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熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

国家はなぜ衰退するのか (3)ソ連経済の成長失速

2013年10月29日 | 政治・経済・社会
   ダレン・アセモグル&ジェイムズ・A・ロビンソンの「国家はなぜ衰退するのか」の第五章「収奪的制度のもとでの成長」で、収奪的制度のもとでも、経済は成長するが、その成長はいずれすぐに終息して、経済は一気に沈滞してしまうと言うプロセスを、ソ連を例にして語っていて、興味深い。
   冷戦時代の最盛期には、正に、米ソの軍拡競争が激烈で、ゴスプランが功を奏したのか、ニキタ・フルシチョフが、「ソ連が、西欧諸国を葬り去る」と豪語し、ノーベル賞経済学者ポール・サミュエルソンが、あの有名なテキスト「エコノミクス」で、ソ連の来るべき経済支配を繰り返し予言するなど、ソ連の経済成長は破竹の勢いであった。が、その経済が、一気にダウンしてしまった。
   それは、何故かと言うことである。


   結論を先に記すと、ソ連が、収奪的な経済制度のもとでも急速な経済成長を達成できたのは、ボリシェヴィキが、強力な中央集権国家を築き、それを利用して資源を工業に配分したから成長したのだが、この経済プロセスは、技術的変化を特徴としていなかったが故に長続きしなかった。と言うのである。
   当時、ロシア人の殆どは地方で、原始的な農業に従事していたのだが、この労働力を、強制的に農業から成長力の高い工業へと再配分し、多大な経済的潜在能力を、一気に、暴力的に解き放ったのであるから、1928年から1960年、GDPが、年率6%で成長した。
   しかし、この急速な経済成長を実現したのは、労働力の再分配、および、新しい工作機械や工場新設などの資本蓄積で、収奪的制度のもとでは、生産性を高めるインセンティブやイノベーションを喚起することが出来ず、技術的変化を伴わなかったので、成長を持続させ得なくなり、1970年代には、成長はほぼ止まってしまったと言う。

   軍拡競争で、欧米に一気に駆け足で追いつこうとしていた当時のソ連の工業力なり産業構造は、極めて後進的で遅れていたので、国家総動員で、世界の最先端の科学技術や工業技術を導入・活用して、富国強兵を目指せたのであるから、急速な経済発展を実現できたのだが、如何せん、キャッチアップ後は、自由とインセンティブのない収奪的制度故に、イノベーションによる創造的破壊を引き起こせず、経済成長は頓挫してしまった。
   このあたりのキャッチアップ・プロセスは、ICT革命とグローバリゼーションによって、欧米日等先進国の最先端かつ最高峰の科学技術を縦横に取り込んで、経済成長を図り得た中国やインドなどの新興国の急速な発展手法と全く同じ発展過程であって、追いつくまでは成長できても、その後、持続可能なのかどうかが、問題なのである。
   その前に、「中所得国の罠」もクリアしなければならないし、新興国の将来は、中々、見通し難いのである。

   
   収奪的制度のもとで、技術的変化が続かないのは、経済的インセンティブの欠如とエリートの抵抗、そして、非効率に使われていた資源をいったん工業に再配分されてしまうと命令によって得られる経済的利益は殆ど残らないからだと言うのだが、何らインセンティブが働かなくてイノベーションを生み出せない経済が、頓挫するのは当然の成り行きであろう。
   イノベーションが生まれた唯一の分野は、軍事・航空技術で、あの人工衛星「スプートニク」や有人宇宙船ボストーク1号に乗って「地球は青かった」と言ったユーリイ・アレクセーエヴィチ・ガガーリンの快挙が、アメリカを震撼させた。あの頃が、ソ連の最盛期であって、正に、冷戦時代の比重が、共産圏に傾いたのである。
   しかし、重工業重視による「生産力至上主義」を追求し過ぎて、経済そのものの根幹を、イノベーションによって生産性を挙げて活性化出来ずに真の経済成長を実現できなかったが故に、ベルリンの壁が崩壊し、ソ連自体が空中分解して冷戦が終わった時には、ロシアの経済は崩壊寸前にまで追い込まれてしまっていたのである。

   アセモグルとロビンソンのソ連経済論は、やや、単純に過ぎるとは思うが、スターリンの強行した、
   軍事力増強のみを目標とした工業化政策を強行しながら、この産業化を後方支援する集団農業のコルホーズを推進したのだが、所詮、労働者への極端なノルマを課したスタハノフ運動や、富農クラークの絶滅や、あるいは、巨大プロジェクトに労働者を動員して過酷な強制労働を強いるなど、全土に広範な飢餓地帯を生み出した人権を蹂躙し続けた収奪的経済制度の末路を、語りたかったのであろうと思う。
   この本では、スターリンのゴスプランや経済計画が、如何に、スターリン本位で好い加減であったかを語っているのだが、いずれにしろ、計画経済制度が、インセンティブ・オリエンテッドな自由主義経済制度の軍門に下って、冷戦が終結し、グローバリゼーションの時代に突入したのも、トータルで、インセンティブのない、イノベーションを生み出せないような収奪的な政治や経済制度は、長続きせず崩壊して行くだろうと言うことであろうか。

   さて、ついでながら、中国についてだが、いずれ、近いうちに、アメリカを凌駕して世界一の経済大国になると言うのが一般的な見方だが、私は、それは有り得ず、途中で、深刻な何らかの国内問題で、中国が躓き成長が頓挫すると思っている。と、このブログに書いて来た。
   アーミテージ・ナイ・レポートにも、中国の一本調子の成長を疑問視する見解が示されていて、6つの悪魔と言う表現で、エネルギーの逼迫、悲惨な環境悪化、深刻な人口問題、国民間および地域間の所得格差の拡大、新疆とチベットの御しがたい少数民族問題、および、根深い公務員の腐敗、を指摘している。
   中国天安門広場で車が群衆に突入し炎上した事件が、新疆ウイグル自治区の農民によるテロだと言う報道もあるのだが、前述の6項目の惨状は、常軌を逸しており、経済は、自由市場主義志向であっても、国民に十分な自由がなく、共産党一党独裁による収奪的政治制度が継続する限り、前述のソ連のように経済成長が失速して行く可能性は、非常に高いと思っている。
コメント
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