熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

竹中平蔵×幸田真音著『ニッポン経済の「ここ」が危ない!』

2008年05月11日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   3時間で早わかり、最新版・わかりやすい経済教室と銘打った竹中教授と幸田さんの経済四方山対談集「ニッポン経済の「ここ」が危ない!」を読んで見たが、結構、経済のカレント・トピックスに関するユニークな提言がなされていて面白かった。
   脚注に、専門用語などの解説が併記されていて文藝春秋も気を使っているのだが、それに、いくら易しく語られていても、かなりの経済学の知識がないと二人の考え方が十分に理解出来ないのは、他の経済学書と同じ事ではある。
   冒頭の第1章 構造改革、是か非か の論点を私なりに掻い摘むと次のようになる。

   ”これだけ政治や行政が問題だらけでも、日本人に危機感が欠如しているのは、日本が恵まれており、これだけの生活が維持できるからで、それが日本の強さ。
   基本的に日本経済の最大の特徴は、デュアル・エコノミー・二重経済で、トヨタ、パナソニックのような世界に冠たる企業と、まったく国際競争力のない企業とが並存して内部移転が行われていること。
   少子高齢化、厖大な財政赤字など、日本は課題先進国で、日本人が持っている上質な文化やライフスタイルを世界に示せば、日本のプレゼンスは増す。しかし、各国は厳しいグローバル競争に打ち勝つ為に政策面で努力しているので、政策後進国になる心配がある。

   地方の疲弊や格差の拡大の原因は、「改革の影」ではなく「グローバル化の影」である。農村が農業の厳しいグローバル競争に負けた結果であって、日本の農業が立ち行く為の構造改革の推進が必須で、そのための政府の政策マーケティングにミスがあった。
   戦略は細部に宿るので、「パッション」を持った新・政策新人類と呼ぶべき能力のある政治家の誕生が望まれる。
   多くの国民が願っているのは、自民党の抵抗勢力を切り、民主党の組合勢力を切った、両方から飛び出した人々による政界再編成で、岡田さんや前原さん、安倍さんを支えた塩崎さんや菅さんなどが顔になる内閣が出来ると良い。
   
   イギリス経済の復活は、サッチャーの労働市場の開放にあった。
   しかし、日本は、正規雇用者の特権階級的な利益を守ってきた裁判所の判例に問題があり、更に、労働組合が力を持っていて、これらに保護されてきた正規雇用者による搾取が、固定費を増大させ、労働問題の歪みのしわ寄せを非正規雇用者に押しつけている。
   オランダは、雇用者全員を正規雇用にして、企業年金や厚生年金など年金制度に入れた。
   ところが、日本では、今日の制度によって既得利権を享受してきた既得権益者の要である族議員と官僚が、政治力を持っていて、執拗に改革に反対していて、年金や労働問題の解決は至難のわざとなっている。”

   この見解は、殆ど竹中教授の考え方であるが、小泉内閣の大臣当時、叩かれていたわりには、至極真っ当な理論のように思えるのは、時代が変わった所為なのであろうが、長い間に制度疲労してしまった日本の経済社会の改革が如何に難しいかを物語っていて興味深い。
   戦後経済社会の成長と拡大発展の過程で築き上げられて来た政治経済社会システムが、低成長でグローバリズムが主体となった新しい時代に対応できなくなって、むしろ、阻害抵抗要因となってしまっているにも拘らず、それを、改革出来ない悲劇的なジレンマである。
   竹中教授の経済理論は、サプライサイドの市場経済原理に立つ自由競争優位を説く考え方であるから、当然、改革革新が旨となるので、いきおい経済社会批判が厳しさを増すが、疲弊し低迷を続けている現在の日本においては、ある意味では最も必要な経済社会システムへのアプローチである。

   巨大な国債を抱えて財政赤字に苦しむ国家が、これまでには結構存在したのだが、どの国も、何の手を打つことなくもなかったにも拘わらず、解消していると言う話は、経済成長によって、多くの経済社会問題の解決を図るべきだとする竹中教授の理論的根拠を与えているようで面白い。
   厖大な国債を返済し財政赤字を解消する為には、強大な財政黒字を長い年月続けなくてはならないが、そんなことは無理で、然るべき率での経済成長を実現して、プライマリーバランスをゼロに近づけるべく赤字を減らして行けば、自然と財政赤字は改善する、と言うことで、第一次世界大戦後に厖大な国債を抱えていたイギリスが、成功裏に処理している。

   これは、毎年給料が上がっていたので、高い金利で厖大な住宅資金の融資を受けて家を買ったにも拘わらず、持ち家を確保出来た団塊の世代の経験と良く似ているようで面白いが、問題は、成長エンジンが止まってしまって、少子高齢化が進んでいる八方塞の日本が如何に経済成長を実現出来るのかと言うことであろう。
   幸田さんの指摘も非常に面白いが、次の機会に譲りたい。

   
コメント
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