熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

エイドリアン・J・スライウォツキー「大逆転の経営」を語る

2008年05月29日 | 経営・ビジネス
   スライウォツキー氏が来日し、丸善の「日経セミナー・ルーム」で、「The Upside」の出版を記念して、講演及びサイン会を開いたので出席した。
   100人足らずの聴衆で、書物の重要さを考えれば全く勿体ない感じがしたが、若い人が比較的多く、壮年以上は、経営関連事業や経営学に興味を持って勉強している人たちのようであった。
   事前に、この「大逆転の経営」を読んでいたので、非常に、スライウォツキーの論点が分かり易く、それに、多少違った側面からの説明があって興味深かった。

   経営には、多くのリスクが伴い、飛ぶ鳥を落す勢いの超優良企業でも、瞬時に急速に企業価値の失墜を来たすことが頻発する今日、その経営リスクの最たるのもは、「戦略リスク」である。
   その強烈な「戦略リスク」と言うウイルスは、技術分野に始まり、優良企業中の優良企業に、そして、最高のビジネスデザインを誇る最も優れた経営陣へと蔓延している。
   このような企業を窮地に追い込む破壊的変化を予測し、その脅威を成長機会へと転換し大逆転する技術こそ、「戦略リスクマネジメント」である。
   事前に備えることの可能な7つの戦略リスクについて、典型的な企業のケースを詳述しながら、透徹した独特な視線から、「戦略リスクマネジメント」の手法を、詳細にキメ細かく説いたのが、「大逆転の経営」である。

   この日、スライウォツキー氏が説明したのは、テクノロジー・リスク、ブランドリスク、プロジェクト・リスクとカスタマー・リスクで、トヨタとツタヤなどを例に引いた。
   「テクノロジー・リスク」については、インターネット・ブックショップのアマゾンに、最大の書店であったバーンズ&ノーブルが凌駕されてしまったケースを述べて、新しいイノベーター競争企業が新しい技術革新を導入して参入して来た場合に、それに対抗する為に、将来を見越して「ダブルベッド」策を講じて二股戦略を打つことが如何に重要かについて語った。
   B&Nの場合、インターネット・ブックショップにダブルベットしたのは、36ヵ月後で、
   マイクロスフトがグーグルに遅れたのは48ヶ月
   ソニーとマイクロソフトがiPodに遅れたのは69ヶ月
   GMがトヨタのハイブリッドに遅れたのは84ヶ月
   既に、勝負がついていて勝ち目がなく凋落するのみだと言うことである。

   「ブランドリスク」については、フォードの凋落ぶりを語った後、高級品指向へのサムスンの挑戦について語った。
   ブランド・イメージを引き上げるために、
   デザイナーをエンジニアーの上位に引き上げ、
   EU市場で新商品を出す時には旧商品を一挙に市場から引き揚げ、
   携帯電話に不具合が出た時、膨大な量の携帯電話を社員の面前で償却したり、
   イメージアップを図るため、ウォルマートでの販売を高級店に切り替えたりしたと言うのである。

   「プロジェクトリスク」については、コスト10億ドルで成功率5%以下のプロジェクトであったトヨタのハイブリッド・プロジェクトについて語った。
   プロジェクトリスクで、失敗率は非常に高い。
   新商品(食品)78%、新商品96%、 M&A60%、 ITプロジェクト76%、 VC/新ビジネスプロジェクト80%
   イノベーション指向の戦略的経営で、このプロジェクトリスクに果敢に挑戦して、ブルーオーシャンを目指す、攻撃は最大の防御であると言うことであろう。
   スライウォツキー氏のこの書物で、最も前向きの戦略である。

   「カスタマーリスク」については、ツタヤを例証していたが、カスタマー情報の収集と戦略的な活用が如何に大切かと言うことである。
   スライウォツキー氏は、これを「知識集約型ビジネス」と言う言葉で展開しているが、不確実性の領域を縮小して、予測能力を高め、マネージャーがより正確な決断を下せるように、企業固有の無数の未知を体系的に数値で示し、調査し、分析し、分類することによって、ビジネスを行う方法であると説いている。

   CCCを、トヨタやソニーと同列に扱うのはおかしいのではないかと言う聴衆からの質問に、将来伸びる成長産業に興味があり研究しているのであって、大企業だからとか有名企業だからと言うのには一切興味がないと言いながら、殆ど日本人には知られていない欧米のイノベイティブな優良企業について、鉄砲玉のように列挙して説明していたのが印象的であった。
コメント
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