
この本の冒頭で、フランシス・フクヤマの「冷戦の終結は、世界に「歴史の終わり」を齎したとする見解を否定して、
大国は互いを潜在的な軍事ライバルと考えるのを止め、世界中の国々を「国際コミュニティ」と呼ばれるような、大きな家族の一員になった、安全保障をめぐる争いや大国間の戦争が「国際システム」から消滅したと言った意見は誤りで、むしろ、大国間の永続的な平和の見込みが、既に消滅した証拠がかなりあり、大国間で起きる戦争の脅威が消えていないと説く。
大国は、自国の生き残りのためには、常に世界権力の配分を自国にとって最大化するチャンスを狙うと言う傾向があり、どの国も世界の覇権を達成できなくなってしまった以上、覇権国になると言う究極のゴールへのあくなきパワーへの要求が続くので、世界では大国同士の競争が永遠に続くと言うのである。
John J. Mearsheimer posits an almost Darwinian state of affairs: "The great powers seek to maximize their share of world power" because "having dominant power is the best means to ensure one's own survival." Mearsheimer comes from the realist school of statecraft--he calls his own brand of thinking "offensive realism"--and he warns repeatedly against putting too much faith in the goodwill of other countries.
この本の日本版の表紙には、「米中は必ず衝突する!」と表示されている。
米中の衝突を確実視し、各国の外交戦略を揺るがす、攻撃的現実主義(offensive realism)とは?と言うことだが、ここでは、今、尖閣諸島の問題で、日中関係が緊張しているので、著者の中国に対する見解に集中して論じてみたいと思っている。
多くのアメリカ人は、もし、中国の急速な経済成長が続いて「巨大な香港」へとスムーズに変化し、中国が民主的になってグローバル資本主義システムに組み込まれれば、侵略的な行動は起こさずに、北東アジアの現状維持で満足すると信じている。
もし、この政策が成功すれば、アメリカは経済的に豊かで民主的になった中国と協力して、世界中に平和を推進することが出来ると言うのである。
しかし、こうした関与政策が失敗するのは確実である。
もし、中国が世界経済のリーダーになれば、その経済力を軍事力に移行させ、北東アジアの支配に乗り出してくるのは確実であるからである。
中国が民主的で世界経済に深く組み込まれているかどうかとか、独裁制で世界経済から孤立しているかどうかとかは重要な問題ではなく、どの国家にとっても、自国の存続を最も確実にするのは、覇権国になることだからである。
勿論、周辺諸国やアメリカは黙って見過ごすわけではなく、反中国の「バランシング同盟」を結成し、中国を封じ込めようとするので、その結果、前代未聞の大陸間戦争を予感させるような、中国と反中国連盟諸国の間の安全保障/軍事面での激しい競争が起ころう。
要するに、中国の国力の増加によって、アメリカと中国は、敵同士となる運命を避けられない。
これが、著者の想定する米中関係である。
更に、著者は、中国は、北東アジアの覇権を目指すのは間違いなく、周辺諸国があえて中国に挑戦しようと言う気を起こさせない程強力な軍事力を築き、日本や韓国など周辺諸国を支配しようとすることが予測され、中国が、アメリカの外交指針となった「モンロードクトリン」のような、独立相互不干渉の対外政策を発展させることも予想され、中国もアメリカのアジア干渉を許さなくなるであろうと言う。
著者が恐れているのは、ワイマール・ドイツも、ナチスも、ソ連さえも、アメリカに対抗できる「軍事的潜在力」を持っていなかったが、もし、中国が巨大な香港になれば、恐らく、アメリカの4倍の軍事的潜在力を保有することとなり、アメリカが20世紀に直面したどの国よりも、はるかに強力で危険な「潜在的覇権国になるかも知れないと言うことである。
更に興味深い見解は、これを阻止するためには、中国の経済成長のスピードを遅くさせることで、この政策がアメリカの利益になる筈にも拘わらず、むしろ、アメリカは、中国を封じ込めるのではなくて、「もし中国が民主的に経済成長すれば、安定を求める現状維持国になり、アメリカと軍事競争しなくなる」と言うリベラル派の思想が反映されて、アメリカの外交は、関与政策を推進して、中国を世界経済に取り込んで、益々、急速な経済成長を促進させているが、このような対中政策は間違っていると言うのである。
豊かになった中国は、「現状維持国」ではなく、地域覇権を狙う「侵略的な国」になる。
どの国にとっても、自国の生き残りを最大限に確保するために最も良い方法は、地域覇権国になることであり、中国の狙うのは、北東アジアでの覇権国になることであり、これは、アメリカにとって最も起こって欲しくないことである。
しかし、もう、既に、時は、遅しだと言う。
トーマス・フリードマンが、「マクドナルドのある国同士は戦争を行わない」論を、更に、フラット化した世界では、デル・システムのようなジャスト・イン・タイム式サプライ・チェーンで密接に結合された国々の間では、旧来の脅威を駆逐(?)するので戦争など起こらないと言う「デルの紛争回避論」を展開し、マクドナルドに象徴される生活水準の全般的傾向よりも、ずっと地政学的な冒険主義を防止する効果があると説いていたが、
ミアシャイマーにとっては、経済やビジネス関係の連鎖など、平和維持には何の関係もなく、とにかく、経済大国となれば、必ず、軍事力を強化して覇権を狙う危険な国になるとする見解で、攻撃的現実主義論は、びくともしない。
私見としては、アメリカのリベラル派の見解が現実であれば良いとは思っているが、中国に関しては、私は、ミアシャイマーの見解を立証するような昨今の中国の動きを見ておれば、そして、強烈な中華思想の国であることを考えれば、今や、自信過剰になった中国が、軍事力の更なる強化と覇権追求政策を益々強化させ進行させて行くのは間違いないと感じている。
少なくとも、尖閣諸島や南沙諸島での領土紛争、あくなき経済的支配を目指した新興国や発展途上国への資源外交、対米対韓防波堤としての北への保護政策等々、いくらでも、中国の覇権国家への道標は見え隠れしていて明確であろう。
カウンターベイリング・パワーは、著者の言うアメリカを中心とした反中国バランシング同盟の構築と更なる強化だと思うので、日本の対中外交政策も、このあたりの現実主義的な対応が望まれよう。
経済的には、中国依存からの脱却と言った消極的な政策ではなくて、中国をOne of themと見做して、インドやインドネシアなどアジア諸国全体との多方面戦略を強化展開すべきであろうと思う。
中国が、経済大国だと言えども、現状では、経済規模は日本なみであり、一人当たり国民所得は日本の10分の1と言う、発展途上国であると考えるなら、日本人が一般的に考えるほど恐れるべきではないと思うのだが、
とにかく、有効な包囲網を構築して、中国パワーを封じ込める以外に、対抗策はないであろう。
私は、これまで、何回か、ビジネス上で、必ず起こり得る中国のカントリーリスクについて警告を発してきたが、民主主義国家体制ではないばかりか、国民自身も、グローバルスタンダードに民主化されておらず、共産党が法であり総てであるような一党独裁体制の国では、先進文化国で常識として通用している民主主義や市場主体の自由主義経済のグローバル・システムなりルールが、殆ど機能していないと言うことを忘れるべきではないと思っている。
大国は互いを潜在的な軍事ライバルと考えるのを止め、世界中の国々を「国際コミュニティ」と呼ばれるような、大きな家族の一員になった、安全保障をめぐる争いや大国間の戦争が「国際システム」から消滅したと言った意見は誤りで、むしろ、大国間の永続的な平和の見込みが、既に消滅した証拠がかなりあり、大国間で起きる戦争の脅威が消えていないと説く。
大国は、自国の生き残りのためには、常に世界権力の配分を自国にとって最大化するチャンスを狙うと言う傾向があり、どの国も世界の覇権を達成できなくなってしまった以上、覇権国になると言う究極のゴールへのあくなきパワーへの要求が続くので、世界では大国同士の競争が永遠に続くと言うのである。
John J. Mearsheimer posits an almost Darwinian state of affairs: "The great powers seek to maximize their share of world power" because "having dominant power is the best means to ensure one's own survival." Mearsheimer comes from the realist school of statecraft--he calls his own brand of thinking "offensive realism"--and he warns repeatedly against putting too much faith in the goodwill of other countries.
この本の日本版の表紙には、「米中は必ず衝突する!」と表示されている。
米中の衝突を確実視し、各国の外交戦略を揺るがす、攻撃的現実主義(offensive realism)とは?と言うことだが、ここでは、今、尖閣諸島の問題で、日中関係が緊張しているので、著者の中国に対する見解に集中して論じてみたいと思っている。
多くのアメリカ人は、もし、中国の急速な経済成長が続いて「巨大な香港」へとスムーズに変化し、中国が民主的になってグローバル資本主義システムに組み込まれれば、侵略的な行動は起こさずに、北東アジアの現状維持で満足すると信じている。
もし、この政策が成功すれば、アメリカは経済的に豊かで民主的になった中国と協力して、世界中に平和を推進することが出来ると言うのである。
しかし、こうした関与政策が失敗するのは確実である。
もし、中国が世界経済のリーダーになれば、その経済力を軍事力に移行させ、北東アジアの支配に乗り出してくるのは確実であるからである。
中国が民主的で世界経済に深く組み込まれているかどうかとか、独裁制で世界経済から孤立しているかどうかとかは重要な問題ではなく、どの国家にとっても、自国の存続を最も確実にするのは、覇権国になることだからである。
勿論、周辺諸国やアメリカは黙って見過ごすわけではなく、反中国の「バランシング同盟」を結成し、中国を封じ込めようとするので、その結果、前代未聞の大陸間戦争を予感させるような、中国と反中国連盟諸国の間の安全保障/軍事面での激しい競争が起ころう。
要するに、中国の国力の増加によって、アメリカと中国は、敵同士となる運命を避けられない。
これが、著者の想定する米中関係である。
更に、著者は、中国は、北東アジアの覇権を目指すのは間違いなく、周辺諸国があえて中国に挑戦しようと言う気を起こさせない程強力な軍事力を築き、日本や韓国など周辺諸国を支配しようとすることが予測され、中国が、アメリカの外交指針となった「モンロードクトリン」のような、独立相互不干渉の対外政策を発展させることも予想され、中国もアメリカのアジア干渉を許さなくなるであろうと言う。
著者が恐れているのは、ワイマール・ドイツも、ナチスも、ソ連さえも、アメリカに対抗できる「軍事的潜在力」を持っていなかったが、もし、中国が巨大な香港になれば、恐らく、アメリカの4倍の軍事的潜在力を保有することとなり、アメリカが20世紀に直面したどの国よりも、はるかに強力で危険な「潜在的覇権国になるかも知れないと言うことである。
更に興味深い見解は、これを阻止するためには、中国の経済成長のスピードを遅くさせることで、この政策がアメリカの利益になる筈にも拘わらず、むしろ、アメリカは、中国を封じ込めるのではなくて、「もし中国が民主的に経済成長すれば、安定を求める現状維持国になり、アメリカと軍事競争しなくなる」と言うリベラル派の思想が反映されて、アメリカの外交は、関与政策を推進して、中国を世界経済に取り込んで、益々、急速な経済成長を促進させているが、このような対中政策は間違っていると言うのである。
豊かになった中国は、「現状維持国」ではなく、地域覇権を狙う「侵略的な国」になる。
どの国にとっても、自国の生き残りを最大限に確保するために最も良い方法は、地域覇権国になることであり、中国の狙うのは、北東アジアでの覇権国になることであり、これは、アメリカにとって最も起こって欲しくないことである。
しかし、もう、既に、時は、遅しだと言う。
トーマス・フリードマンが、「マクドナルドのある国同士は戦争を行わない」論を、更に、フラット化した世界では、デル・システムのようなジャスト・イン・タイム式サプライ・チェーンで密接に結合された国々の間では、旧来の脅威を駆逐(?)するので戦争など起こらないと言う「デルの紛争回避論」を展開し、マクドナルドに象徴される生活水準の全般的傾向よりも、ずっと地政学的な冒険主義を防止する効果があると説いていたが、
ミアシャイマーにとっては、経済やビジネス関係の連鎖など、平和維持には何の関係もなく、とにかく、経済大国となれば、必ず、軍事力を強化して覇権を狙う危険な国になるとする見解で、攻撃的現実主義論は、びくともしない。
私見としては、アメリカのリベラル派の見解が現実であれば良いとは思っているが、中国に関しては、私は、ミアシャイマーの見解を立証するような昨今の中国の動きを見ておれば、そして、強烈な中華思想の国であることを考えれば、今や、自信過剰になった中国が、軍事力の更なる強化と覇権追求政策を益々強化させ進行させて行くのは間違いないと感じている。
少なくとも、尖閣諸島や南沙諸島での領土紛争、あくなき経済的支配を目指した新興国や発展途上国への資源外交、対米対韓防波堤としての北への保護政策等々、いくらでも、中国の覇権国家への道標は見え隠れしていて明確であろう。
カウンターベイリング・パワーは、著者の言うアメリカを中心とした反中国バランシング同盟の構築と更なる強化だと思うので、日本の対中外交政策も、このあたりの現実主義的な対応が望まれよう。
経済的には、中国依存からの脱却と言った消極的な政策ではなくて、中国をOne of themと見做して、インドやインドネシアなどアジア諸国全体との多方面戦略を強化展開すべきであろうと思う。
中国が、経済大国だと言えども、現状では、経済規模は日本なみであり、一人当たり国民所得は日本の10分の1と言う、発展途上国であると考えるなら、日本人が一般的に考えるほど恐れるべきではないと思うのだが、
とにかく、有効な包囲網を構築して、中国パワーを封じ込める以外に、対抗策はないであろう。
私は、これまで、何回か、ビジネス上で、必ず起こり得る中国のカントリーリスクについて警告を発してきたが、民主主義国家体制ではないばかりか、国民自身も、グローバルスタンダードに民主化されておらず、共産党が法であり総てであるような一党独裁体制の国では、先進文化国で常識として通用している民主主義や市場主体の自由主義経済のグローバル・システムなりルールが、殆ど機能していないと言うことを忘れるべきではないと思っている。