熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

畑村洋太郎×吉川良三著「勝つための経営」2

2012年09月15日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   著者は、なぜ経営者が重要な決断が出来ないのか、組織を硬直化している「形式主義」「数量主義」「管理主義」と言った「官僚主義」や、組織全体が「中間管理職化」した成熟した日本の企業組織が危ないと説いているのだが、私は、一番大きな日本の企業の特色は、財閥や企業グループによって形成されたワンセット主義によって生まれた各業界における代表企業間の横並びの寡占競争が、良くも悪くも作用しすぎていると思っている。
   勿論、現在では、グループに関係ない企業も多くなってはいるが、欧米などと違って、とにかく、同じ業種に、沢山の競業企業が存在していて、熾烈な寡占競争を行っていることが問題で、著者は、この点に関して、リーグ戦におけるライバル企業との競争が「高品質」を齎した反面「過剰品質」を生む原因ともなり、また、国家支援を行おうにも行えず、官民一体となってグローバル競争に打って出ることが難しいと指摘している。

   カメラや家電製品を見れば分かるが、著者の言を借りれば、技術者のおごりや「つくり」の持つ現場のおごりが暴走して、消費者のニーズやウオントをそっちのけで、ライバル企業との技術競争を優先してきた結果、デジタルものづくりや新興国の参入などの激しい世界の潮流に乗り遅れてしまったと言うことであろうか。
   他者がやるからうちもやる、ミャンマーが有望だからミャンマーに出よう、などと言った、同業の動きばかりを気にした横並び意識の頭の経営者ばかりであるから、ブルー・オーシャン市場になど危なくて出れないし、先が分からない破壊的イノベーションの追及などはもってのほかと言った状態であるから、そのような経営者のメンタリティが、 野口 悠紀雄先生が言わなくても「製造業が日本を滅ぼす」と言うことになる。

   チャレンジ精神の欠如と内向き志向は深刻な問題で、豊かで成熟した巨大な市場に胡坐をかき続け得たお蔭か、特に内需型産業に強いのだが、その中でも、比較的政府の保護が厚かった農業においては、TPPやFTAに対する強硬な反対などを見ても分かるように、国際競争力を強化してグローバル競争に勝利しなければ生きて行けない日本であるにも拘わらず、その海外で稼ぐ力を益々削いで、貧しくなって行く日本で、どのように生きて行こうとするのか全く不思議である。
   農業については、地産地消を前提とした近郊農業や、品質が非常に高くて競業商品がないと言った国際競争に晒されない農産物以外は、要素価格平準化定理を持ち出すまでもなく、殆どの農産物は価格的に国際競争力を失ってしまっており、それを保護して生産を維持しようとすれば、他の経済活動に犠牲なり負担を強いることになり、トータルマイナスであり、この問題は、抜本的な構造改革を実施するとか、国策として対処する以外に方法はなかろうと思っている。

   著者たちが主張しているように、グローバルに激しい競争が行われている今日、嫌でも応でも、アメリカやEUで世界標準が決定される以上、TPPやFTAに加わって、これらの組織を通じて、日本が交渉に加わって、有利な条件を獲得すべく交渉しない限り、ジャパン・パッシングで、蚊帳の外で総てが決定されてしまう。ただでさえ、どんどん国際競争力を失いつつある大輸出企業が続出している今日、国際競争条件を決定する交渉の場から外されて、果たして日本の未来はあるのであろうか。
   バブルに浮かれた日本人の殆どは、いまだに気付いていないのだが、日本の国際的地位の低下と国際競争力の衰退は、目を覆うばかりであり、ジニ係数の悪化に見るように貧者の増加・経済格差の酷さは先進国でも突出しており、決して、安閑とはしておれない状態に至っている。

   日本は、世界市場がなければ生きては行けないが、今や、世界は、日本なくてもやって行ける。ジャパン・パッシングどころか、昨年、マイケル・オースリンが、アメリカが日本切り捨て(JAPAN DISSING)の時代に入ったとまで論じており、日本人自身が、改めて、日本の立ち位置を真剣に考えなければならなくなっていると言うことを自覚すべきであろう。

   世界中が轟音を轟かせて成長街道を驀進していた間、20年以上も失われた時代を過ごし、殆どゼロ成長で経済発展から見放された天然記念物の様な日本が、落ちぶれるのは当たり前であろう。
   しかし、痩せても枯れても「ものづくり大国日本」「輸出大国日本」の誇りと日の丸だけは下したくないと思う。
   著者が言うように、せめて、海外で頑張っている企業や人を支援することに難癖をつけ、足を引っ張るのだけは止めよう、少なくとも海外で頑張る企業、個人が活躍できるようにサポートしようと言うことは、日本人の最低限の義務であろうと思っている。
   海外で外貨を稼がない限り、一滴の石油たりとも買えないことを、悲しいかな、日本人の殆どは忘れているような気がして仕方がない。
   
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