などの古典芸能鑑賞は、全くご無沙汰してしまったが、この都響定期Cのコンサートだけは続けている。

   プログラムは、次の通り。
指揮/大野和士
ヴァイオリン/アリーナ・イブラギモヴァ

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.77
ブラームス:交響曲第2番 ニ長調 op.73

   ブラームスのバイオリン協奏曲は、四大バイオリン協奏曲としてクラシック音楽ファンにとっては、最初に聴く曲で馴染みのある音楽なので、メロディがすぐに頭を駆け巡る。
   私など、ダビッド・オイストラッフやアイザック・スターンと言った男性の老巨匠のコンサートから聞き込んだ年代であるから、最近のように、若くて溌剌とした女流バイオリニストの演奏など、夢にも想像できなかった。
   宮城道雄の伴奏をしたシュメーと言う女流の存在は知っていたが、私が、はじめてコンサートで聴いた女流バイオリニストは、カラヤンに見出されたアンネ・ゾフィー・ムターであった。
   さて、今日のソリストは、アリーナ・イブラギモヴァ
   1985年ロシア生まれ、モスクワのグネーシン音楽学校で学び、1995年には家族とともにイギリスに移住。ユーディ・メニューイン・スクールと王立音楽院で学び、クロンベルク・アカデミー・マスターズ・プログラムのメンバーとなった。と言うから、ロシアオリジンのイギリスのバイオリニストと言うことであろうか。
   バロック音楽から委嘱新作までピリオド楽器とモダン楽器の両方で演奏するアリーナ・イブラギモヴァは、その演奏の多才さ、そして「臨場感と誠実さ」(ガーディアン紙)で高い評価を確立した。と言う。
   女流には珍しいほどメリハリの効いた激しいボーイングで、実にダイナミックな演奏でありながら素晴しく美しく、観衆を魅了。

   ブラームスの交響曲は、欧米でも、第1番と第4番を聴くことが多く、第2番を聴いたことがあるのかないのか記憶がない。
   ブラームスの「田園」と言われているようだが、ベートーヴェンの「田園」とは、イメージが全く違う。
   私が感動したのは、第4楽章、
   上手く表現できないので、寺西基之氏の解説を引用すると、
   喜ばしさに満ちて前進的に運ばれるソナタ形式のフィナーレ。その推進力あるエネルギーはコーダで圧倒的なクライマックスを築き上げ、全曲は輝かしい明るさの内に締めくくられる。
   とにかく、天をつくような強烈なサウンドと凄い迫力のフィナーレ。

   大野和士氏は、指揮を終えると、左右の拳をしっかりと握りしめて会心の演奏に興奮気味で仁王立ち、
   コンサートマスターに向かって、その前も後も、肘タッチで握手代替だったのに、
   我を忘れたように素手でしっかりと握手、
   久しぶりの素晴しいブラームスの1日であった。
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