熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

映画:天井桟敷の人々 4K修復版

2022年09月26日 | 映画
   1945年 に製作・公開された名匠マルセル・カルネ監督と脚本家ジャック・プレヴェールによる フランス映画「天井桟敷の人々 Les enfants du Paradis 」が、2020年に4K修復版で75周年記念として蘇った。
   幸い、NHKの4Kで録画をしていたので、鑑賞する機会を得た。
   この映画と題名だけは、若い頃から知っていたので、観る機会を得たいと思っていて、たまたま、ロンドンに居たときに、舞台を観ることが出来た。
   騒々しい賑やかな舞台のイメージくらいが微かに残っている程度で、殆ど覚えておらず、バービカンのシェイクスピア劇場のRSCの舞台だったのか他の劇団だったのか、ウエストエンドでのミュージカルの舞台であったのか、それさえも忘れてしまっている。

   19世紀半ばのパリ、劇場が建ち並ぶ賑やかな犯罪大通りを舞台に、女芸人ガランスをめぐってさまざまな男たちが織りなす恋の鞘当て、ドロドロしたしかし鮮烈な人間模様を、第1部「犯罪大通り」、第2部「白い男」の2部構成で描く3時間に及ぶ大作。
   第2次世界大戦、ナチスドイツ占領下のフランスで、約2年の歳月と16億円の巨費をかけて製作されたと言う流石に文化国家フランスとも言うべき貴重なフィルムであり、今観ても、決して色褪せない感動的な純愛物語である。

   パントマイム芸人バチスト(ジャン=ルイ・バロー)と旬を過ぎた女芸人ガランス(アルレッティ)との純愛を軸に、女たらしのシェイクスピア俳優ルメートル(ピエール・ブラッスール)、代筆業ながら、強盗・殺人を繰りかえす犯罪詩人ラスネール(マルセル・エラン)、富豪で、社会的地位も高いモントレー伯爵(ルイ・サルー)たち一癖も二癖もある連中が、ガランスに思いを寄せて暗躍して、ドタバタ劇を演じる。

   冒頭の二人の出逢いは、
   ガランスとラスネールが、パリの犯罪大通りの「フュナンビュール座」の無言劇の客寄せ余興を楽しんでいた時に、ラスネールが、隣りの紳士から懐中時計を盗んで逃げる。ガランスが濡れ衣を着せられたのだが、盗難の一部始終を見ていた壇上の芸人・バチストがコミカルにパントマイムでそれを再現し、彼女の嫌疑を晴らす。と言うシーン。ここで、二人は、恋に落ちる。
   バローのパントマイムが秀逸であり、この映画は、若かりしバローと、熟女の妖艶で魅力的なアルレッティとのしみじみとした愛の軌跡が感動的である。

   それから数年後の第2部では、
   座長の娘ナタリー(マリア・カザレス)と結婚し一児をもうけたバチストは、フュナンビュル座の看板俳優で人気絶頂である。そのバチストを観に、毎夜お忍びで、伯爵と一緒になったガランスが、訪れている。それを知ったバチストは、舞台を抜け出し一直線にガランスに走り、再会した二人は切ない胸の内をかき口説く。
   ガランスとバチストは、かっては思いを遂げ得なかった思い出の部屋で一夜を明かし、月灯りの中ではじめて結ばれる。

   翌朝、謝肉祭の日、ラスネールはトルコ風呂屋で伯爵を刺し殺す。
   ナタリーの入れ知恵で可愛らしい子供に諭され、愛し合っていても、バチストと一緒にはなれないことを悟ったガランス。別れ際にナタリーが現れ、2人の女性はそれぞれバチストへの深い想いと苦しみを吐露し口論する。ガランスは部屋を出て、伯爵が殺されたことも知らずに決闘を止めようと馬車に乗る。バチストはナタリーを残して部屋を飛び出し、玄関にいる息子にも目もくれずガランスを追いかけて突っ走るが、カーニバルに沸く群衆に阻まれて埋もれてゆく。
   寝ても覚めても、他人と愛の交歓をしていても、ずっと念頭から離れず思い続けていたバチストとガランスの純愛が胸を締め付けて切ない。

   「天井桟敷」とは、劇場で最後方・最上階の天井に近い場所にある観客席のことで、観にくく聴きにくいので、料金が安くて、ここに詰めかける最下層の民衆とはいえ、結構通もいて鑑賞眼が冴えているので、声援や野次を飛ばす。
   歌舞伎の「大向う」と言うところであろうか。
   一寸雰囲気は違うのだが、バルセロナのリセウ大劇場で、演目は忘れたが、モンセラ・カバリエが歌うのを聴きたかったが、唯一残っていた天井桟敷の立見席を買って入場して、はるかかなたの奈落の底のソプラノを聴いたことがある。
   

   この映画は、1840年代を想定して、パリの歓楽街、劇場街を舞台にして多くの民衆達が集まって蠢く様子を、あたかもドキュメンタリー映画のように活写しており、それに、劇場の様子など克明に描写されているので、歴史的な記録としても貴重な作品になっている。
   結構、古い洋画を見続けてきたが、米国の作品とは違って、何となく、懐かしささえ覚えて、しみじみと感じながら鑑賞出来たのは、久しぶりであった。
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