熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ダニ・ロドリック・・・PS:貿易戦争を回避する方法

2018年07月17日 | 政治・経済・社会
   Project Syndicateに、「グローバリゼーション・パラドックス」のダニ・ロドリック教授が、”How To Avoid a Trade War”を書いた。
   先日に引き続いて、トランプの貿易戦争に対する見解なので、考えてみたい。

   まず、
   経済学者は、より自由な貿易の被害者に過度にフォーカスすることに反対し、他方の輸出側の受益者を無視する傾向を非難する。アメリカの保護主義が、確かに、他の国と同様に、受益者を生むと言うことを無視して、同じ過ちを犯すべきではない。と言う。

   常識とビジネスと財政のエリートを無視して、トランプは、貿易戦争を仕掛けた。
   トランプの保護主義は、支持者のワーキングクラスを助けることは殆どない。
   支持してきたが不平を持った共和党議員や不幸な企業は、離反するであろうし、考えを改めるであろう。

   終末的なシナリオから離れる前に、他国のインセンティブを考えなければならない。トランプは、貿易戦争を始めたが、自分自身の戦略は何もない。貿易戦争は、他国が報復し、それがエスカレートする。やるべきではない止む負えない理由があるからである。

   と言った調子で、トランプの保護貿易政策は、間違いであって、他国の報復措置を誘発して、アメリカには何の役にも立たたない。天に向かってつばを吐いているだけだ(cut off one's nose to spite one's face )と言った表現まで使っている。
   しかし、先に紹介したクルーグマンのように、経済学的な理由付け、説明はないけれど、自明だと言うことであろう。
   
   トランプの保護主義は、現在の自傷行為以上にもっと深刻な状況を伴ったグローバル貿易戦争を引き起こす。もし、それが起これば、トランプの愚行のように、ヨーロッパと中国に計算違いと過剰反応を引き起こすであろう。と言うのだが、もう、既に、中国などの報復が始まっており、アメリカ企業を締め付けつつあると言う報道もある。
   中国もカナダもヨーロッパも、トランプの地盤を狙って報復措置を打っているので、秋の中間選挙の結果がどうなるか、興味のあるところである。

   さらに、ロドリックは続けて論じる。

   普通のシナリオでは、貿易報復は、国が低い関税から離脱する経済的理由があるときに起こる。
   典型的なケースは、1930年代の大恐慌時代で、ケインズの一般論は1936年なので、経済循環的な財政政策もなく、金本位制も機能不全であったので、
   この環境下では、保護主義は、個々の国には、需要を国内に向けたので雇用増大に導く筈だったが、すべての国が同様な保護主義政策を取ったので、国際経済は壊滅的な打撃を受けた。

   ヨーロッパと中国は、特に、自国の輸入品の国際価格の低下、あるいは、その結果のレベニューに関心を示す。
   ヨーロッパや中国や他のアメリカの貿易相手国は、保護主義のアドバンテッジを得られなければ、貿易からの収益を減らす気持ちはないので、当然、トランプ関税に反発して報復する。残りの国にとっても、これらの貿易障壁の立ち上げは、”人を陥れようとしてかえって自分が不利な目にあう”ケースとなる。a case of cutting off one’s nose to spite one’s face.
   
   ヨーロッパと中国は、WTOなど、ルールに則った多国籍貿易に従うのなら、トランプの二国間貿易に拘ることはないし、自己の方針に従えばよい。自己利益や原則が、制限となり報復の必要もなくなる。これは、ヨーロッパや中国を優位に立たせ、貿易戦争に走るのを拒否し、トランプに、自国の経済をダメにするなら自分勝手に自由にやって貰えばよい、自分たちは自分たちの良いようにすると言える。

   他の国が、過剰反応しなければ、トランプの保護主義は、それ程コストはかからないであろうが、
   トランプの貿易政策が影響を与える貿易量は、100ビリオン弗で、FTのショーン・ドーナンによると、この数字は、すぐに、1トリリオン弗になると言う。しかし、報復を入れた数字なので、未知数である。

   重要なことは、貿易より、所得や厚生。貿易量がビッグヒットしても、総経済パフォーマンスには、必ずしも、影響しない。例えば、欧米のエアラインが、ボーイングを好むかエアバスを好むかまちまちだが、両方の会社の製品が代替関係にあるのなら、経済の厚生における一般的なロスは、小さくて済む。

   特別なヨーロッパや中国の企業は、アメリカ市場がより閉鎖されるにつれて、コストの削減にはならないが、どの輸出業者も代わりの市場探しを強いられるので、他の国内企業が新しい経済機会を作り上げる必要が出てくる。アメリカとの貿易が縮小すると、アメリカの競争相手が減って競走が少なくなる。

   よく分からないところもあるのだが、雁字搦めに結合して動いているグローバル経済において、貿易で勝手な横車を押してルール違反を行なえば、システムそのものを、均衡状態から乖離させて、摩擦と不都合を来たし、要らぬ混乱を招く。
   どのようなアウトカムが出現するのか、吉と出るか凶と出るかは、分からないが、エコ・システムを平衡状態に戻すには、大変な努力と時間を要する。
   テスラも中国に工場を建て、ハーレーダビッドソンも、ヨーロッパに生産を移すなど、アメリカの虎の子産業が、トランプを見限り始めたのか、アメリカで投資を拡大するのは、トランプの太鼓持ち企業か、レッドオーシャン企業ばかり。
   死に体のラストベルトのレッドオーシャン企業の再興など不可能で、トランプの意図する製造業の雇用の拡大は、殆ど期待できないであろう。
   
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