熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ダニー・ボイル:ロンドン・オリンピック開所式模型を発表

2012年06月13日 | 海外生活と旅
   朝のNHK BS1のワールドWAVEモーニングで、BBCが、ロンドン・オリンピックのオープニング・セレモニー会場の模型を放映したと報じていた。
   この口絵写真は、その冒頭で、ダニー・ボイルが、模型を覆っていた白布を取り払って見せたところで、ロンドン・オリンピック・スタディアムが、イギリスの心地よい緑の大地に変貌するのである。
   

   ボイルのコンセプトは、私たちの住む現在と未来で、なだらかに広がるイギリスの温かくて調和の取れた田園風景の伝統イメージで、現そうととしたのだと言う。
   動物が草を食み、模型の雲から雨が降る。クリケットの試合、羊、牛、馬、畑を耕す農夫。四方には、イギリスの四つの地方を代表する花で飾った柱が立ち、一方には、野外のロックフェスティバルとダンス会場、反対側には、クラシック音楽のプロムスの観客席を設えてある。
   それに、イギリスのショウで、ユーモアがなければ誰も相手にしないので、イギリス人の誇る選りすぐりのユーモア感覚を秘めた笑いを提供するのだと言う。
   
   確かに、イギリスと言えば、ロンドンを離れて地方に向かうと、真っ先に印象的なのは、美しい田園風景であり、そして、イギリス人と付き合っていて、感心するのは、ウィットに富んだユーモア感覚で、ボイルの選択は、イギリスを最も特徴づけるキャラクターに間違いないかも知れないと思う。

   このブログでも、イギリスの風景や田園、イギリス人のガーデニング好きやイングリッシュ・ガーデンなどについて書いて来たし、賭け事好きやユーモア・センスなどのイギリス人気質についても書いて来たが、これまでのオリンピックが、モダンで最新のテクノロジーを駆使した演出やかっての歴史の栄光などをショウ化したスペクタクルなシーンで開幕することが多かったので、今度のイギリス人の選択は、正に、人間本来への回帰であり、一寸、意外ではあった。

   ところで、まず、イギリスの田園の美しさと言うことだが、あのコンスタブルの絵画で描かれている昔懐かしいイギリス風景は、今でも、イギリスの田舎に残っている。
   私は、5年間イギリスに居たので、田舎を自動車で良く走ったし、シェイクスピア劇を観るためにストラート・アポン・エイヴォンに良く通ったので、行き返り、あっちこっちを寄り道して田舎に迷い込んだり、それに、スコットランドとウェールズへは、2週間ずつくらい車で旅をしたので、結構、大都会以外のイギリスを知っている心算である。

   しかし、普通に私たちが感じている美しい田園風景は、四つに分かれている連合王国グレート・ブリテンの内のイングランドが主で、スコットランドやウェールズ、そして、北アイルランドに入ると、はるかに荒削りの自然が残っていて、大分雰囲気が違う。
   イングリッシュであったシェイクスピアの描いた森や林や田園風景は、あのドイツの黒い森のような原始を思わせるような荒々しさはなくて、随分、優しくて温かみと親しみのある雰囲気であることからも、このことが分かる。
   やはり、走っていて心地よく美しいと思ったのは、コツワルドやハリー・ポッターの農場のある湖水地方で、同じ、イングランドでも、エミリー・ブロンテのヒースの生い茂る嵐が丘の田園風景は、荒涼としていて全く雰囲気が違う。
   私は、どこか分からないような田舎を走っていて、古風でムードのあるパブや古い旅籠を見つけると、そこに潜り込んで、生ぬるくてコクのあるビールを味わいながら小休止するのを楽しみにしていた。

   この美しいイギリスの田園だが、昔から、このような風景であった訳ではなく、悪く言えば、イギリス人は、原始の荒野を切り開いて、自分好みの自然環境に訓佳してしまったのである。
   と言うよりも、七つの海を支配して、海洋王国として大英帝国を繁栄させるためには、船を造る必要があり、木を総て切ってしまったと言うか、国家の繁栄のために、森や林、山や森林を総て食べつくしてしまったと言うことで、その代わりに、自分たちの住む環境を思い通りに美しく造形したと言うことであろうか。

   イギリス人の憧れた自然風景は、ローマやギリシャなどの廃墟のある自然風景で、大陸ヨーロッパのような幾何学模様のように造形した人工的な風景は性にあわず、自然な佇まいを強調した修景庭園で、それが、変形して、今日のイングリッシュ・ガーデンに至っていると言うことでもある。
   その思いが、イングランドの田園風景に体現されているのであろうが、イングリッシュ・ガーデンもそうだが、イギリス人が最も好ましいと思えるような最も自然に近づけた自然風の風景である。

   尤も、ダニー・ボイルが意図した田園風景は、今日のイギリスのモダン社会の田園ではなく、もう少し前の、シェイクスピアや、少なくとも、ハリー・ポッターの意図した田園であろうと思う。
   ブラウニングの詩のように、良き人々が幸せに暮らしていた温もりのある心の安らぎに満ちた田園生活のあったイギリスの田舎であり、それを、今日と明日の人々の生きる世界として、現したかったのではなかろうかと思っている。
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