熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

安野光雅:本三国志展・・・日本橋タカシマヤ

2008年05月16日 | 展覧会・展示会
   今、日本橋タカシマヤで、安野光雅:本三国志展が開かれていて賑わっている。
   随分昔から安野ファンで、結構本も持っているが、前回「安野光雅の世界展」で、丁度サイン会をしていて、写真も撮らせて貰って、この時は、平家物語に非常に興味を持ったのだが、
   今回は、三国志で、大変な数の素晴らしい中国の絵巻物が展開されていて、更に感激は大きい。

   私自身、三国志は実際には読んでいないが、色々な機会に断片的には接していて、それなりの知識は持っている心算だが、今回の安野画伯の適格な解説を読み絵を追いながら、記憶を新たにした。
   学生の頃は、三国志よりも、軟派的な「紅楼夢」や「金瓶梅」の方に興味を持って、こちらの方を読んでいた。今、日本風にアレンジした林真理子さんの凄くオープンでエロチックな「本朝金瓶梅」が出ているが、あの調子で、とにかく、毛色は違うが、中国の物語は面いのである。

   土井晩翠の漢語調で七五調の実にリズミカルな「星落秋風五丈原」が今でも脳裏に蘇る。
   「祁山悲秋の風更けて 陣雲暗き五丈原 零露の文は繁くして 草枯れ馬は肥ゆれども 蜀軍の旗光なく 鼓角の音も今しづか。 丞相病あつかりき。」
   蜀の劉備が三顧の礼を尽くして迎い入れた諸葛孔明が、この五丈言で亡くなる。重い病についての最後の戦いだが、「死せる孔明 生きる仲達を走らす」と言う伝説的な名宰相で、安野画伯は、孔明の最後の姿を、地平線にかかった北斗七星に向かって星が落ちる光景をバックに描いていて感動的である。
   車に半身を起こして座る白衣の孔明を囲んで兵士たちが三々五々沈痛な面持ちで取り巻く平原の蜀軍を暗いタッチで描いている絵だが、土井晩翠の詩の情景が浮かび上がる。

   この五丈原は、西安の東に位置し、秦嶺山脈を隔てて、今回の大地震の四川省に接している。高台で五丈原を見下ろして写生をする安野画伯の写真があったが、赤壁の戦いと共に印象深い古戦場である。

   今回の三国志の絵は、絹の国中国で買ったと言う絹地に非常に克明に、そして、丁寧に描かれているが、紙の発明者ないし改良者と言われている蔡倫の故地では、地元で買ったやや褐色の勝った蔡倫紙に描かれていたので、興味を持って見た。
   この三国志の絵には、安野画伯が中国で調達した色々な落款が押されていて、その印章が会場に展示されている。
   最後の訪問地は杭州の西湖であったようで、ここの孤山にある西冷印社は100年以上も歴史のある中国随一の芸術のメッカで、私もここで掛け軸を一幅買ったのだが、安野画伯の印章もここの作品であろう。
   この高台から西湖を見下ろせるのだが、霧にうっすらと煙る西湖の遠望は中々風情があって良い。

   とにかく、三国志ゆかりの地を実際に踏破して、歴史上の事実と血沸き肉踊る物語を芸術家としての豊かな感性で脚色しながら描かれた三国志の絵であるから、多くのストーリーを縦横無尽に語っていて興味が尽きない。
   シェイクスピアの挿絵でもそうだが、安野画伯の絵には、物語の奥深く踏み込んで把握した豊かな感性がきらりと随所に輝いていて、非常に感銘を受けることが多い。

   
   
コメント
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